書いてあること

  • 主な読者:最新の税制動向をアップデートしたい中小企業の経営者、税務担当者など
  • 課題:中小企業に関係のある税制改正大綱のポイントだけ教えてほしい
  • 解決策:令和5年度税制改正大綱の中で中小企業に関係の深い項目を把握する

1 オープンイノベーション促進税制の拡充

スタートアップ企業に対する出資で所得控除が受けられる制度(オープンイノベーション促進税制)の対象の拡充や、限度額の変更があります。

オープンイノベーション促進税制とは、企業がスタートアップ企業の株式に出資した場合に、その株式の取得価額の25%を課税所得から控除できる制度です。

現行制度では、この所得控除の対象となる株式(以下「特定株式」)は、新規に発行される株式に限られていましたが、改正により、

すでに発行されている株式(既存株主から購入する株式)も対象

になります。

オープンイノベーション促進税制の対象拡充

なお、新規に発行される株式、既に発行されている株式いずれの株式に出資するかで、対象となる投資額の限度額が異なります。

対象となる投資金額の上限額と下限額

2 中小企業に関する特例の延長

1)中小企業者等の法人税率の特例

中小企業者等(期末資本金の額が1億円以下の一定の企業)の所得800万円以下の部分に適用される法人税の軽減税率15%(本来は19%)が、2年間延長され、2025年3月31日までに開始する事業年度に適用されます。

2)中小企業経営強化税制

経営向上計画の認定を受けた企業が、一定の設備投資に対して、即時償却か、取得価額の10%の税額控除(納税額から控除すること)を選択できる中小企業経営強化税制が、2年間延長され、2025年3月31日までに事業に使用し始めた資産に適用されます。

本税制の対象資産は、

  • 機械装置(1台160万円以上)
  • ソフトウエア(1台70万円以上)
  • 器具備品(1台30万円以上)
  • 建物附属設備(1台60万円以上)
  • 工具(1台30万円以上)

です。また、一部の資産(コインランドリー業や暗号資産マイニング業に使われている一定の設備)が対象設備から除かれることになりました。

3)中小企業投資促進税制

一定の設備投資に対して、取得価額(内航船舶については取得価額に75%を乗じた価額)の30%の特別償却(通常の減価償却に加えて、別枠で償却費を計上すること)か、7%(一定の中小企業者等は10%)の税額控除を選択できる中小企業投資促進税制が、2年間延長され、2025年3月31日までに事業に使用し始めた資産に適用されます。

本税制の対象資産は、

  • 機械装置(1台160万円以上)
  • ソフトウエア(1台70万円以上)
  • 工具(1台30万円以上、かつ合計120万円以上)
  • 普通貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)
  • 内航船舶

です。また、一部の資産(コインランドリー業に使われている一定の設備)が対象から除かれることになりました。

3 少額取引に係るインボイス保存の期限付き措置

インボイス制度が導入される2023年10月1日以降、仕入税額控除(消費税の計算上、控除できる仕入れにかかる消費税額)をするためには、原則、取引の相手方からインボイス(適格請求書)を取得し、保存しなければなりません。

しかし、次のいずれかの事業者(以下「中小事業者」という)

  • 基準期間(前々事業年度)における課税売上高が1億円以下である事業者
  • 特定期間(前事業年度開始の日以後6カ月の期間。一般的には前事業年度の上半期)における課税売上高が5000万円以下である事業者

が行う一定の取引(税込1万円未満の取引)については、インボイスの取得・保存がなくても、帳簿に記載があれば、仕入税額控除を受けられるようになります。

なお、この取り扱いは、

2023年10月1日から2029年9月30日までの期限付き

となっています。

4 小規模事業者の消費税計算の期限付き措置

現在消費税が免除されている事業者(以下「免税事業者」。一定の売上以下である小規模事業者)が、インボイスを発行するために、課税事業者(消費税の申告・納税をしなければならない事業者)となった場合の消費税の納税額は、売上にかかる消費税額の2割になります。

なお、この取り扱いは、

2023年10月1日から2026年9月30日までの期限付き

となっています。

免税事業者は、インボイスを発行することができません。免税事業者がインボイスを発行するためには、課税事業者を自ら選択しなければなりません。

しかし、消費税の納税負担や、複雑な納税計算といった事務負担の急増が問題視されています。そのため、現行制度で計算するよりも簡単で、かつ納税額が少なくすむ改正が行われました。

現行制度(原則課税、簡易課税)改正による課税方法による比較(事例)

5 電子取引データの電子保存に関する新たな猶予措置

電子取引データ(メールやシステム上で発行される請求書など)の電子保存(会社のサーバーや請求書システム上で保存すること)に関して、さらなる猶予措置が設けられます。

現行では、原則、電子取引データについては、電子保存をしなければならず、紙保存は認められません。ただし、多くの企業でシステム導入や改修が進んでいないことから、2023年12月31日までは、電子取引データの紙保存が認められています。

今回の改正により、2024年1月以降に関しても、軽めの要件のもと電子保存をした上で紙保存することが認められます。具体的には、今まで行っていた紙保存に加え、データのダウンロードができるようにしておけば、検索機能(取引年月日や金額、取引先で検索できることなど)の確保の要件などを不要とした電子保存で認められることになります。

以上(2023年1月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:Bacho-shutterstock

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