書いてあること
- 主な読者:財務諸表の構造や読むときのポイントを知りたい人
- 課題:財務諸表は数字や似通った専門用語が多く、どこを見ると良いのかがわからない
- 解決策:商品の仕入れや販売などの身近な活動に落とし込んで、それらが財務諸表にどのような影響を与えるのかを考えてみる
1 日々の企業活動は財務諸表にどう影響する?
財務諸表(損益計算書、貸借対照表)を慣れるには、
商品の仕入れや販売などの活動が、財務諸表のどのような箇所に影響するか
を実際に確認してみることが大切です。
財務諸表にはさまざまな数字が出てきますし、似通った専門用語も多いため、最初はどこを見ると良いのかがわからないかもしれません。しかし、慣れてくると、ポイントを押さえて読めるようになり、それほど時間をかけずに会社の財務状況を大まかにつかめるようになります。
この記事では、財務諸表の概要を説明した上で、仕入れや販売などの身近な活動が財務諸表の数値にどのように影響するかを見ていきます。
2 損益計算書の概要
損益計算書は、
会社が一定期間の営業活動によってどれだけの利益を上げられたかを示すもの
です。利益は次の5段階となっており、商品・サービスの売り上げから、売上原価や人件費などを差し引いて計算します。
- 売上総利益:自社の商品やサービスに係る売上から売上原価を差し引いた利益
- 営業利益:売上総利益から人件費など販管費を差し引いた本業にかかる利益
- 経常利益:営業利益から受取・支払利息などの本業以外の収益・費用を反映した利益
- 税引前当期純利益:経常利益から臨時的に生じた特別利益・損失を反映した利益
- 当期純利益:税引前当期純利益から法人税等の金額を差し引いた最終の利益
どの利益を重視するかは、損益計算書を読む理由や読み手の立場によって異なります。例えば、投資家などは会社の配当原資がどの程度あるのかを見るために、当期純利益に注目します。また、類似商品を扱う競合他社の損益計算書を見る際は、売上原価を差し引いた売上総利益などに注目します。
3 貸借対照表の概要
貸借対照表は、
決算期末時点における会社の資金調達・運用の状況を示すもの
です。会社は借り入れや株式発行などにより資金調達を行い、調達した資金で商品を仕入れたり、機械装置を購入したりしますが、その資金の状態を示すのが貸借対照表です。貸借対照表を読む際は、次の5つの項目に注目します。
- 流動資産:現金預金や売掛金など短期間(1年以内)で現金化できる資産
- 固定資産:1年を超えて現金化されず、長期間保有・使用される資産
- 流動負債:買掛金や短期借入金など返済期限が短期間(1年以内)の負債
- 固定負債:返済期限が1年を超える負債
- 純資産:株主からの出資金や事業活動から得た利益の蓄積額など
業種や企業の事業戦略などによって、どの項目が高めなのか、または低めなのかといった特徴が異なります。
4 仕入れや販売で貸借対照表と損益計算書はどう変化する?
1)事業活動の概要(前提条件)
ここでは、小売業A社の仕入れ、販売などの事業活動が貸借対照表と損益計算書にどのような影響を与えるかを解説します。
小売業A社は、この1年間で次の事業活動を行いました。以降は第1事業年度とします。
a.営業用資金として、金融機関から長期で1000万円を借り入れる。また、自己資金の注入により、株主資本が500万円となる
b.営業店舗として土地を250万円、建物250万円を現金500万円で取得する(建物の減価償却期間は25年、減価償却費は年間10万円とします)
c.商品を1個当たり3000円で2000個、現金で仕入れる
d.仕入れた商品を1個当たり5000円で1000個、現金で販売する
e.減価償却費10万円を販管費に計上し、第1事業年度の税金(税引前当期純利益の30%の57万円)を翌事業年度(第2事業年度)に支払うことになるため未払計上する
上記の事業活動を仕訳(取引を借方と貸方に分けたうえで、取引内容に応じて適切な勘定科目に振り分けること)した結果は次の通りです。
2)財務諸表の変化
1.小売業A社の貸借対照表
仕訳結果に基づいて、第1事業年度の小売業A社の貸借対照表の変化を見てみましょう。
2.小売業A社の損益計算書
次に、第1事業年度の小売業A社の損益計算書を見てみましょう。
損益計算書の一番下にある当期純利益は、会社の最終的なもうけを表す項目です。来期の初めの貸借対照表では、当期純利益は純資産に利益剰余金として計上され、会社が更なる成長を遂げるための投資や、自己資本の充実により財務基盤を強化するための原資に充てられます。第2事業年度期首の小売業A社の貸借対照表は次の通りです。
以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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