書いてあること
- 主な読者:税務調査などで指摘されないよう、税金対策を適切に行いたい経営者
- 課題:法人税は税金の中でもボリュームが多く、一つの論点でも色々な角度から対策を検討しないと税務調査で指摘されることがある
- 解決策:税務調査で重点的に調べられる論点ごとに、会社が注意すべきポイントを押さえる。販管費に関しては、交際費・会議費、福利厚生費、寄附金、租税公課、業務委託費がポイントになる
1 主な販管費に係る税務上の重要なポイント
シリーズ第5回では、主な販売費および一般管理費(以下「販管費」)に係る税務上の取り扱いに注目します。法人税の課税所得を計算する上で、販管費は損金算入できるものが多いです。しかし、
科目によっては一定金額、または全額損金に算入できないものもある
ため、税務担当者は科目ごとの基本を理解する必要があります。
また、中小企業のうち、とりわけ同族会社においては、
業務上の費用と私的な費用の区別が曖昧となりがちで、税務調査で指摘される
ことも多いです。こうした区別をきちんとすることはもちろん、業務上の費用でも私的な費用と誤解を受けることがないように、所定の 書類などをそろえておきましょう。
販管費に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。
- 交際費の損金算入限度額
- 5000円以下の接待飲食費
- 交際費と会議費の区別
- 業務上の交際費と私的交際費の区別
- 福利厚生費の範囲
- 寄附金の損金算入限度額とその範囲
- 租税公課
- 業務委託費(グループ会社などに対するもの)の取り扱い
2 販管費に係る税務上の取り扱いと留意点
1)交際費・会議費
1.交際費の損金算入限度額の算定方法
原則として、交際費は全額が損金算入できません。しかし、取引先との接待飲食費(社外飲食費)の50%相当額については、損金算入できます。また、中小法人については、特例として年800万円まで損金算入が認められています(「定額控除限度額」といいます)。
つまり、中小法人は社外飲食費の50%相当額と定額控除限度額とを比較し、いずれか多い方を損金算入限度額として選択することができます。
上記の「社外飲食費」については、帳簿書類に次の項目を記載しておく必要があります。税務調査においては、この記載事項についてチェックされるので注意しましょう。
- 飲食等を行った年月日
- 飲食等に参加した得意先や仕入先等の氏名または名称およびその関係
- 飲食費の額ならびに飲食店の名称および所在地
- その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項
2.10000円以下(2024年3月31日支出分までは5000円以下)の接待飲食費の取り扱い
取引先との接待飲食費のうち、1人当たり10000円以下(2024年3月31日支出分までは5000円以下)のものは交際費の範囲から除かれます(以下「少額交際費」)。従って、少額交際費は上記1.の損金算入限度額に含めることなく損金算入できます。ただし、少額交際費として取り扱うためには、帳簿書類に上記の記載事項の他に、
- 飲食等に参加した者の人数
も追加で記載する必要があります。
3.交際費と会議費の区別
会議や打ち合わせで提供されるお茶やお菓子、昼食代といった飲食費は、通常は会議費として損金に算入できます。ただし、昼食代であっても、通常の金額を超えるようなものについては交際費とされます。
どの程度までが会議費として認められるかについて、税務上では明らかにされていません。しかし、例えば居酒屋や高級飲食店などにおける飲食費など、一般的な会議では利用されなそうな場所での飲食費などは、税務調査において交際費と指摘される可能性が高いです。
4.業務上の交際費と私的交際費の区別
お酒を共にする接待などは、取引先と懇親を深めることができるでしょう。中小企業においては、一定限度額まで損金算入することが認められています。
一方、経営者1人での飲食など私的なものについては、税務上の交際費とはされずに「役員給与」とされ、損金算入できません。なお、役員給与の詳細な取り扱いについては、下記のリポートをご参照ください。
また、取引先との接待費用であっても、帳簿書類でそれが証明できない場合や領収証が無い場合などは、税務調査において私的費用として疑われる可能性もあるので注意しましょう。
2)福利厚生費
役員や従業員(以下「従業員等」)の慰安のために行われる旅行や新年会・忘年会などに通常要する費用で、おおむね従業員等の全員を対象とする場合は福利厚生費とされ、損金算入できます。また、従業員等またはその親族等のお祝いやご不幸などに際して、一定の基準に従って支給される金品(例えば、結婚祝いや香典など)も福利厚生費として損金算入できます。
一方、特定の従業員等のみを対象とした旅行費用や、特定の人だけ基準を超える高額な香典などは福利厚生費とされず、税務上は「給与」として取り扱われます。「給与」と認定されると、所得税の源泉徴収が必要ですし、役員の場合は費用そのものが損金算入できません。
税務調査においては、例えば社員旅行の場合は対象者が誰であるか、香典などについては、一定の基準(社内規程など)通りに支払われているかなどをチェックされるので注意しましょう。
3)寄附金
1.寄附金の種類と損金算入限度額の算定方法
法人税法において寄附金は次の4種類に区分され、それぞれ損金に算入できる金額(損金算入限度額)が定められています。
2.税務上の寄附金の範囲
国・地方公共団体や一定の公益法人等(以下「国等」)に対する寄附金は会社が意図して行うものであり、領収証も発行されるため、他勘定で処理するといった誤りは少ないでしょう。
しかし、税務上の寄附金はこういった国等に対する意図した寄附金よりも非常に範囲が広く定義されています。例えば、
資産を時価より低く譲渡した場合、「譲渡した相手方に利益供与を行った」として、税務上は時価と譲渡価額との差額が寄附金として取り扱われる
ことがあります。
また、
返済能力のある取引先に対する売掛金を債権放棄した場合なども、「取引先に対して利益供与を行った」として、債権放棄額が寄附金として取り扱われる
こともあります。このように税務上の寄附金は、一般的な用語で使われるものより非常に範囲が広いため注意しましょう。もし判断に困るケースが出てきた場合には、税理士などの専門家に相談することが重要です。
4)租税公課
租税公課にはさまざまな種類がありますが、税務上、その種類によって損金に算入できるものとできないものとがあります。また、損金に算入できるものであっても、その損金に算入する時期が決まっています。主な租税公課の取り扱いは次の通りです。
5)業務委託費
自社で作業が不可能な業務などを外部に業務委託した際に支払う業務委託費については「役務提供を受けた日」において損金に算入されますが、業務委託先がグループ会社や親族の経営する会社の場合には、業務委託費の金額を意図的に操作することも可能なため、税務調査においては重点的に調べられます。
従って、グループ会社などに対する業務委託費については、
金額の決定過程を税務調査時に詳細に説明できるよう、関係書類などを事前に準備する
ことが重要です。
以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)
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