書いてあること
- 主な読者:固定資産管理が曖昧な中小企業の経理や総務担当者
- 課題:固定資産管理が徹底されていないと、会計・税務のミスや、無駄な支出につながる恐れがある
- 解決策:帳簿管理と現物管理を徹底することで、適切な会計処理や、固定資産税の節約ができる可能性がある
1 固定資産管理が必要な理由
1)会計上、事業を行った上での諸問題
在宅勤務の広がりにより、パソコンなど会社の固定資産が社外に持ち出される機会が増える中、固定資産管理の重要性が高まっています。特に中小企業においては、固定資産管理に十分に手が回らず、固定資産台帳に載っているのに現物がないケースや、現物があるのに固定資産台帳に載っていないケースがよく見られます。
会社の固定資産管理が適切に行われていない場合、会社として固定資産の紛失や故障などを把握できず、会計上の影響はもとより、事業を行っていく上でもさまざまな問題が生じます。
まず、固定資産周りの会計処理(減価償却など)が実態と異なってしまうことにより、会社の決算や法人税などの計算に誤りが生じる恐れがあります。また、必要ない固定資産や処分済みの固定資産を資産計上し続けている場合、固定資産税を過大に支払ってしまうこともあります。なぜなら、固定資産税は、毎年1月に会社が会計上の固定資産をもとに作成し、市町村に提出する償却資産申告書により計算されるからです。
事業を行っていく上でも、すでに会社にある固定資産を重複して購入してしまうなど無駄な出費や、紛失・盗難に気付かないといった問題が生じる可能性があります。
2)在宅勤務により増える会社資産の家庭内使用
在宅勤務により、外部への資産持ち出し(家庭内使用)が増える中で、従業員が会社の資産を使っていることの意識が薄い可能性もあります。例えば、会社から貸与されているパソコンを私用で使ったり、従業員が退職時に貸与されているパソコンを返却せず、会社側もそれに気付かず私物化してしまったりすることがあり得ます。会社の資産を使っているということを従業員へ認識してもらうことも、適切な固定資産管理を行うために大切です。
2 固定資産管理のイロハ
固定資産管理には、主に帳簿管理と現物管理があります。
1)帳簿管理
帳簿管理では、固定資産台帳を作成します。固定資産台帳の記載内容は特に決められているわけではありません。一般的に次のような項目があればよいでしょう。
- 管理番号、資産名、管理部門、設置場所、取得年月日、数量、取得価額、耐用年数、償却方法、期首帳簿価額、当期減価償却額、期末帳簿価額、減価償却累計額
重要なのは固定資産台帳の記録ルールの徹底です。固定資産の取得時、移動時、処分時には、社内稟議(りんぎ)や許可申請を行うなど、必要な申請手続きをとるようにしましょう(詳細は後述)。
よく見られる事例は、減価償却資産については台帳を作成しているものの、減価償却の対象外である固定資産については台帳を作成していないケースです。適切な固定資産管理のためには、減価償却の対象外である固定資産(減価償却が終了している固定資産など)についても、台帳に記載する必要があります。
また、管理が徹底されていない事例として、取得時の記載漏れはないとしても、移動や処分については手続きが不十分で、設置場所が不明になっていたり、処分済みの固定資産が台帳に載ったままであったりするケースがあります。
リース資産を使用している場合には、リース資産台帳を作成します。主な記載内容は次の通りです。
- 管理番号、資産名、管理部門、設置場所、数量、契約開始日、契約終了日、支払回数、支払間隔、支払リース料、リース料総額
なお、小規模な会社であれば、固定資産台帳やリース資産台帳はエクセルで作成していることが多いですが、固定資産管理業務が煩雑になるようなら、費用対効果を勘案してシステムの導入を検討することをお勧めします。
2)現物管理
現物管理の主な内容には、固定資産現物への管理ラベルの貼付があります。管理ラベルには資産の品目名や管理番号などを記載することで、固定資産台帳と照合できるようにします。なお、管理ラベル自体は、市販されているものを利用するといいでしょう。
また、年に1~2回程度で現物実査を行います。現物実査では固定資産台帳と現物との突合を行い、合わないものがあればその原因を調べます。なお、現物実査ではあるかないかだけを調べるのではなく、現物の状態も確認し、処分する必要がないかなどを検討します。
中小企業では、この現物実査が不十分なケースが多く、税務調査などで初めて固定資産の紛失や廃棄が発見されることがあります。現場と経理などの部署間の電話連絡や申請書ベースのコミュニケーションだけでは、どうしても漏れが生じることがあります。現場に足を運び、実物を確認することは大切です。
3)より効率的に行うために
固定資産管理をより効率的に行うためには、固定資産管理規程を整備するなど、管理ルールを作成し、担当者に対して周知徹底する必要があります。発注、検収、移動、処分ごとに担当者を分け、権限や責任を明確にする(職務分掌)などのルールを作り、社内で共有しましょう。中小企業の場合は、人手の問題から業務分担がこの通りにできないこともあります。その場合は、最低限「入り(取得)」と「出(廃棄や売却など)」は別の担当者を設けるなど、適切な固定資産管理に加え、社内不正を予防するためのルールを考えるようにしましょう。
以上(2020年11月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
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