書いてあること
- 主な読者:所得税の負担を減らすために「所得控除」について確認したい人
- 課題:所得控除は種類が多く計算も複雑なのでとっつきにくい
- 解決策:所得控除は15種類ある。自身に適用されそうなものから確認する
1 見逃していませんか? 自分が受けられる所得控除
所得税の計算のベースとなる「所得」から控除できる「所得控除」を使うと、所得税の負担は減ります。所得控除は15種類で、その内容は、
- 物的所得控除:医療費や保険料など特定の支払いなどが対象
- 人的所得控除:家族構成や個人の状況が対象
に大別されます。
物的所得控除と人的所得控除いずれも、対象となる親族や支払いについて、どの時点の状況で判断するかがポイントとなります。
物的所得控除における同一生計親族(生活費の出どころが同じ親族。詳細は後述)への支出の判定は、原則として、該当事由が発生した時または支払い時の現況で行います。例えば、親族に係る医療費を支払った場合、受診時または医療費の支払い時のどちらかの時点で、その親族が同一生計であるならば、医療費控除の対象となります。
人的所得控除における配偶者や親族の年齢の判定、同一生計であるかまたは障害者であるかの判定などは、原則として、その年の12月31日の現況で行います。
いずれにしても、所得控除は種類が多く、税制改正も頻繁なので見逃してしまったり、分かっていても計算が面倒なので無視してしまったりする人も少なくありません。しかし、これはもったいないことです。この記事で15種類の所得控除を分かりやすく説明しますので、確認してみてください。
2 物的所得控除について説明
1)雑損控除
1.適用要件
雑損控除は、納税者本人や同一生計親族(総所得金額等が48万円以下の者に限る)が持っている「生活に通常必要な資産」について、災害・盗難・横領による損失が生じた場合に適用できます。ただし、詐欺、強迫による損失や保証債務の履行による損失などは適用対象外です。
同一生計親族とは、同じ家屋に住んでいる場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められるケース(例:二世帯住宅)を除いて、同一生計とされます。また、日常生活を共にしていなくても、単身赴任の場合や生活費の送金が行われている場合(仕送り学生など)も、同一生計とされます。
生活に通常必要な資産とは、居住用家屋、家財、衣類、現金、時価30万円以下の宝石・書画・骨董品などです。
2.控除額
イ.損失の金額:被害直前の時価-被害直後の時価-保険金等の額+後片付け費用等
ロ.足切限度額:総所得金額等×10%
ハ.イ.-ロ.=雑損控除額
なお、損害を受けた資産が減価償却資産(減価償却の対象となる資産)である場合、上記イ.損失の金額を、次の算式により計算した金額とすることができます。
損失の金額=取得価額から減価償却累積相当額を控除した金額-被害直後の時価-保険金等の額+後片付け費用等
また、損失の金額のうち災害関連支出の金額がある場合には、「雑損控除額」と「災害関連支出の金額-5万円」のいずれか多いほうの金額が控除額となります。
2)医療費控除
1.適用要件
納税者本人または同一生計親族の医療費を支払った場合に適用できます。同一生計親族に所得要件はありません。また、未払いの医療費は対象となりません(実際に支払った日の属する年分の医療費となります)が、クレジットカードにて医療費を支払ったときは、そのカードを決済した日において医療費の額に含めることになります。
2.控除額
イ.支払った医療費の額-医療費を補填する保険金等の額
ロ.10万円(総所得金額等が200万円未満の場合には、「総所得金額等の合計額×5%」)
ハ.イ.-ロ.=医療費控除額(200万円限度)
3.医療費控除の対象となるものの具体例
- 医師、歯科医師に対する医療費
- 薬局からの医薬品の購入費
- 病院等への通院費(電車・バスなど)
- 入院費用(部屋代、食事代など)
- あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師に対する施術費
4.医療費控除の対象とならないものの具体例
- 人間ドックや健康診断のための費用(一定の例外を除く)
- 美容整形手術のための費用
- ドリンク剤、ビタミン剤などの購入費用
- 医師や看護師に対する謝礼
- 差額ベッド代(一定の例外を除く)、診断書作成料
- メガネ(一定の治療用を除く)、コンタクトの購入費用
5.セルフメディケーション税制
納税者本人または同一生計親族が特定一般用医薬品等(ドラッグストアなどの領収書に★マークや但書などがされているもの)を購入し、かつ、その年中に健康の保持増進・疾病の予防への取り組みとして、一定の健康診断や予防接種などを行っているときに受けられる医療費控除です。
その年中の特定一般用医薬品等の購入費の合計額のうち、1万2000円を超える部分の金額(8万8000円を限度)が控除の対象です。ただし、上記1.~4.の医療費控除との併用はできません。
3)社会保険料控除
1.適用要件
納税者本人または同一生計親族の社会保険料を支払った場合に適用できます。社会保険料の範囲は、健康保険料、国民健康保険料、介護保険料、雇用保険料、国民年金保険料、厚生年金保険料などです。給与などから控除される場合を含み、未払いの社会保険料は対象となりません。
2.控除額
支払った金額
4)小規模企業共済等掛金控除
1.適用要件
小規模企業共済等掛金を支払った場合に適用できます。小規模企業共済等掛金の範囲は、小規模企業共済法の共済契約の掛金、確定拠出年金法の個人型年金加入者掛金、心身障害者扶養共済制度の掛金です。未払いの小規模企業共済等掛金は対象となりません。
2.控除額
支払った金額
5)生命保険料控除
1.適用要件
一般生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料を支払った場合に適用できます。ただし、保険金受取人は納税者本人または親族とするものに限り、年金受取人は納税者本人または配偶者とするものに限ります。未払いの保険料は対象となりません。
2.控除額
生命保険料の控除額は次の通りです。
旧契約分と新契約分の両方を適用する場合、旧契約分と新契約分のそれぞれの計算を行い、控除額を合算しますが、一般生命保険料と個人年金保険料の控除額の上限はそれぞれ5万円となります。
また、一般生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料の3つを合わせた控除額の上限は12万円です。
6)地震保険料控除
1.適用要件
納税者本人または同一生計親族の、居住用家屋や家財の地震などによる損害を保険目的とする地震保険料を支払った場合に適用されます。地震などによる損害とは、地震・噴火・津波を直接の原因とする火災、損壊、埋没、流失によるものをいいます。未払いの保険料は対象となりません。また、旧長期損害保険契約の損害保険料も地震保険料控除の対象となります。
2.控除額
支払った金額(地震保険の場合は、5万円限度。旧損害保険契約(2006年12月31日以前の契約で一定の損害保険)の場合は、1万5000円限度)
7)寄附金控除
1.適用要件
特定寄附金を支払った場合に適用されます。特定寄附金の具体例は次の通りです。未払いの寄附金は対象となりません。
- 国または地方公共団体に対する寄附金
- 公益社団法人、公益財団法人等に対する寄附金のうち財務大臣が指定したもの
- 日本学生支援機構・日本赤十字社・社会福祉法人・学校法人等に対する寄附金(学校の入学に関するものは除く)
- 認定特定非営利活動法人に対する寄附金
- 政党等に対する寄附金で、公職選挙法または政治資金規正法により報告されたもの
- 特定新規中小会社への払い込みにより取得した株式の取得金額(エンジェル税制、限度額800万円)
2.控除額
特定寄附金の額(総所得金額等の合計額×40%を限度)-2000円=寄附金控除額
3 人的所得控除について説明
1)障害者控除
1.適用要件
納税者本人、同一生計配偶者や扶養親族が障害者である場合に適用できます。同一生計配偶者とは同一生計の配偶者のうち、合計所得金額が48万円以下である人をいいます。扶養親族とは同一生計の親族等(配偶者を除く)のうち、合計所得金額が48万円以下である人をいいます。障害者とは、障害者手帳の交付を受けているなど精神または身体に障害がある一定の人をいいます。
2.控除額
1人につき27万円(特別障害者は40万円、特別障害者で同居の同一生計配偶者または扶養親族がいる場合は75万円)。なお、特別障害者の具体例は次の通りです。
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある人
- 身体障害者手帳に1級または2級の記載がある人
- 常に就床を要し、複雑な介護を要する人
2)ひとり親控除
1.適用要件
納税者本人がひとり親である場合に適用されます。
2.ひとり親の意義(次の要件の全てに該当する人をいう)
- 夫または妻と死別または離婚しているか生死不明、または未婚である人(事実婚の人を除く)
- 総所得金額等が48万円以下である同一生計の子がいる人
- 納税者本人の合計所得金額が500万円以下である人
3.控除額
35万円
3)寡婦控除
1.適用要件
納税者本人が寡婦である場合に適用されます。上記2)のひとり親に該当しない女性で、一定の要件に該当する人が対象です。ひとり親控除と混同されやすいですが、大きな違いは、
寡婦控除が過去に結婚をしていることを前提としている一方、ひとり親控除は結婚の有無を前提としていない点や、寡婦控除は女性のみが対象ですが、ひとり親控除は男性・女性ともに対象となっている点
です。
2.寡婦の意義(次のいずれかの要件に該当する人をいいます)
- 夫と死別または離婚し、その後婚姻をしていない人のうち、扶養親族(障害者控除参照)がいる人で、合計所得金額が500万円以下である人
- 夫と死別し、その後婚姻をしていない人または夫の生死が明らかでない一定の人のうち、合計所得金額が500万円以下である人
3.控除額
27万円
4)勤労学生控除
1.適用要件
納税者本人が勤労学生である場合に適用となります。勤労学生とは働きながら、所定の学校に通っている学生のうち、合計所得金額が75万円以下である一定の人をいいます。
2.控除額
27万円
5)配偶者控除
1.適用要件
控除対象配偶者がいる場合に適用できます。控除対象配偶者とは同一生計配偶者(障害者控除参照)のうち、納税者本人の合計所得金額が1000万円以下の場合の配偶者をいいます。
2.控除額
配偶者控除の金額は次の通りです。
なお、老人控除対象配偶者は、控除対象配偶者のうち、年齢が70才以上の人をいいます。
6)配偶者特別控除
1.適用要件
同一生計配偶者(障害者控除参照)で、合計所得金額が48万円超133万円以下の人がいる場合に適用できます。ただし、納税者本人の合計所得金額が1000万円を超える場合には、配偶者特別控除の適用はありません。
2.控除額
配偶者特別控除の金額は次の通りです。また、納税者本人の合計所得金額が900万円超950万円以下、950万円超1000万円以下の場合には、配偶者特別控除額が段階的に縮小されます。
7)扶養控除
1.適用要件
控除対象扶養親族を有する場合に適用となります。
2.扶養親族の種類
イ.控除対象扶養親族
扶養親族(障害者控除参照)のうち、年齢が16歳以上の人をいいます。
ロ.老人扶養親族
控除対象扶養親族のうち、年齢70歳以上の人をいいます。
ハ.特定扶養親族
控除対象扶養親族のうち、年齢19歳以上23歳未満の人をいいます。
ニ.同居老親等
同居している老人扶養親族のうち、納税者本人または配偶者の父母・祖父母をいいます。
3.控除額
扶養親族の態様別控除額は次の通りです。
8)基礎控除
1.適用要件
合計所得金額が2500万円以下の納税者本人が適用できます。
2.控除額
基礎控除額は次の通りです。
以上(2023年12月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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