書いてあること
- 主な読者:リーンボンドについて知りたい経営者
- 課題:発行するメリットやモデルケースを詳しく知りたい
- 解決策:グリーンボンド発行により、グリーンプロジェクト推進に積極的であることをアピールできるといったメリットがある
1 グリーンボンドとは
近年、地球温暖化による異常気象などが問題視される中で、環境問題への意識がますます高まっています。2016年11月に発効したパリ協定(日本では2016年12月に効力発生)では、世界共通の長期目標として、産業革命前からの世界全体の平均気温上昇を2度未満に抑える(1.5度に抑える努力をする)ことなどが掲げられました。
この長期目標を達成するためには、環境問題の解決に貢献する事業(以下「グリーンプロジェクト」)に民間資金を大量に導入していくことが不可欠です。そこで、グリーンプロジェクトの資金調達に限定して発行される債券「グリーンボンド(環境債)」が国際的に注目を集めるようになりました。
グリーンボンドの発行とそれに対する投資は、EUや米国、ここ数年では中国などのアジア地域を中心に活発化しています。しかし、日本では低金利が長期化していることなどから、通常の債券よりも発行に手間の掛かるグリーンボンドの発行額は少なく、市場としては発展途上です。
そこで、日本は2017年3月に「グリーンボンドガイドライン2017年版」を策定するなどして、国内でのグリーンボンドの普及を推進しています。今後、日本でもグリーンボンド市場が発展していく可能性があります。
2 グリーンボンド市場の動向
1)世界のグリーンボンド市場
世界のグリーンボンド年間発行額の推移は次の通りです。
2014年1月に、国際的なガイドラインである「グリーンボンド原則(以下「GBP」)」が策定されたことなどで、発行額が急増しました。2017年の発行額は1608億ドルとなっています。
GBPが策定されるまでは、世界銀行などの国際開発金融機関が発行額の多くを占めていました。しかし、GBPによって、それまで不明瞭だった調達資金の管理、情報開示、投資家への報告などが自主的ルールとして定められたことで、民間金融機関や民間企業、地方自治体などによる発行が増加しました。
国別の発行額では、2017年時点で米国が424億ドルと最も多く、次いで中国が371億ドルとなっています。中国は、2015年に国内向けのグリーンボンド発行ガイドラインが策定されたことなどで、発行額が急増しました。
2)世界と日本における発行事例
世界のグリーンボンド発行事例(民間企業)は次の通りです。
グリーンボンドが発行される具体的なグリーンプロジェクトの事例としては、再生可能エネルギー、省エネ性能の高い建築物(グリーンビルディング)の新築、電気自動車や水素自動車などの低公害車の購入支援などが見られます。米国や中国などでは、こうした事業に数千億円規模の大型投資を行っています。
日本のグリーンボンド発行事例は次の通りです。
日本においては、主にメガバンクなどがグリーンボンドを発行しています。現状、その多くは途上国の環境対策への投資に使いやすいドルやユーロなど外貨建てです。
しかし最近では、野村総合研究所がガス発電時の廃熱を空調に活用するなど環境性能の高いビル(横浜野村ビル)の一部を取得するために、2016年9月、日本の事業会社としては初めて円建てでグリーンボンドを発行しました。それ以降、円建ての発行事例も増えています。
グリーンボンド発行促進プラットフォームによると、国内企業の発行実績は、2016年が約748億円(4件)だったのに対し、2017年は約2176億円(10件)に増加しています。また、2018年は、6月時点ですでに約1400億円(6件)となり、前年を上回るペースとなっています。
2017年3月に策定された「グリーンボンドガイドライン2017年版」(以下「ガイドライン」)では、一般的に定義されているグリーンボンドのメリットや発行フローなどがまとめられています。
3 ガイドラインから見るグリーンボンド
1)グリーンボンドのメリット
グリーンボンドの発行体の主なメリットは次の通りです。
- グリーンボンドは調達資金の使途がグリーンプロジェクトに限定される。グリーンボンド発行によりグリーンプロジェクト推進に積極的であることをアピールでき、それを通じて社会的支持の獲得につながる可能性がある
- グリーンボンド発行により、グリーン投資家等と新たな関係を構築し、資金調達基盤の強化につながる可能性がある。
2)発行フロー
グリーンボンドと他の債券との最大の違いは、調達資金の使用使途をグリーンプロジェクトに限定していることです。投資家は、拠出した資金がグリーンプロジェクトに充当され、環境改善効果がもたらされることを期待して投資します。
そのため、グリーンボンドの発行体は、通常の社債や地方債、証券化商品などの発行手続きに加えて、投資家に対して調達資金の管理方法や環境改善効果を説明するなどする必要があります。
グリーンボンド発行のフローは次の通りです。
3)グリーンボンドによる調達資金の追跡管理
発行体は、グリーンボンドにより調達された資金が確実にグリーンプロジェクトに充当されるよう、調達資金の全額について追跡管理を行います。
追跡管理の方法としては、社内システムや電子ファイルで調達資金の全額とグリーンプロジェクトへの充当資金の累計額を管理し、定期的に両者を調整して、後者が前者を上回るようにすることなどが挙げられます。
4)環境改善効果の算定、レポーティング
発行体は、グリーンプロジェクトの進捗状況を含む概要、グリーンプロジェクトに充当した資金の額、グリーンプロジェクトがもたらすことが期待される環境改善効果などに関する最新の情報を、発行後に一般に開示する必要があります。
開示方法としては、発行体のウェブサイトなどに情報を掲載することなどが挙げられます。
5)外部機関によるレビューの取得
発行体は、グリーンボンド発行に際し、客観的評価が必要と判断する場合は、外部機関によるレビューを受けることが望ましいでしょう。
発行前のレビューとしては、グリーンプロジェクトの評価基準の評価や、期待される環境改善効果の適切性の評価などが挙げられます。
発行後のレビューとしては、グリーンボンドにより調達された資金管理の評価や、グリーンプロジェクトへの調達資金の充当が発行前に発行体が定めた方法で適切に行われていたかの評価などが挙げられます。
6)想定モデルケース
ガイドラインでは、実際にグリーンボンド発行モデルケースを想定し、例示しています。民間企業が発行体となる想定モデルケースは、次の通りです。
- 風力発電・太陽光発電事業を行うSPC(特別目的会社)が、事業資金を調達するケース
- 廃棄物処理業を営む事業会社が、自社工場内に廃棄物からのレアメタル回収を行う施設を新設するとともに、当該施設に有害化学物質を含む排水の高度な処理設備を付するための資金を調達するケース
- 製造業を営む事業会社が、自社工場の省エネ性能を高めるための改修資金や、本社オフィスを省エネ性能の高いビルに建て替える資金を調達するケース
- 自動車メーカーのグループ企業である金融会社が、電気自動車、水素自動車等の低公害車の購入者向けの融資に係る融資債権を信託スキームを活用して証券化し、資金を調達するケース
4 日本におけるグリーンボンド市場の可能性
1)中小企業や中小規模自治体による活用の可能性
ガイドラインによって、日本国内においてもグリーンボンドの考え方が整理されました。とはいえ、中小企業が容易にグリーンボンドを発行できるほど、市場は成熟していません。
そこで、国としては、まずは大企業や大規模自治体からグリーンボンドを市場に浸透させ、認知度を上げていきながら、中小企業や中小規模自治体へと活用の可能性を広げていくことを考えています。
例えば、東京都は、2017年10月に機関投資家向けに円建てで総額100億円、12月には個人向けにオーストラリア・ドル建てで約92億円(1.17億オーストラリア・ドル)の「東京グリーンボンド」をそれぞれ発行しています。
将来的には、地方自治体や地域の事業者が、地域におけるグリーンプロジェクトのためにグリーンボンドを発行し、地域の資金が地域で循環する流れや、雇用の創出、観光事業の発展などを生み出すことが期待されています。
2)ESG投資対象としてのグリーンボンド
近年、日本を含めた国際的な潮流としてESG投資が拡大しています。ESG投資とは、財務情報だけでなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)などの非財務情報も考慮する投資手法であり、その対象としてグリーンボンドが注目を集めています。
日本の投資家も、グリーンボンド市場の主要な買い手です。例えば、日本の大手生命保険会社の中には、グリーンボンドに数百億円規模で投資を行い、今後は、グリーンボンドを含めたESG債券投資を数千億円規模に拡大させる方針を示しているところもあります。
日本は、EUや中国と同様にパリ協定を批准しており、2030年に温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減するという目標を掲げています。今後、日本国内において、こうした目標に向けた対策が本格化していくことにより、グリーンボンドへの投資がさらに活発化する可能性があります。
以上(2018年10月)
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画像:pexels