書いてあること
- 主な読者:不確実性の高い時代において、資金繰り管理を強化したい経営者
- 課題:資金繰り表を作成しておらず、売掛金の管理なども経理担当者に任せきり
- 解決策:まず資金繰り表を作成する。また、経営者が資金繰りに積極的に関与する
1 適切な資金繰りはできていますか?
経営が行き詰まる最大の原因は資金ショートですから、
資金繰り表を作成し、適切な資金繰りを管理することでリスクを回避することが基本
です。物価高や国際情勢の不安定化などで経営の先行きが不透明さを増している現在、資金繰りがより重要になってきていることを、経営者は痛感していることでしょう。
資金繰り表は最低でも3カ月先、理想的には1年先まで作成しておきたいものです。また、一般的な資金繰り表は月次ですが、資金繰りがタイトな場合は、日次の資金繰り表(日繰り表)を作成します。また、資金繰り表はキャッシュ・フロー計算書と混同されがちですが、両者は、
- 資金繰り表:将来のお金の流れを把握して経営のかじ取りに活かす内部資料であり、いわゆる直接法(主要な取引ごとに資金の増減を加減算する方法)で計算されることが多いです。
- キャッシュ・フロー計算書:過去のお金の流れを社外に報告するための財務諸表でいわゆる間接法(損益計算書の利益から一定の項目を調整する方法)で計算されることが多いです。
といったように異なります。
この記事では、月次資金繰り表の例を見ながら、実際の作業やポイントを解説していきます。おさえるべき主なポイントは次の通りです。
- 資金繰り表の記載内容を理解する
- 予測と実績の差異を分析し、その後の資金繰りに活かす
- 月末の必要現金を確保する
- 資金繰りが悪化する原因を知る(売上の急拡大など)
2 月次資金繰り表のポイント
まずは、月次資金繰り表の例をご確認ください。どういったことが読み取れるでしょうか?
1)前月繰越金
最初の月(上記の例では8月の100,000)の前月繰越金(1)は、
実際の現金残高を記入します。銀行口座や小口現金出納帳の合計額を確認
しましょう。それ以降の月は、前月の翌月繰越金(8)と同額が記入されるようにします。
2)営業収入と営業支出
営業収入の項目(2)には、
営業部門などから販売実績や販売見込みの情報を入手
して記入します。過去の銀行口座などの入金を観察することも、得意先の販売傾向の予測に役立ちます。販売見込みは可能な限り正確な予測を入手し利用することが理想的ですが、将来のシナリオを考えるうえで楽観・中庸・悲観の3つの数値を用意することもあります。担当者からの報告を反映するだけでなく、経営者としての経験則を活かして見極めるようにすることが大切です。すでに発生している売掛金・受取手形などの営業債権については、回収スケジュールに基づき資金繰り表に反映します。
営業支出の項目(3)には、
過去の銀行口座や小口現金出納帳の出金を基に記入
します。過去の出金内容から網羅的に支出項目を抽出できるため、銀行口座や小口現金出納帳の情報は重要です。すでに支払義務が生じている買掛金・支払手形などの営業債務については、支払スケジュールに基づき資金繰り表に反映します。なお、リモートワークなどによってオフィス家賃や通勤手当などの固定費が変わることもあるので、そのときの状況に合わせて精査していきます。
3)投資収入と投資支出
投資収入の項目(4)には、
設備投資計画、稟議書や取締役会議事録を基に、店舗閉鎖などによる重要な資産の売却情報を記入
します。
投資支出の項目(5)には、
設備投資計画、稟議書や取締役会議事録を基に、設備投資の購入情報を記入
します。
いずれも、取引の内容によっては見積額と実績が大きく乖離(かいり)することがあるため、可能な限り精度の高い情報を得るようにします。
4)財務収入と財務支出
財務収入の項目(6)には、
新規の借入れや増資の金額を記入
します。
財務支出の項目(7)には、
借入金の返済・利払いは、金銭消費貸借契約書などに添付されている返済予定表を基に、借入金の返済と利払いを記入
します。
3 差異分析こそノウハウの種
資金繰り表は、過去の実績を基に将来予測を作成します。そのため、
実績が判明した段階で予測と実績の差異を分析し、その後の資金繰り表の作成に活かす
ことが不可欠です。中小企業においては資金繰り表自体を作成していないこともあるかもしれませんが、経営者が資金繰りに積極的に関与することで、今まで知らなかった課題や取引先の状況変化のサインが見えてくることがあります。
例えば、いつもは期日通り行われていた取引先からの入金が遅れていた場合には、取引先の財務状況の悪化のサインかもしれません。このような小さなサインがあれば、将来考えられる営業収入への悪影響を、実際の資金繰り表に当てはめて調整していきましょう。
4 月末必要現金を増やして安全弁に
資金繰り表を作成したら、各月末残高(翌月繰越金)に注目します。資金ショートを防ぐためには、各月末残高(翌月繰越金)が月末必要現金を上回っていることが必須条件です。月末必要現金は、翌月上旬の支払合計額に一定のバッファーを見込んで決めるもので、通常は月売上の1~2カ月分程度の現金があることが望ましいといわれます。ただし、現在のような不確実性の高い時代には、重要な得意先の売掛金の回収が遅れた場合なども想定して、資金繰りに支障を来さないような現金を準備しておくことが目安になるでしょう。
5 資金繰り悪化の代表的なケース
1)赤字の継続
販売不振が続き、入金が減少する一方で、それに見合うだけの費用を減らすことができず出金が一定額のままの場合、赤字(損失)が継続します。その結果、会社の現金が減り続け、資金繰りが悪化していきます。
2)売上の急拡大
売上が急拡大した場合、それに合わせて資金も豊富になると考えがちです。これは中長期的には正しいですが、短期的には正しくないことがあります。なぜなら、入金と支払いのタイミングによっては支払額の方が多額となり、資金繰りが一時的に苦しくなることがあるからです。
例えば、新規取引先に商品を販売する場合、出荷の時点で売上は計上されますが、代金が入金されるまでには一定の期間がかかります。また、その商品を仕入れたり、配送したりするためのコストがかかっています。さらにいえば、新規獲得に関わる人件費などのコストもかかっています。以上から、売上が急拡大するときには資金繰りに注意する必要があります。
3)販売できないと見込まれる棚卸資産
棚卸資産は、原則として、得意先に引き渡されることで売上が計上され、その結果、入金につながります。しかし、棚卸資産として会社の手元にある間は、現金が棚卸資産に形を変えていると解釈できるため、棚卸資産を長く保有すると自由に使用できない現金が増え、資金繰りの悪化原因となり得ます。また、陳腐化や品質の低下により価値が低くなり、販売見込みがなくなった棚卸資産は、さらに資金繰りに悪影響を与えます。したがって、棚卸資産の保有期間や保有量を減らすことも、資金繰りの改善に役立ちます。
以上(2023年11月更新)
監修(税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
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