書いてあること
- 主な読者:住宅を売ったことで利益が出た人、または売ることを検討している人
- 課題:住宅を売った時に、利益や損失が出たときに受けられる特例を知りたい
- 解決策:利益が出たら特別控除、軽減税率など。損失が出たら他の所得と相殺など
1 住宅を売った時や買い換えた時には、税金優遇あり
住宅を売った時や買い換えた時の金額は多額で、その年の所得税に大きな影響を与えます。納税額を減らしたり、将来に所得を繰り延べたりできる特例もあるので、利用できるものは利用したいものです。
この記事では、2023年に住宅と住宅用土地(以下「居住用財産」)を売った時や買い換えた時の、お得な特例を紹介していきます。
2 居住用財産を売って利益が出た:3000万円特別控除
1)概要
居住用財産を売った場合、譲渡所得から3000万円を控除(譲渡益の金額が限度)できます。
2)要件
売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。
- 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
- 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること
また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。ただし、この3000万円特別控除と軽減税率の特例(詳細は後述)は同時に適用を受けられます。
3 居住用財産を売って利益が出た:軽減税率の特例
1)概要
所有期間が10年を超える居住用財産を売った場合、通常(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)より低い税率(所得税・復興特別所得税10.21%、住民税4%。軽減税率という)で、所得税の納税額を計算することができます。
課税譲渡所得金額(税率を掛ける前の金額)が6000万円以下か否かで税率が違います。
1.課税譲渡所得金額が6000万円以下の場合
所得税:10.21%(復興特別所得税を含む)
住民税:4%
2.課税譲渡所得金額>6000万円の場合
- 6000万円以下の部分
所得税:10.21%(復興特別所得税を含む)
住民税:4%
- 6000万円超の部分
所得税:15.315%(復興特別所得税を含む)
住民税:5%
2)要件
売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。
- 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
- 売った年の1月1日時点の所有期間が10年を超えていること
また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。ただし、この軽減税率の特例と3000万円特別控除は同時に適用を受けられます。
4 居住用財産を買い換えた
1)概要
今まで住んでいた居住用財産を売って、新たに別の居住用財産に買い換えた場合の特例です。
売った金額が買い換えた金額より少ない場合、今まで住んでいた居住用財産を売って利益が出ても、その年には課税されません。ただし、新たに買い換えた居住用財産を将来売ったときに、まとめて計算されます(課税の繰り延べ)。
逆に、売った金額が買い換えた金額より多い場合、今まで住んでいた居住用財産を売って利益が出ても、その利益に課税されるのではなく、売った金額と買い換えた金額の差額を収入金額として譲渡所得を計算します。
2)要件
売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。
- 売った居住用財産の売却額が1億円以下であること
- 売った人の居住期間が10年以上であること
- 売った年の1月1日時点の所有期間が10年を超えていること
- 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
- 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること
また、買い換えた居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。
- 住宅の床面積が50平方メートル以上であること
- 土地の面積が500平方メートル以下であること
- 中古である場合には築後25年以内のものであること。または構造が一定の安全基準を満たしているものであること
- 以前住んでいた居住用財産を売った年か、その前年に取得している場合には、売った年の翌年12月31日までに住み始めていること
- 以前住んでいた居住用財産を売った年の翌年に取得している場合(確定申告書に一定の書類の添付が必要)には、取得した年の翌年12月31日までに住み始めていること
また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。
3)特例計算と具体例
この特例の適用を受ける場合、居住用財産の譲渡について、譲渡所得の金額と買換資産の取得価額は次のように計算します。
1.売った金額(A)が、買い換えた金額(B)より少ないケース
譲渡所得の金額=0円(譲渡はなかったものとみなす)
買換資産の取得価額=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)+(B-A)
2.売った金額(A)が、買い換えた金額(B)より多いケース
譲渡所得の金額=(A-B)-(取得費+譲渡費用)×(A-B)/A
買換資産の取得価額=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×B/A
具体例を見ながら確認しましょう。居住者であるAさんは、2023年1月に自己所有の住宅を1000万円、その土地を5000万円で売りました。売るための諸費用(以下「譲渡費用」)は100万円でした。
この住宅と土地は、Aさんが2005年に取得してから住み続けていたもので、取得したときの購入代金や購入手数料の合計額(以下「取得費」。住宅の場合は、合計額から所有期間の減価償却費相当額を差し引いた金額)は住宅が700万円で、土地が2200万円です。
Aさんは、上記の売った代金と自己資金で新たに土地(面積250平方メートル)を取得し、その上に新築の住宅(床面積150平方メートル)に買い換え、2023年2月から住み始めています。
売った年の1月1日における所有期間が10年を超え、また居住期間が10年以上である居住用財産を売り、要件を満たす居住用財産を新たに取得し居住の用に供しているため、特例の適用を受けることができます。
その場合の譲渡所得の金額と買い換えた居住用財産の取得価額は、次のように計算されます。
1.売った金額が、買い換えた金額より少ないケース(買い換えた居住用財産の取得価額が住宅3000万円、土地4000万円である場合)
- 譲渡所得の金額
イ.1000万円+5000万円=6000万円
ロ.3000万円+4000万円=7000万円
ハ.イ.≦ロ.
∴譲渡はなかったものとされます(譲渡所得ゼロ)
- 買い換えた居住用財産の取得価額(将来の売却時に使うもの)
(700万円+2200万円+100万円)+(7000万円-6000万円)=4000万円
将来の譲渡時にまとめて課税するために、今回売った居住用財産の取得費・譲渡費用(700万円+2200万円+100万円)を買い換えた居住用財産に引き継がせます。また、取得価額は、売った居住用財産の対価を超える部分(7000万円-6000万円=1000万円)しか認識しません。
2.売った金額が、買い換えた金額より多いケース(買換資産の取得価額が住宅2000万円、土地3000万円である場合)
- 譲渡所得の金額
イ.1000万円+5000万円=6000万円
ロ.2000万円+3000万円=5000万円
ハ.イ.>ロ.
- 収入金額
6000万円-5000万円=1000万円
- 収入金額から控除できる取得費および譲渡費用
(700万円+2200万円+100万円)×(6000万円-5000万円)/6000万円
=500万円
- 譲渡所得の金額
収入金額1000万円-取得費および譲渡費用500万円=500万円
- 買換資産の取得価額
(700万円+2200万円+100万円)×5000万円/6000万円=2500万円
買い換えた居住用財産の取得価額を超える部分のみが課税されます。この場合、譲渡資産の取得費と譲渡費用が今回の譲渡について計上する部分と買換資産に引き継がせる部分とに按分されます。
5 居住用財産を売って損失が出た
1)概要
居住用財産を売ったときの所得は、他の所得と合算できません(分離課税)。そのため、本来は損失が出ても他の所得の黒字と相殺(損益通算)できないのですが、居住用財産を売って損失が出た場合は、要件を満たすことで損益通算できます。また、損失が大きすぎて、1年分の他の所得では相殺しきれない場合、翌年以後3年間で相殺できます(以下「繰越控除」)。
この特例は、
- 居住用財産を買い換え、その買い換えのために住宅ローンを組んだ場合(居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の特例)
- 居住用財産を売った金額以上の住宅ローンの残高がある場合(特定居住用財産の譲渡損失の特例)
に認められます。なお、居住用財産を売った金額以上の住宅ローンの残高がある場合、損益通算できる金額には限度額があります。
損益通算の限度額=住宅借入金の残高-譲渡資産の譲渡対価の額
2)適用:居住用財産を買い換え、その買い換えのために住宅ローンを組んだ場合
1.売った居住用財産と買い換えた居住用財産の要件
まず、売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。
- 売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えていること
- 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
- 土地だけの場合、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること
買い換えた居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。
- 住宅の床面積が50平方メートル以上であること
- 売った年、またはその前年に買い換えたものであること。または、売った年の翌年中に取得する見込みであること
- 買い換えた居住用財産を取得した年の12月31日時点に、償還期間が10年以上の住宅ローン(買い換えた居住用財産に係るもの)の残高があること
- 以前住んでいた居住用財産を売った年の翌年12月31日までに住み始めていること。または、住み始める見込みであること。
2.売った相手が配偶者などではない
売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。
3.その年分の合計所得金額が3000万円以下
合計所得金額(給与所得など他の所得も合わせた所得の合計額)が、3000万円を超えてはいけません。
4.直近3年間に居住用財産に係る他の特例を受けていない
売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。
5.売った年の前年以前3年内に、この特例を受けていない
売った年の前年以前3年内の年に生じた他の居住用財産の譲渡損失の金額について、この特例(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の特例)を受けていてはいけません。
3)適用:居住用財産を売った金額以上の住宅ローンの残高がある場合
1.売った居住用財産の要件
売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。
- 売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えていること
- 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
- 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること
- 売った居住用財産の売買契約日の前日において、償還期間が10年以上の住宅ローン(売った居住用財産に係るもの)の残高があること
2.売った金額が、住宅ローン残高を下回る
売った金額が、売買契約日の前日における住宅ローン残高を下回っている必要があります。
3.売った相手が配偶者などではない
売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。
4.その年分の合計所得金額が3000万円以下
合計所得金額(給与所得など他の所得も合わせた所得の合計額)が、3000万円を超えてはいけません。
5.直近3年間に居住用財産に係る他の特例を受けていない
売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。
6.売った年の前年以前3年内に、この特例を受けていない
売った年の前年以前3年内の年に生じた他の居住用財産の譲渡損失の金額について、この特例(特定居住用財産の譲渡損失の特例)を受けていてはいけません。
以上(2023年12月更新)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)
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