書いてあること

  • 主な読者:自社株の取得・処分を検討している中小企業の経営者
  • 課題:中小企業では、自社株取引は頻繁に発生しないため、その取り扱いに迷う
  • 解決策:自社株を取得・処分をした場合の会計上の取り扱いを解説する

1 貸借対照表の純資産の部の表示例

会社法により、株式会社は、自社の株式を取得することが認められています(会社法第155条)。自己株式の会計処理と表示については、法務省令の会社計算規則に定められています。

株式会社が自己株式を取得する場合、その取得価額を自己株式の額とします(会社計算規則第24条第1項)。自己株式は、純資産の部の株主資本に係る項目の中で、控除項目として区分表示します(会社計算規則第76条第2項)。

また、企業会計基準委員会の「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)」には、自己株式の貸借対照表における表示方法について「取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除する。期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示する」とされています。会社計算規則に基づいた貸借対照表の純資産の部の表示例は次のようになります。

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本稿は、会社計算規則と企業会計基準委員会の「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)」を基に自社株の取得・処分に係る会計処理方法についてまとめたものです。

2 自己株式の会計処理

1)自己株式の取得と保有

自己株式については、従来より資産として扱う考えと資本の控除として扱う考えがありました。資産として扱う考えは、自己株式を取得したのみでは株式は失効しておらず、その他の有価証券と同様に換金性のある会社財産とみることができる点を論拠としています。また、資本の控除として扱う考えは、自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有することを主な論拠としています。

会社法第155条には、「株式会社は、次(同条第1~第13号)に掲げる場合に限り、自己株式を取得することができる」と規定されています。

取締役会設置会社は、市場取引等により自己株式を取得することを取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができます(会社法第165条第2項)。

自己株式の取得価額の総額は、分配可能利益を超えることはできません(会社法第461条第1項)。会社法上の「分配可能額」は分配(配当や自己株式取得)時の財政状態を基に計算されます(会社法第461条第2項)。

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自己株式2000万円を保有したまま期末を迎えた場合、貸借対照表の純資産の部は次のようになります。

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2)自己株式の処分

自己株式の処分は株主との間の資本取引と考えることができ、自己株式の処分に伴う処分差額は原則として損益計算書に計上せず、純資産の部の項目を直接増減します。 自己株式を処分する際に生じる自己株式の処分差益は、その他資本剰余金に計上します。自己株式の処分差損は、その他資本剰余金から減額し、減額しきれない場合は、繰越利益剰余金から減額します。

自己株式処分差益と自己株式処分差損は、会計年度単位で相殺した上で上記処理を行います。

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自己株式1000万円を保有したまま期末を迎えた場合、貸借対照表の純資産の部の株主資本は次のようになります。

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3)自己株式の消却

株式会社は自己株式を消却することができます(会社法第178条第1項)。また、取締役会設置会社では、株式消却の決定は取締役会の決議によらなければなりません(会社法第178条第2項)。自己株式を消却する場合、消却手続きが完了したときに、その他資本剰余金から減額します。

その他資本剰余金の残高がマイナスになった場合、会計期間末において、その他資本剰余金をゼロとして、そのマイナス分の金額を繰越利益剰余金から減額します。

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以上(2019年10月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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