書いてあること
- 主な読者:予算管理を取り入れたい経営者、実務担当者
- 課題:イメージしにくい予算管理の全体の流れや、円滑に進めるポイントを知りたい
- 解決策:経理や経営企画が取りまとめ、予算編成方針を策定。報告フォーマットを統一し、余裕のあるスケジュールを組む。目安として、1~2カ月で予算を策定する
1 なぜ、予算管理が必要なのか?
予算計画を策定し、きちんと計数管理(以下「予算管理」)をしている中小企業は少ないものです。その理由は、
決算で実績が把握できているから大丈夫であるということと、単純に手間がかかる
からです。しかし、予算管理ができていないと、経営者が考えているビジネスの方向性と現実のズレに気づくのが遅れますし、改善ポイントも見えにくくなってしまいます。そうならないように、予算管理を実行することをご提案します。
2 予算管理とは?
予算管理とは、
企業の売上目標や利益目標を達成するために行う、「『お金の出入り』の計画的な管理」
のことです。予算管理には、主に次の3つ機能があります。
- 計画機能:各部門の予算を取りまとめつつ、企業全体の活動計画を立てる
- 調整機能:各部門の計画を調整して矛盾をなくし、全体最適な企業活動を行う
- 統制機能:予算と実績の差異を分析しつつ、必要に応じて対策を講じる
予算期間は企業の会計年度と同じですが、半期予算、四半期予算、月次予算まで分解して策定します。また、予算管理の中で決めなければならない「お金の出入り」は多岐にわたりますが、統一のルールに基づいて数字を集め、一元的に管理します。一般的な予算体系のイメージは次の通りです。
予算体系を見ると、たくさんの予算があってかなり細かい印象ですが、基本となるのは損益予算です。これを達成するために、
資金予算(キャッシュに関する予算)や資本予算(設備投資や研究開発に関する予算)
が必要になります。
3 予算編成方針を立て、実行する
通常、予算を取りまとめるのは経理や経営企画などです。まずは、こうした担当部門(以下「予算担当部門」)が、予算編成方針を策定します。予算編成方針は、各部門が予算を作成する際の基本であり、次のような項目が示されます。
- 目標利益額または目標利益率
- 販売方針と売上高の目標
- 費用に関する基本方針(重点的に削減する費用、積極的に使用する費用など)
- 在庫方針、回収・支払い方針
- 設備投資計画
- 要員計画
- その他
各部門は予算編成方針に基づいて予算案を作成します。ここでとても重要になるのがフォーマットの統一です。記載の順序の他、費目(名称や振り分けなど)や単位(千円単位、百万円単位など)などについても統一しなければなりません。
多分野で事業を行う場合、細かなところまでフォーマットを統一するのが難しいこともありますが、予算担当部門が該当部門にヒアリングをして擦り合わせをし、部門独特の費目を全社的に統一したフォーマットのどこに振り分けるのかを決めます。
また、予算担当部門は予算案の提出期日を定めて各部門に通知しますが、これに間に合わない部門が出てくることが珍しくありません。多少の遅れはあらかじめ想定し、それを織り込んだ余裕のあるスケジュールを組みます。
予算担当部門は各部門から提出された予算を確認します。各部門の予算を総合しても企業全体の目標に足りない場合や、各部門の予算が“甘い”(費用が過小、販売計画が消極的など)場合は、該当部門に修正を依頼します。
修正が入る部門とそうでない部門で状況が変わってくるため、各部門の予算を「初回提出」「1次通し」「2次通し」などのように管理します。各部門の修正を繰り返しながら、中小企業であれば1~2カ月程度で予算を策定することになるでしょう。
4 予算と実績の差異分析を行う
1)報告時のルール策定
決定された予算に基づいて活動を開始したら、毎月、各部門から各月の実績と期首からの累計を、予算、実績、前年同期に分けて報告してもらいます。
ただし、各部門に好き勝手に報告させてはいけません。部門担当者は都合の悪い報告をしたくないため、計画比が良い部門は計画比の状況、前年同期比が良い部門は前年同期比の状況を中心に主観的な報告をしてきます。これでは正しく状況を把握できないため、予算担当部門があらかじめ報告フォーマットを作成し、各部門に配布しておくことが大切です。
2)予算差異分析の意義
期中(予算期間の途中)は、予算と実績の差異が必ず発生するものです。予算担当部門は、差異の発生頻度や差異の大きさから、差異が発生する原因を分析し、対策を講じなければなりません。これを「予算差異分析」といいます。
部門予算に関する予算差異分析は部門の予算担当者、企業全体の予算に関する予算差異分析は予算担当部門が行います。その結果に基づき、最終的な方向性(上方修正、現状維持、下方修正など)を決めるのは経営者の役割です。
差異が生じる理由は、期首の予算計画に実現性が乏しかった、予算作成時点では予測できなかった事態が発生したなどさまざまです。予備費の活用、費目の流用、予算外支出などで対応するのが基本ですが、差異が大きい場合は予算を修正します。
3)予算差異分析の方法
予算差異分析の基本は、
大きな差異に着目し、重点的に分析すること
です。
予算規模によって異なるため一概にはいえませんが、数%の差異についてまで各部門に報告を求める企業があります。予算統制という意味ではよいのですが、一方でビジネスは“生き物”であり、多少の差異は必ず生じます。小さな差異まで全て拾っていると、全体の予算担当部門や部門の予算担当者などの実務負担が大きくなってしまいます。
むしろ、しっかり分析すべきなのは、
そのときに生じた差異が予算期間内に解消されるか否か
です。単なる期ズレは看過する一方、予算期間内に解消されない差異についてはしっかり分析をして、対策を講じなければなりません。
4)優先すべきはどの数字?
予算管理では、期首に予算を作成した後、上期着地見込み、通期着地見込み、修正予算などさまざまな数字を管理します。加えて、企業には数字を管理している部門が複数あります。例えば、営業本部が予算担当部門とは異なる独自のフォーマットで、営業関係の予算と実績の報告を求めることがあります。
こうなると、各部門の担当者はどの数字を基準にすればよいのか混乱してしまうことがあります。この点について、予算担当部門が「あくまでも基本は期首の予算である」との方針を明確に示す必要があります。
5 予算管理を円滑に行うポイント
1)弾力性を確保する
予算作成時点では予測できなかった事態が発生して予算に過不足が生じた場合、予算管理を円滑に行うために弾力的な運用を行う必要があります。例えば、「事前に予備費の枠を設定しておく」「費目間の流用を認める」「追加予算を認める」といった対応が考えられます。
予備費の枠については、大き過ぎるのも問題なので、「予算全体の5~10%」などといった目安を決めておきましょう。
2)簡素化する
期中の予算管理をなるべく簡素で分かりやすいものにすることが大切です。1年経過後に期首の予算と期末の実績をきちんと比較するためには、期中のコントロールが不可欠です。そのため、各部門の担当者をはじめ関係者にとって、分かりやすい予算管理の方法を実現しましょう。
費用はかかりますが、予算管理システムの導入を検討してみてもよいでしょう。同じシステムの中でデータを共有したり、各部門の予算管理を行ったりすることができます。
3)適時性を確保する
当然のことですが、新年度から新しい予算に基づいた活動ができるようにしなければなりません。4月から予算年度が始まる企業の場合、1月末から2月にかけて予算を作成するようにします。
また、予算差異分析についても、結果のフィードバックが遅いと、改善が後手に回ります。半期予算、四半期予算、月次予算に対する予算差異分析の結果は、各予算の最終月(月次予算の場合は当月)の翌月にフィードバックします。
同様に、年間予算の予算差異分析の結果は、次年度予算の作成に反映できるように予算の作成時期に合わせてフィードバックします。
以上(2024年11月更新)
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