書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:将来の意思決定にはコストの見積もりが必須。会計では出てこないファイナンス特有の見えないコストの考え方を知りたい
  • 解決策:現金や車両などの現物を持つことで、手間や設備など見えないコストが発生する。「持たない」という選択肢を常に持っておくことが大切

1 キャッシュレス決済導入店が増えたファイナンス的理由とは

政府のキャッシュレス推進に新型コロナウイルス感染症の拡大が拍車をかける格好で、電子マネーなどのキャッシュレス決済に対応する店舗が急増しています。デジタル化の流れは不可逆といえますが、ここでは別の視点でキャッシュレスを捉えてみましょう。

キャッシュレス決済を検討する場合、店舗側の手数料負担がしばしば議論されますが、「現金を持つコスト」については、あまり触れられない気がします。例えば、現金は電子マネーよりも会計時間が長く、レジ締めも大変なので店員に負担がかかり、人件費がかさみます。また、現金の横領や盗難に備えるために防犯カメラなどを設置するなど、セキュリティーのためのコストがかかります。集まった現金を銀行に運ぶために現金回収業者と契約するのであれば、そのコストもかかります。キャッシュレス決済の手数料と現金を持つコストを比べると、前者のほうが店舗に有利な場合もあるのです。まさにこの点を考慮して、キャッシュレス決済を導入した店舗も数多くあります。

2 「現金」「現物」を持つことで多重にコストがかかる

さて、現金を持つコストは一般的な会社でも同じです。現金が置いてあると、いろいろな物品や手間がかかります。現金を保管するための金庫や監視用の防犯カメラも要るでしょうし、日計表の作成、小口現金の管理などの事務作業は典型例です。

こうした問題も、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の流れの中で見直されています。近ごろは手形(2026年に廃止されるという報道が最近ありました)や小切手はあまり見かけなくなりましたし、インターネットバンキングも普及しています。今や、金庫には金目のものは入っていない、もしくは金庫がない会社も珍しくないのです。

持つことでコストがかかるのは、現金だけではありません。現金以外でも、形ある「現物」を持つと、必ずといっていいほど関連するコストが何重にも発生します。例えば、カーシェアリングです。法人でカーシェアリングを利用する会社が増え、社有車を持たなくてよくなりました。そうなると、総務担当者は車両を管理しなくて済みますし、保守費用もかかりません。何よりも、本体を購入したりリースしたりという多額の出金がなくなります。

また、中小企業でも会計システムが一般に使われていますが、これも自社で買わなくても済むようになりました。以前は自社所有のパソコンにインストールしても、そのパソコンでしか会計ソフトが使えませんでした。近年、何度かあった消費税率の変更のたびに更新費用がかかるということもありました。これも、自社で会計システムを持つことで発生したコストといえます。しかし、会計ソフトのクラウド化が進んだ今では、保守費用や出張費用(支社間など)などは不要になり、どのパソコンからもアクセスできるようになりました。

このように、現金、現物を持つ場合には、その購入費用だけではなく、一見見落としがちな関連コストも漏れなく把握することが、ファイナンス的には大事なのです。

3 中小企業こそ、現物コストから解放される

現金や現物を「持たないこと」をファイナンスの側面から考えると、その恩恵を最も受けるのは、実は中小企業です。規模が小さくても事業上必要なので、自前で持たざるを得ないと無理していた中小企業が、利用度合いに応じたコスト負担で済むようになるからです。

多くの中小企業は人手不足の中で何とか事業を回しており、特に人件費が高い高度人材を雇うことは難しいものです。これを外部に管理を任せれば、これらの人材を雇用しなくて済むのです。都度利用する場合の単価も、大手企業と比較してそれほど変わりないことも多いようです。これまで自社で所有するときには、多額の設備投資のための資金の捻出に苦労したことを考えると、資金的なメリットは小さくありません。

4 「シェアリングエコノミー」を、両面から活用する

「シェアリングエコノミー」というと、民泊仲介サイトやシェアサイクルなど個人向けのイメージがあるかもしれません。しかし、会社こそ活用したときのメリットは大きいのです。

誤解してほしくないのですが、自社で持つことがファイナンス的には悪いということではありません。従来通り自動的に自社所有を選ぶのではなく、関連するサービスなどの情報を得て、どちらが得かを検討することが大事です。その際に購入費用以外の見えないコストの存在がポイントになります。加えて、サービス提供側としてこの考え方を活用できないか検討することも有効です。例えば、比較的高価なサービスや物を、法人向けに販売している会社は、売るのではなく利用に応じて課金する形態にできないか考えてみるのです。利用側と提供側の両面から、「持つことが本当に自社にとってベストなのか」を改めて考えてみてください。

以上(2021年4月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixta

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