書いてあること
- 主な読者:タックスプランを作成していない中小企業の経営者・税務担当者
- 課題: タックスプランの作り方がわからない
- 解決策:まずは、将来の課税所得を予測する。予測した課税所得に基づき、さまざまな税務対策を計画し、実行する
1 タックスプランニングの必要性
タックスプランニングとは、将来の課税所得(課税の対象となる所得)を想定して、税務対策や納税資金の確保などについて計画(以下「タックスプラン」)を立てることをいいます。タックスプランニングを行うメリットとしては、「将来の税負担の最小化ができる」ことや「納税資金を予測できる」ことが挙げられます。
決算期末の直前になってしまうと有効な税務対策を行えないことが多くあります。そのため、あらかじめタックスプランニングを行い、計画的に税務対策を実行することで、将来の税負担を最小に抑えることができます。
また、法人税等は納付額が多額になることもあり、納期限の直前になって納税資金の確保に追われることも少なくありません。そのため、タックスプランニングを行い、納税資金を予測することで、資金計画に沿った資金繰りが可能になります。
2 タックスプランニング策定の基本的な手順と検討する際の留意点
1)タックスプランニング策定の基本的な手順
タックスプランニングを策定する場合、まずは将来の課税所得を予測することが必要となります。将来の3事業年度(翌事業年度、翌々事業年度、翌々々事業年度)の課税所得を予測することが望ましいのですが、将来の1事業年度(翌事業年度)だけの予測でも問題ありません。もし、将来の1事業年度の課税所得を予測することが困難な場合には、現在の事業年度の課税所得を予測することから始めてもよいでしょう。予測した課税所得に基づき、さまざまな税務対策(詳細後述)を計画・実行していくことになります。
なお、課税所得を予測する際には、実現可能かどうかなど、複雑な分析が必要になるため、公認会計士や税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
2)タックスプランニングを検討する際の留意点
税務対策の中には、資金の流出を伴うものが多いことから、タックスプランニングを検討する際には、資金の準備が必要になることがあります。そのような場合には、必要に応じ、金融機関から運転資金の融資を受けておくなどの事前対応が大事になります。また、時期によっては、その税務対策の効果が想定している事業年度に表れないこともあります。
このように、タックスプランニングは、自社の資金状況や税務対策を実行するタイミングなどに留意しつつ検討する必要があります。
3)タックスプランを事業年度の途中で修正する場合
当初に策定したタックスプランは、さまざまな事情に応じて適宜見直すことが望ましいと考えられます。
タックスプランを見直した結果、現在の事業年度の課税所得の見込み額が、当初に予測した課税所得に比べて大幅に相違がある場合には、タックスプランを事業年度の途中で修正しなければなりません。
1.課税所得が増加する場合
課税所得が当初に予測した金額を大幅に上回ることが分かった場合には、予定していた税務対策に加え、新たに課税所得を減少させる税務対策(詳細後述)を実行するようにしましょう。
2.課税所得が減少する場合
課税所得が当初に予測した金額を大幅に下回ることが分かった場合には、予定していた税務対策を取りやめることや、課税所得を増加させる税務対策を実行するようにしましょう。具体的には、次のものが挙げられます。
- 臨時改定事由に基づく役員給与の減額
- 事前確定届出給与を届け出ている場合における支給の中止
- 中小企業倒産防止共済の掛け金を支払っていた場合における中小企業倒産防止共済の解約
- 生命保険に加入していた場合における生命保険の解約
3 事業年度の開始前と開始直後に実行できる代表的な税務対策
1)事業年度の開始前
1.所得拡大促進税制の適用
従業員に対する給与のベースアップなどを行うことにより、所得拡大促進税制の適用(税額控除)を受けることができます。
2.連結納税制度の導入
グループ会社の中で、課税所得がプラスの会社とマイナスの会社とが存在する場合には、連結納税制度を導入することにより、法人税の課税所得を通算することができます。連結納税制度を採用するためには、原則として、事業年度開始の日の3カ月前の日までに申請書を提出する必要があります。
3.合併の実行
グループ会社のうち、繰越欠損金を有する会社が存在する場合には、課税所得がプラスの会社と合併することにより、繰越欠損金の有効活用ができるケースがあります。その場合、特定資産譲渡等損失や欠損等法人の欠損金の不適用の規定に留意する必要があります。
4.分割や株式交換・株式移転の実行
所得の分散化や交際費の定額控除限度額の活用などを目的として、会社の1部門を分割により分社化することや、株式交換・株式移転により持株会社を設立します。
2)事業年度の開始直後
一般的には事業年度開始の日から3カ月以内に行われる定時株主総会において、役員給与の支給額を改定することや、事前確定届出給与の支給を設定することができます。事前確定届出給与を設定した場合、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限は、原則として、支給の決議をした日(同日が職務の執行を開始する日後である場合には、その開始する日)から1カ月を経過する日までとされています。
4 決算期直前でも検討できる税務対策
2020年3月期決算の会社について、今から実行可能なものとして、検討できる主な対策は次の通りです。なお、ここでは各対策の概要のみを紹介します。詳細は別途確認するようにしてください。
また、生命保険に係る支払保険料を損金にする税務対策は、税制改正により、解約返戻金の割合の高い保険について損金にできる割合が大きく減少しました。そのため、税務対策としての効果は少なくなりましたが、長期的なタックスプランニングを踏まえて、検討してみるのもいいでしょう。
1)中小企業倒産防止共済への加入
中小企業倒産防止共済に加入し、掛け金を支払った場合には、その全額を損金算入することができます。なお、掛け金は最大で800万円まで(ただし、年額240万円まで)支払うことが可能です。
2)決算賞与の支給
従業員に対して決算賞与を支給した際に、一定の要件を満たす場合には、その全額を損金算入することができます。
3)短期前払費用の支払い
支払家賃等について、年払い契約にしたうえで、今後継続して1年分を前払いする場合には、その全額を損金算入することができます。
4)日本型オペレーティング・リースの取得
日本型オペレーティング・リース(注)の出資持分を取得した場合には、今後の2~3事業年度において、出資金の全額を損金算入することができます。
(注)日本型オペレーティング・リースとは、航空機・船舶・海上コンテナ・プラント設備などの大型物件のリース事業に、投資家が営業者(特定目的会社)の出資者として参加するものです。
以上(2019年12月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 大関香一)
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