書いてあること
- 主な読者:活用していない不動産の取り扱いに迷っている経営者
- 課題:不動産を保有するだけで固定資産税がかかる。地域によっては都市計画税もかかる
- 解決策:目先の資金繰りだけではなく、売却や賃貸した際の納税額を確認して意思決定する
1 その不動産は、自社にとって本当に必要ですか?
不動産は保有しているだけでは収益を生みません。むしろ税金や補強費用・防犯費用など、キャッシュが出ていくばかりです。もし、資金繰りに窮していたり、将来に備えたりしたい場合、保有している不動産の資金化を検討したいところでしょう。例えば、かつて投資用に購入したが塩漬け状態になっている不動産を賃貸物件にしたり、売却したりすることで資金が確保できます。
注意が必要なのは、不動産の売却では多額の利益(または損失)が出ることがあり、
法人税・住民税・事業税(以下「法人税等」)の納税額に大きな影響を及ぼす
ことです。また、土地の売却は「消費税の非課税売上」に該当しますが、非課税売上が大きくなると課税売上割合(仮受消費税と相殺できる仮払消費税の金額を決める割合)が下がり、
通常の決算より消費税の納税額が増える
ことが多いです。
不動産を賃貸する場合も、賃貸から生じた利益については法人税等がかかるため、事前に納税額をシミュレーションしておくことが重要です。
2 保有しているだけでかかる税金とは
1)不動産の保有でかかるのは「固定資産税」と「都市計画税」
不動産保有時に課される税金は「固定資産税」と「都市計画税」です。
固定資産税とは、毎年1月1日時点で不動産(土地・建物)を保有している人に課せられる税金です。都市計画税は固定資産税に似た税金ですが、保有している不動産が市街化区域内(都市部など)にある場合に課される税金です。
固定資産税は確定申告を行う法人税などと異なり、賦課課税方式といって地方自治体が税額を計算して納税通知書と納付書が送られてきますので、その納付書を使って納付します。都市計画税も固定資産税と同様で、都市計画税が課される場合には、固定資産税と併せて納付することになります。
2)固定資産税と都市計画税の計算方法と特例
固定資産税と都市計画税の計算方法は同じです。課税標準(固定資産税評価額)に税率を掛けて計算します。なお、税率は地方自治体によって異なります。ここで紹介している税率は、標準税率(地方税法で定める通常の税率)です。
- 固定資産税=課税標準(固定資産税評価額)×1.4%
- 都市計画税=課税標準(固定資産税評価額)×0.3%
土地の固定資産税評価額は「公示地価」の70%程度になるように設定されています。公示地価とは、国土交通省が発表する全国の土地価格の基準値のことで、毎年3月に発表されます。家屋の固定資産税評価額は、家屋を再建築する場合にかかる費用と、その家屋の劣化状況を加味して決定され、おおむね建築費の50~70%程度の価格になります。
なお、住宅用地(土地)は、一戸当たりの広さによって受けられる固定資産税・都市計画税の特例(税率を掛ける前の金額である課税標準を減額する制度)があります。
また、新築住宅(家屋)については、居住部分や床面積の割合によって受けられる固定資産税の特例(税額から直接差し引くことができる制度)があります。
3 不動産を売却すると、どんな税金がかかる?
1)法人税・住民税・事業税
不動産を売却し、売却価格が帳簿価格を上回る場合(つまり利益が出た場合)、法人税等がかかります。不動産を売却して得た利益は、その利益単体で法人税等が課せられるのではなく、本業で得た利益(所得)と合算して課せられます。そのため、不動産を売却して利益を得たのに対し、本業が赤字の場合には、損益を通算して所得を計算することになります。不動産売却で赤字が出て本業が黒字の場合も同様に通算されます。
2)消費税
不動産取引のうち、土地部分は非課税取引に該当するので消費税は課されませんが、建物部分については消費税が課されます。そのため、建物部分の売却価格に応じた消費税を不動産の買い手から預かり、本業から生じた消費税と併せて申告・納付する必要があります。
3)印紙税
不動産を売買するときには契約書を作成しますが、この契約書には収入印紙を貼らなければなりません。この収入印紙の金額は、契約書に記載された契約金額に応じ、200円から48万円までになります。これは2024年3月31日までに作成された契約書に限られ、2024年4月1日以降に作成された契約書については金額が変わる可能性があります。
4 不動産を賃貸すると、どんな税金がかかる?
1)法人税・住民税・事業税
不動産を売却した場合と同様に、賃貸料収入については、本業で得た利益(所得)と合算して法人税等が課せられます。
2)消費税
不動産の賃貸のうち、「土地の貸付」「建物のうち居住用物件の貸付」は非課税取引に該当するので消費税は課されませんが、「建物のうち事業用物件の貸付」については消費税が課されます。そのため、事業用物件の賃貸料収入とともに消費税を借り手から預かり、本業から生じた消費税と併せて申告・納付する必要があります。
3)印紙税
不動産を賃貸するときには契約書を作成しますが、このうち「土地の貸付」については、契約書に収入印紙を貼らなければなりません(建物の貸付の場合、収入印紙は不要です)。この収入印紙の金額は、契約書に記載された契約金額に応じ、200円から60万円までとなります。
4)固定資産税・都市計画税
固定資産税・都市計画税は毎年1月1日時点で不動産(土地・建物)を保有している人に課せられる市町村税です。そのため、不動産を賃貸する場合、固定資産税・都市計画税は不動産を保有するオーナーが負担します。
以上(2023年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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