書いてあること
- 主な読者:副業などにより所得税の確定申告が必要になった人、なりそうな人
- 課題:「分離課税・総合課税」「損益通算」などの内容が難解で分かりにくい
- 解決策:個別に税率が決まるものと合算し税率が決まるもの、赤字と黒字を相殺できるものとできないものがある
1 分かりにくい「分離課税・総合課税」「損益通算」
所得税の計算で重要なのは「分離課税・総合課税」「損益通算」です。所得税は、所得を10種類に区分して計算しますが、合算できる所得と合算できない所得などがあって、
所得ごとの課税方法(分離課税か総合課税)や、赤字が出た場合の取り扱い(損益通算)
が複雑です。そこで、この記事では分離課税と総合課税、損益通算について説明していきます。
2 所得の種類で異なる「分離課税」と「総合課税」
1)分離課税
分離課税とは、
他の所得と合算せず、それぞれの所得単独で課税標準(所得税計算のベースとなる金額)を計算する方法
です。所得税は、所得が高くなるほど高い税率が適用される超過累進課税が採用されているのですが、分離課税だと適用される税率が一定もしくは低くなります。
分離課税の対象となる所得は全部で7つです。どのようなモノ・サービスにかかるかでも課税方法が異なります。
1.退職所得
退職所得は、退職したときに一時に受け取る所得です。他の所得と合算せずに税額計算をすることで、低い税率により分離課税されます。
2.山林所得
山林所得は、山林の伐採や譲渡による所得です。上記の退職所得と同様に、他の所得と合算をしないで税額計算をすることにより、低い税率により分離課税されます。
3.分離短期譲渡所得
分離短期譲渡所得は、譲渡年の1月1日時点の所有期間が5年以下の土地・建物の譲渡による所得です。この所得は、以前は短期間で土地等を転売することによる土地の高騰を防ぐために、高い税率により課税されていましたが、現在は所得税・復興特別所得税30.63%、住民税9%により分離課税されます。
4.分離長期譲渡所得
分離長期譲渡所得は、譲渡年の1月1日時点の所有期間が5年超の土地・建物の譲渡による所得です。この所得は、所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%により分離課税されます。
5.株式等の譲渡に係る譲渡所得
株式等の譲渡に係る譲渡所得は、株式等の譲渡による所得です。株式等には、株式や社債、国債や投資信託の受益権などの金融商品が含まれます。この所得は、所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%により分離課税されます。2016年から「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等(上場株式等以外の株式)に係る譲渡所得等の金額」という別個の課税標準とされています。
6.先物取引に係る雑所得等
先物取引に係る雑所得等は、外国為替証拠金取引(いわゆるFX取引)などの一定の先物取引の差金等決済による所得で、事業所得の金額、譲渡所得の金額、雑所得の金額の合計額となります。他の所得と区分し、所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%により分離課税とされます。
7.源泉分離課税
通常の利子所得、配当所得の一部については、その支払いを受ける際、一定の金額が源泉徴収されます。これらについては、その源泉徴収だけで納税が完結する源泉分離課税とされ、他の所得と合算をせず、確定申告の必要もありません。
2)総合課税
総合課税とは、
分離課税以外の所得について、課税標準の計算上合算し、「総所得金額」とする方法
です。また、「総合長期譲渡所得」と「一時所得」については、2分の1相当額を総所得金額に計上します。なお、総合長期譲渡所得とは、所有期間が5年超の資産(土地・建物や株式以外の資産)の譲渡による所得をいいます。
3)所得計算の具体例
2023年分の個人所得が次の通りである場合で見てみましょう。
2023年分の課税標準の計算は次の通りです。なお、利子所得の金額は原則として源泉分離課税のため計算に含める必要はありません。
- 総所得金額
=150,000円(配当所得の金額)+6,458,000円(事業所得の金額)+400,000円(総合短期譲渡所得の金額)+780,000円(総合長期譲渡所得の金額)×1/2+250,000円(一時所得の金額)×1/2+70,000円(雑所得の金額)
=7,593,000円 - 分離長期譲渡所得の金額=5,733,000円
3 赤字の所得が出たら、黒字の所得と相殺する「損益通算」
1)損益通算とは
損益通算とは、赤字の所得と黒字の所得の相殺(通算)です。ただし、損益通算が認められる所得は限定されています。具体的には、不動産所得、事業所得、山林所得および譲渡所得(総合課税される一定の譲渡所得のみ)の4つです。
また、損益通算しても相殺しきれない赤字を「純損失の金額」といい、一定の要件の下に翌年以後3年内に繰り越すことができます。純損失の繰越控除は、被災事業用資産の損失など白色申告者にも適用される場合を除き、青色申告者の特典です。
2)具体例
2023年分の個人所得が次の通りである場合で見てみましょう。
2023年分の課税標準の計算は次の通りです。なお、利子所得の金額は原則として源泉分離課税のため計算に含める必要はありません。
1.損益通算
不動産所得の損失は、譲渡所得と一時所得を含めない経常所得(配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得)の中で損益通算をします。
230,000円(配当所得の金額)+4,891,000円(給与所得の金額)
-600,000円(不動産所得の金額)
=4,521,000円
譲渡所得の損失は、まず譲渡所得の中で損益通算をして、それで通算しきれないときは一時所得と通算します。分離長期譲渡所得の金額は、損益通算の対象となりません。
640,000円(総合長期譲渡所得の金額)-110,000円(総合短期譲渡所得の金額)
=530,000円
2.課税標準の金額
総所得金額の算出に当たり、総合長期譲渡所得の金額と一時所得の金額は、損益通算の後に2分の1を乗じます。
総所得金額=4,521,000円+530,000円×1/2+140,000円×1/2=4,856,000円
4 損益通算の例外
1)生活に通常必要でない資産の譲渡損について
本来、総合課税される譲渡所得の損失は損益通算の対象となりますが、生活に通常必要でない資産(時価30万円を超える宝石、書画、骨董品、美術工芸品、会員権など)の譲渡損は、損益通算できません。
2)不動産所得の損失について
不動産所得の損失は、本来損益通算の対象となりますが、その損失のうち「土地を取得するための借入金の利子」などに相当する金額は、損益通算できません。
3)上場株式等の譲渡損と配当所得について
上場株式等に係る配当等について申告分離課税を選択した場合には、上場株式等の譲渡損を上場株式等に係る配当所得と損益通算できます。
4)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除について
2023年12月31日までに旧居宅を売却して新たに新居宅を購入し、旧居宅の譲渡による損失が生じた場合です。一定の要件(所有期間が5年を超えることなど)を満たしたら、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得と損益通算できます。さらに、損益通算しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰越控除できます。
5)特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除について
2023年12月31日までに住宅ローンのある居宅を住宅ローンの残高を下回る価額で売却し、譲渡損失が生じた場合です。一定の要件(所有期間が5年を超えることなど)を満たしたら、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得と損益通算できます。さらに、損益通算しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰越控除できます。
以上(2023年12月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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画像:unsplash