書いてあること

  • 主な読者:管理会計を取り入れたい中小企業の経営者、経理担当者
  • 課題:管理会計を自社にどのように取り入れればいいのか分からない、または一度は取り入れたものの継続できない
  • 解決策:月次決算を活用し、まずは損益計算書に占める割合の大きい費用トップ3の内訳を押さえる

1 月次決算で出てきた利益が、経営者の肌感覚と一致しないのは要注意

皆さんの会社でも、月次決算を行っていると思います。月次決算を通じて、経理が月次の業績を集計し経営者に報告しているでしょう。比較的規模の小さな会社の場合には、外部の顧問税理士にお願いして毎月集計してもらっているかもしれません。

この月次決算の結果出てきた利益の金額は、経営者の肌感覚と一致していますか。もし、経営者が数字を見て首をかしげたり、質問をしてきたりするのであれば、経営者の頭の中にある数字と整合しないのかもしれません。そうであれば、管理会計の第一歩として、月次決算の結果である利益が、経営者にとって理解できるように「翻訳」することから始めましょう。

「翻訳」というのは、なぜ利益がその数字になっているのかが腑に落ちるよう、内訳を用意することだとまずは捉えてみてください。例えば、売上が思ったよりも少ないのであれば、製品種類別の売上の内訳をつくってみます。そうすることで、どの製品種類がその原因になっているのかを知ることができます。

比較的規模の小さな会社であれば、経営者も内訳をみることで「ああ、あれか」とすぐに思い当たるでしょう。少し会社の規模が大きくなってくると、経営者がそもそも詳細を把握することが難しくなります。そのため、月次決算の際に、管理会計の観点から内訳を作成することで、全体像を知ってもらう情報提供を達成できます。

2 月次決算の「見える化」から管理会計を始めよう

つまり、月次決算に管理会計を取り入れることで、「見える化」するのです。

よく会社の「業績」という言葉を聞きますが、ざっくりいえば、利益のことを意味しています。経営者は業績を自分の頭で理解し、自分の言葉で関係者に説明できる必要があります。とすると、すべての情報が利益に結びつけられることが大事です。

つまり、利益にどう影響しているのかということは、経営者にとってとても重要なのです。しかし、利益を含む会計情報を苦手とする(もしくは苦手意識を持つ)経営者はたくさんいます。そこで、同じく会計の一種である管理会計を行う上でも、ぜひ利益とのつながりを大事にするといいのです。

もっといえば、利益をより良く説明できるように管理会計を組み立てるのもいいでしょう。利益は売上や費用から計算されるわけですから、例えば、自社の製品種類別売上や、原価の内訳など利益に与える影響が大きい項目について内訳がとりやすいようにしておきます。

3 月次決算で押さえるべき3つの費用

もう少し具体的に見てみましょう。会社によって、費用の内容はさまざまですが、まずは自社の損益計算書(PL)に占める割合の多い費用トップ3つについて内訳を押さえるようにしてください。例えば、交通費の金額が大きな会社であれば、公共交通機関、タクシー、宿泊費などに分類するのもいいでしょう。もし海外出張が多いのであれば、ぜひ海外交通費を区分しておきましょう。

この分け方には、すべての会社に共通する答えはありません。自分たちのビジネスや業務を踏まえた上で、決めることが重要です。考え方としては、常日ごろ自分の会社で実際に見ている見方で区分するといいのです。

なお、利益の源泉である売上についても、内訳を押さえることはもちろん大事です。それは次回(第3回)詳しくお話ししたいと思います。

4 続けられる方法で

まずは3つの費用だけ、内訳を押さえようと言いました。おそらく「3つだけでいいの?」と思われた方もいると思います。その理由は、「初めから手を広げてしまうと、続かないから」です。

管理会計では、損益計算書(PL)以上に、会社のビジネスに近い数字を多く扱います。しかし、そうした数字を集計するのに十分な仕組みを持っていない企業はたくさんあります。はじめから力を入れて対象範囲を広げてしまうと、続けられずに途中で力尽きてしまうかもしれません。管理会計のデータというのは、ある程度の期間ためて分析・比較することで初めて意味が分かるものです。そのため、まずは対象範囲を広げずに、続けられる範囲に絞って始めると無駄がありません。

この見方は、実は通常の月次決算でも言えます。例えば、損益計算書は、複数期間を並べることで、今月の数字が過去と比べてどうなのかということや、少しずつ変化している様子が分かります。どうしても、前年との比較や予算との比較ばかりがされがちですが、せっかくの数字データは複数期間並べてみる見方を身に付けましょう。ちなみに、このような複数期間が並んだ損益計算書のことは「月次推移」と一般に呼ばれています。

5 見せ方ひとつでも結構変わる

多くの会計システムは月次推移表を自動で出力できるものがほとんどです。しかし、数字があまりに多く記載されているため、少し分かりにくいと感じる経営者もいるかもしれません。そこで、お勧めなのは、グラフにすることです。例えば、過去3年分の月次売上の棒グラフを作成してみましょう。売上であれば、この月が少ないのは〇〇があったからなどと容易に思い付くと思います。グラフにするだけで、目で感覚的に理解しやすくなるため、ビジネス上、起きたことと紐付けしやすくなるのです。

さらに、費用を分析するときに有効なのは、売上高構成比を計算することです。売上高構成比とは、各費用の金額を売上で割ったものをいいます。例えば、広告宣伝費が400万円、売上が2500万円であれば、広告宣伝費の売上高構成比は、400万円÷2500万円=16%と計算されます。費用の中には、売上が増えるとそれに比例して増えるものがあります。そのような費用が増えた理由が、売上が増えたせいなのか、それともそれ以外の理由なのかを区別するのに役立つのがこの売上高構成比なのです。

以上(2024年6月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixabay

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