この記事で紹介するのは、ファクタリングを利用したときの会計処理です。ファクタリングとは、自社の持つ債権を譲渡したり、担保したりすることで資金融通を図ることであり、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業が資金繰りを改善するために利用するケースが増えています。
そうなると、会計処理の実務も重要になってきますので、分かりやすく紹介していきます。

なお、ファクタリングのメリット・デメリットや仕組み図、具体的サービスの例などは本サイトの下記記事をご参照ください。

1 ファクタリングの種類

ファクタリングは、大きく分けて保証型と買取型という2種類の方法があります。
保証型とは、自社の保有する債権に保険を掛けておき、当該債権の保証対象先である債務者が倒産するなどして債権が回収できなくなったときに、保証限度額内で債権の支払いを受けるファクタリングです。

買取型とは、自社の保有する債権を第三者に売却(譲渡)することで、手数料を差し引かれた差額を現金化するファクタリングです。さらに、買取型には自社とファクタリング業者の二者間で契約するケースと、債務者を交えた三者間で契約するケースとがあります。保証型は、基本的に損害保険としての性質があるため、損害保険に即した会計処理の流れになります。一方、買取型は、債権がファクタリング業者に会計上移転されたのかどうかを判別して会計処理を行う必要があり、複雑な形になっています。

2 保証型の会計処理

保証型ファクタリングの契約を行い、実際に売掛債権100万円が回収不能になり、保険金を受け取ったケースです。

保証型の会計処理を説明した画像です

保証型の場合、ファクタリング契約を締結した時点では、特に仕訳を切ることはありません。実際に返済が期日までに行われないなどのイベントが生じたとき、これが保証の条件に該当した場合に2.の仕訳を切ることになります。まず1つ目の仕訳で、売掛債権が回収不能(貸し倒れ)となった処理を行います。次に2つ目の仕訳で、ファクタリング契約による保険金を受け取った金額を、雑収入による入金の処理を行います。

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3 買取型の会計処理の判別

 

1)売買取引と金融取引

買取型の会計処理に移る前に、「債権がファクタリング業者に会計上移転されたのかどうか」を判別する基準を見ていきましょう。企業会計基準第10号金融商品に関する会計基準9項には、次のように記載されています。

9.金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転するのは、次の要件がすべて充たされた場合とする。
(1)譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること
(2)譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること
(3)譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと

この3点を満たした場合には、債権の譲渡が認められて売買取引として処理されますが、1点でも満たさなかった場合には、債権の譲渡が認められずに金融取引として処理されることになります。この中で、買取型ファクタリングにおいてしばしば論点になり得るのは、(1)中の「法的に保全」と、(3)中の買戻す権利です

2)契約当事者と「法的に保全」

買取型ファクタリングには、自社とファクタリング業者の二者間で契約するケースと、債務者を交えた三者間で契約するケースがあることを「1 ファクタリングの種類」で記載しました。二者間での契約は、債務者が契約当事者に含まれていないため、債権者が債務者に知られずに契約ができるというメリットがある一方、債務者の合意を得ていないことから債権譲渡が二重に行われるかもしれないといったリスクがあります。

そのリスクを担保するために、売上債権を買取った側がその債権の所有権を主張するための要件を第三者対抗要件といいます。しかし、買取型は第三者対抗要件を具備していません。このため債権譲渡の登記を行っているか否かが、「法的に保全」されているかを判断する基準となります。つまり、二者間契約のときに債権譲渡の登記を行っていないときは、ファクタリング会社の契約上の権利が「法的に保全」されているとはいえず、取引実態は金融取引として処理されます。

3)買戻す権利(買戻し特約、リコースファクタリング)

買取型ファクタリングは通常、買戻し特約(金融機関などが買取った売上債権の決済がされないときは、元の所有者が買戻す特約)を付けずに債権の評価を行って譲渡契約を行うため、利息制限法が適用されずに手数料が30~40%と高額になるケースもあり得ます。ただし、買戻し特約を付けると、債務者が倒産したことなどにより債権が回収できなくなったときに債権者が弁済をしなければならず、これは上記基準の通り債権は移転されないと判断されます。そのため、利息制限法が適用されて手数料が下がり、取引実態は金融取引として処理されます。なお、買戻し特約がないものをノンリコースといい、ノンリコと略されたりします。

4 買取型の会計処理

「3 買取型の会計処理の判別」の記載の通り、買取型の会計処理を行う上で、1.契約形態が二者間か三者間か、2.売買取引と判断されるか金融取引と判断されるか、で4分類に分かれることが分かりました。それではそれぞれの会計処理を見ていきましょう。

1)二者間かつ売買取引

二者間において、買戻し特約がなく、債権譲渡の登記を実行しているケースです。売掛債権100万円について、手数料5%で実行したケースを見てみましょう。

買取型の会計処理(二者間かつ売買取引)を説明した画像です

2)三者間かつ売買取引

続いて、1)のケースを三者間にしたケースを見てみましょう。なお、三者間の契約であるため、債権譲渡の登記を実行していなくても、債務者への対抗要件は具備しています。

買取型の会計処理(三者間かつ売買取引の会計処理)を説明した画像です

1)のケースに比べ、3.と4.がなくなっただけの形となっています。これは債務者から直接ファクタリング会社に振り込まれているため、自社の会計上では何も起きない結果です。買戻し特約がないため、仮に債務者が弁済できなくても、自社に請求されることはありません。

3)二者間かつ金融取引

続いては二者間において、買戻し特約がある、または債権譲渡の登記を実行していないケースです。売掛債権100万円について、手数料5%で実行したケースを見てみましょう。

買取型の会計処理(二者間かつ金融取引)を説明した画像です

売買取引に比べ、契約締結時では特に仕訳がなく、入金時には短期借入金として処理がされています。

4)三者間かつ金融取引

最後に三者間において、買戻し特約があるケースです。

買取型の会計処理(三者間かつ金融取引)を説明した画像です

3.債務者からファクタリング会社への入金が実行され、実務上その報告をもって売掛金と短期貸付金を相殺します。このように、ファクタリングの会計処理は、保証型と買取型の5パターンで整理されます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年7月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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