書いてあること
- 主な読者:副業解禁などにより所得税の確定申告が必要になった人、なりそうな人
- 課題:これまでは会社が源泉徴収してくれていたので、確定申告のイメージがわかない
- 解決策:所得は10種類で、他と総合するものと、分離するものとがある。所得控除もある
1 給与所得者も確定申告が必要な時代?
個人事業主やフリーランスにとって、所得税の確定申告は面倒な作業です。近年は副業や仮想通貨の取引などによって給料以外の所得を得る人が増え、給与所得者でも確定申告が必要なケースが増えているようです。原則として、給与所得者は源泉徴収と年末調整によって確定申告は不要ですが、
- 2カ所以上から給与等の支払いを受けている一定の人
- 給与所得、退職所得以外の所得(副業などの所得)が20万円を超える人
- 給与等の年収が2000万円を超える人
などの場合は確定申告が必要です。
働き方改革など時代の変化によって、必要な知識も変わってきます。このシリーズでは、所得税の基本について紹介していきます。
2 課税の対象となる「所得」は10種類
所得税とは、1年間(1月1日から12月31日)の個人の所得にかかる税金(法人の所得については法人税)です。納税者が自分で1年間の所得とその税額を計算し、原則として、翌年2月16日から3月15日(15日が土日祝日の場合は翌日)までの間に税務署に確定申告をして納税します。これを申告納税方式といいます。
所得は次の10種類に区分して計算します。
- 利子所得:銀行預金の利子収入などに係る所得
- 配当所得:株式の配当金収入などに係る所得
- 不動産所得:貸家や土地の賃貸料収入に係る所得
- 事業所得:個人事業に係る所得
- 給与所得:給料や賞与に係る所得
- 退職所得:退職金収入に係る所得
- 山林所得:所有期間が5年を超える山林の売却に係る所得
- 譲渡所得:土地、建物、株式等、書画、骨董品などの資産の売却に係る所得
- 一時所得:クイズの賞金収入や生命保険の満期保険金などに係る所得
- 雑所得:年金収入など他の所得のいずれにも該当しない所得
以降では、所得税の計算フローを4つのステップで紹介します。
3 第1ステップ:各種所得の金額の計算
所得を10種類に分類してそれぞれの金額を計算します。この記事では、各種所得の計算式だけを紹介しています。
1)利子所得
イ.利子所得の金額(預貯金や公社債などの利子の額)
2)配当所得
イ.収入金額(株式の配当など)
ロ.負債の利子(借入金により取得した株式などについて、その借入金利子)
ハ.イ-ロ=配当所得の金額
3)不動産所得
イ.総収入金額(家賃収入、地代収入など)
ロ.必要経費(固定資産税、管理費、減価償却費など)
ハ.イ-ロ=不動産所得の金額
4)事業所得
イ.総収入金額(売上高、雑収入など)
ロ.必要経費(売上原価、販売費、一般管理費など)
ハ.イ-ロ=事業所得の金額
5)給与所得
イ.収入金額(給料や賞与の額)
ロ.給与所得控除額(収入金額に応じ一定の額を計算)
ハ.イ-ロ=給与所得の金額
6)退職所得
イ.収入金額(退職金の額)
ロ.退職所得控除額(勤続年数に応じ一定の額を計算)
ハ.(イ-ロ)×1/2=退職所得の金額
特定役員退職手当等に該当する場合は、2分の1を乗じません。特定役員退職手当等とは、勤務年数が5年以下の役員等に支払われる退職金をいいます。
また、2022年1月1日以降に、役員等でない、勤続年数5年以下の社員に支給された退職金(短期退職手当等)で、短期退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額が300万円を超える部分については、2分の1を乗じることができないようになりました。
7)山林所得
イ.総収入金額(山林の売却収入など)
ロ.必要経費(植林費、育成費、管理費、伐採費、譲渡費用など)
ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)
ニ.イ-ロ-ハ=山林所得の金額
8)譲渡所得
イ.譲渡(総)収入金額(土地・建物、株式等の売却金額)
ロ.取得費+譲渡費用
ハ.特別控除額(分離課税となるものを除き、「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)
ニ.イ-ロ-ハ=譲渡所得の金額
9)一時所得
イ.総収入金額(クイズの賞金収入や保険金収入)
ロ.支出した金額(イの収入を得るために直接要した金額)
ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)
ニ.イ-ロ-ハ=一時所得の金額
10)雑所得
イ.公的年金等の所得
a.収入金額(公的年金等の額)
b.公的年金等控除額(受給者の年齢と収入金額に応じ一定の額を計算)
c.a-b=公的年金等の所得
ロ.公的年金等以外の所得
a.総収入金額(生命保険の年金などの額)
b.必要経費(ロに係る費用を計上)
c.a-b=公的年金等以外の所得
ハ.イ+ロ=雑所得の金額
4 第2ステップ:「課税標準」の計算
1)総合課税
各種所得のうち、次の総合課税の対象となる所得の金額を合算します。
利子所得(一部除く)、配当所得(一部除く)、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得、一時所得、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)
なお、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)は、譲渡資産の所有期間が5年以下なら「総合短期譲渡所得」、5年超なら「総合長期譲渡所得」となります。そして、この総合長期譲渡所得と一時所得は、その2分の1を合算します。
2)分離課税
各種所得のうち、分離課税の対象となるのは次の通りです。
退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物、株式等の譲渡)、利子所得(特定公社債等の申告分離課税を選択したもの)、配当所得(上場株式等の申告分離課税を選択したもの)
退職所得と山林所得は、それぞれ「退職所得金額」「山林所得金額」という別個の課税標準とされます。
譲渡所得のうち土地・建物等に係るものは、譲渡資産を譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら「分離短期譲渡所得」、5年超なら「分離長期譲渡所得」となり、それぞれ「短期譲渡所得の金額」「長期譲渡所得の金額」という別個の課税標準とされます。また、譲渡所得のうち株式等に係るものについては、「株式等に係る譲渡所得等の金額」という別個の課税標準とされます。
利子所得は、ほとんどが利子の支払いを受ける際、所得税等が源泉徴収されて課税が完結する源泉分離課税とされています。
3)損益通算:赤字と黒字の相殺
不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つが赤字(損失の金額)の場合、一定の順序で他の黒字の所得と損益通算(相殺)できます。ただし、次の譲渡所得は損益通算できません。
- ヨットやグランドピアノなど、生活に通常必要ない資産を売却した場合の赤字
- 土地・建物等(一定の居住用財産を除く)を売却した場合の赤字
- 株式等を売却した場合の赤字(上場株式等の譲渡損は、上場株式等に係る配当所得と損益通算ができる)
4)純損失の繰越控除
損益通算してもなお通算し切れない赤字を「純損失の金額」といい、翌年以降3年間の繰越控除が認められます。
5 第3ステップ:課税所得金額の計算
第2ステップの課税標準から所得控除額を控除して、「課税所得金額」を計算します。所得控除には次の15種類があります。
- 雑損控除:災害により住宅や家財に多大な損害を受けた場合など
- 医療費控除:原則として10万円超の医療費を支払った場合
- 社会保険料控除:健康保険料、厚生年金保険料、国民年金保険料等を支払った場合
- 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済制度の掛金、個人型年金加入者掛金等を支払った場合
- 生命保険料控除:生命保険料や個人年金保険料、介護医療保険料を支払った場合
- 地震保険料控除:地震保険料を支払った場合
- 寄附金控除:国、地方公共団体、一定の公益法人等に寄附金を支払った場合
- 配偶者控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円以下である場合
- 配偶者特別控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下である場合
- 扶養控除:扶養親族(一定年齢の同一生計の親族等で合計所得金額が48万円以下)を有する場合
- 障害者控除:本人または一定の親族等が障害者である場合
- 寡婦控除:本人が寡婦(配偶者と死別等をした一定の女性)で、合計所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合など
- ひとり親控除:一定のひとり親で合計所得金額が48万円以下の子供がいる場合
- 勤労学生控除:本人が勤労学生(働きながら学校に通う一定の者)である場合
- 基礎控除:全ての人に基礎控除が認められているが、合計所得金額が2500万円を超える人は適用対象外
6 第4ステップ:納付税額の計算
1)算出税額の計算
課税所得金額には、総合課税される「課税総所得金額」と分離課税される「課税短期譲渡所得金額」「課税長期譲渡所得金額」「株式に係る課税譲渡所得等の金額」「課税山林所得金額」「課税退職所得金額」などがあります。
課税総所得金額と所得税額の速算表は次の通りです。課税所得金額の大きさに応じて適用される超過累進税率により、所得税額が計算されます。超過累進税率とは、所得が高くなるほど税率が高くなる仕組みで、今の税率は5%~45%の7段階に区分されています。
一方、分離課税される各課税所得については、それぞれに適用される税率で所得税額が計算されます。
2)税額控除額の控除
配当控除や住宅借入金等特別控除などの税額控除額を算出税額から控除します。
配当控除は、配当所得がある場合に、法人税と所得税の二重課税を調整するために設けられています。また、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、住宅をローンで購入し、一定の要件を満たした場合に認められるもので、住宅政策の一環として設けられています。
3)源泉徴収税額の控除
配当金や給料などの支払いを受ける場合、受取額からあらかじめ所得税が天引きされます。天引きされる所得税を源泉徴収税額といいます。天引きされた所得税は、前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。
4)予定納税額の控除
予定納税とは、税額の前払制度のことです。前年に確定申告をして税金を納めた一定の者は、その納めた税額を基礎に7月(第1期)と11月(第2期)に、一定の前払税金を納めることが義務付けられています。予定納税額は前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。
5)納付税額の計算
納付税額の計算式は次の通りです。また、分離課税による所得がある場合には、それぞれ算出した税額を合算します。こうして、第3期納付税額を翌年2月16日から3月15日までに確定申告をするとともに、国に納めることとなります。
- 課税所得金額等(千円未満切り捨て)×超過累進税率等=算出税額
- 算出税額-税額控除額-源泉徴収税額=申告納税額(百円未満切り捨て)
- 申告納税額-予定納税額=第3期納付税額
6)復興特別所得税
2013年から2037年まで、復興特別所得税として、基準所得税額の2.1%が追加課税されます。
- 基準所得税額=所得税額-所得税から差し引かれる金額(住宅借入金等特別控除等)
以上(2023年12月更新)
(監修 税理士 石田和也)
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