書いてあること
- 主な読者:財務会計・税務会計・管理会計の違いを正しく理解していない経営者
- 課題:中小企業の会計は顧問税理士に任せきりで、意識せずに税務会計に偏っている
- 解決策:外部への説明のために財務会計、経営のかじ取りのために管理会計を知る
1 経営者が意識する3つの会計
会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。それぞれを簡単に説明すると、
- 財務会計:制度会計の1つ。株主など社外の関係者に経営状況を説明するための会計
- 税務会計:制度会計の1つ。税金を正しく計算、納税するための会計
- 管理会計:投資判断やコスト管理など、経営者などが経営判断をするための会計
といった具合になります。また、気になるこれらの関係性は次の通りです。
中小企業には、上場企業のように財務諸表を外部に開示する義務がありません。一方、納税義務はあるので、財務諸表は財務会計(会社法や企業会計原則など)ではなく、税務会計(法人税法など)に基づいて作成されるなど、税務会計に偏りがちです。
しかし、金融機関などに業績を説明する際、税務会計に基づく財務諸表だけだと内容が不十分なことがあります。それに、管理会計によって、定量的な指標から意思決定をすることも大切です。大切なのは、それぞれの会計の使い分けなので、この記事でそれぞれの特徴を分かりやすく説明していきます。
2 財務会計とは
財務会計は、
会社法・金融商品取引法(上場会社のみ)・会計基準などの法律や規則に基づいて実施
されます。そのため、財務会計に基づいて作成された財務諸表は他社と比較することができ、株主にとっては投資の参考資料、取引先などにとっては取引の判断材料になります。
財務会計では、会社の活動を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に区分して財務諸表を作成します。このうち資産・負債・純資産は「貸借対照表」に集計され、ある時点の会社の財産の状態を表します。また、収益・費用は「損益計算書」に集計され(収益と費用の差額が利益(または損失))、一定期間の業績を表します。
貸借対照表と損益計算書以外にも、会社のキャッシュの流れを表す「キャッシュフロー計算書」や、純資産の増減内容を表す「株主資本等変動計算書」などが作成されます。
3 税務会計とは
税務会計は、
法人税法・地方税法などに基づいて実施
されます。正しく納税額を計算して、申告期限までに確定申告書を税務署などに提出します。
税務会計では、財務会計で計算された当期純利益に一定の調整を加え、納税額を計算するための基礎となる所得を導きます。なお、財務会計の「収益・費用・利益」は、税務会計の「益金・損金・所得」と言い換えられますが、一部で取り扱いが異なります。そのため、税務会計の所得を計算する際は、次の4つの調整をします。
なお、中小企業の制度会計は、上述の通り税務に偏っているのが実情であり、多くの中小企業では、税務上の益金・損金の基準に合わせて決算書を作成しています。例えば、財務会計上は認識すべき退職給付引当金について、税務上は損金不算入となるため費用計上しないといったことが生じます。その結果、貸借対照表、損益計算書に会社の財務状況が正しく反映されていないケースが多いことに留意が必要です。
4 管理会計とは
管理会計は、
法令上の決まりなどはなく、会社の考えに従って実施
されます。社内で利用するために管理会計の代表的な分析方法にCVP分析(損益分岐点分析)があります。CVP分析では、まず、財務会計上の費用(製造などに係るもの)を、
- 変動費:売上の増減に比例して発生する費用。材料費、外注費など
- 固定費:売上の増減に関係なく発生する費用。地代家賃、水道光熱費、交際費など
に分けます。そして、損益分岐点を計算するのですが、損益分岐点とは、
売上高から変動費を引いた「限界利益」と固定費が同額になる状態
であり、限界利益が固定費を上回ったら黒字です。損益分岐点の計算式は次の通りです。
損益分岐点=固定費/(1-(変動費/売上高))
5 それぞれの会計の処理と利益の違い
それぞれの会計の処理の違いを比べてみましょう。分かりやすく示すために、交際費を年間1000万円とします。
- 収益:10億円
- 費用:9億8000万円(材料費5億8000万円、労務費3億円、経費1億円(交際費1000万円))
- 資産:3億円
- 負債:2億5000万円
- 純資産:5000万円
- 1年決算法人
1)財務会計における取り扱い
財務会計では、交際費は損益計算書の費用になります。この場合の貸借対照表と損益計算書は次の通りです。
2)税務会計における取り扱い
税務会計では、原則として、交際費は全額が損金不算入とされます。ただし、会社規模に応じた一定の措置が設けられています。期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下であるなどの場合、損金不算入額は次のいずれかの金額を選択できます。
- 交際費(全額接待飲食費に該当する場合)の50%相当を超える部分の金額
- 年間800万円に事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額(定額控除限度額)を超える部分の金額
交際費が年間1000万円の場合の損金不算入額および所得は、次のようになります。
3)管理会計における取り扱い
管理会計でCVP分析を行う場合、交際費は固定費に分類します。前提要件に基づいて作成する管理会計(CVP分析)上の損益計算書は次の通りです。
限界利益は4億2000万円で、固定費の4億円を上回っているので2000万円の利益が出ています。
ここで、CVP分析により、翌期に3000万円の利益を出すために必要な売上高を考えてみましょう。変動費率は今期と同じ58%(5億8000万円/10億円)、固定費は今期より2000万円増えて、4億2000万円になる予定です。この場合、来期に必要な売上高は次のように計算することができます。
(固定費+必要利益)/(1-変動費率)
=(4億2000万円+3000万円)/(1-0.58)
≒10億7143万円
以上(2024年11月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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