書いてあること

  • 主な読者:事業のための設備投資を検討している経営者
  • 課題:具体的な資金調達方法を知りたい
  • 解決策:借り入れや社債の発行などによる社外の外部調達手段は選択肢が豊富。社内で調達するより多額の金額を調達できる

1 設備投資資金の調達方法

資金調達の方法を検討する際のポイントには次のようなものがあります。それぞれの資金調達にはメリットとデメリットがあります。資金調達をする目的やその時々の金融情勢を考慮した上で、手段を選ぶようにしましょう

  • 誰から資金調達するのか?
  • どれくらいの期間(短期・長期)
  • 何の目的(設備投資、運転資金など)
  • どれだけの量(金額)

ここでは、調達額が大きくなる設備投資資金を想定します。社内からの調達、社外からの調達の双方に触れますが、中心は選択肢が豊富で多くを調達しやすい外部からの調達のほうです。

2 誰から資金を調達するか?

1)社内から調達:内部資金

内部資金はこれまでの企業活動によって蓄積された資金であり、努力の結晶でもあります。代表的なものは、内部留保です。内部留保は、利益準備金などとして企業に留保された資金であり、株主への配当金を除いたものを示します。

この他にも、資金調達コストが掛からず、運用可能な資金を調達するという意味では、「遊休不動産の売却」「経費の削減」なども考えられます。

内部資金のメリットは、「調達に関わる事務が社内で完結すること」などです。一方、デメリットは、「基本的に既存の経営の延長線であるため、多額の資金を調達するまでに時間が掛かる」ことです。金額によっては、次の外部資金と合わせて調達します。

2)社外から調達:外部資金

外部資金は、金融機関、投資家、既存取引先など、社外から調達する資金です。主な方法としては、次のようなものが挙げられます。

  • 金融機関からの借り入れ(間接金融)
  • 新株や社債の発行、クラウドファンディング(直接金融)
  • 公的機関からの資金調達(助成金や補助金受給)
  • 債権の早期現金化(流動化)

外部資金のメリットは、「資力がある団体・企業・人から十分な金額を調達しやすく、内部資金に比べて調達までの時間が掛からないこと」「大手金融機関と取引することは一定のブランドにつながること」です。一方、デメリットは、「調達の手続きが社内で完結しないため交渉や事務の手間が掛かること」です。

3 金融機関からの借り入れ(間接金融)

1)間接金融とは

資金の出し手(この場合は、預金者)と資金の取り手(資金を調達する企業、以下同じ)の間に金融機関を挟むことから、「間接」とされる資金調達の方法です。多くの企業にとって最も一般的な資金調達の方法でしょう。

資金の取り手は、資金調達時に貸し手の金融機関のみを交渉相手とすればよいため、比較的手間が掛からないのがメリットです。一方、資金調達時の条件が資金の取り手と金融機関の力関係に左右されるというデメリットがあります。

金融機関からの借り入れは借入期間によって、短期借入金(借入期間が1年以内)と長期借入金(借入期間が1年を超える)に大別されます。

2)動産担保融資

動産担保融資とは、動産を担保とする融資で、担保となる動産によって借入期間が異なってきます。この方法では、資金の取り手の事業力に評価の重点を置いて動産の担保価値を評価するため、「経営能力は高いが不動産など一般的な担保が乏しい」という資金の取り手であっても、十分な金額の資金調達ができる可能性があります。

近年、法律の整備、融資の保証制度など支援施策の充実、評価ノウハウの蓄積によって、使い勝手が良くなってきている資金調達の方法です。

4 新株や社債の発行(直接金融)

1)直接金融とは

投資家や企業の関係者などの資金の出し手から直接資金を調達するため、「直接」が付く資金調達方法です。返済までの期間は、長期間または事実上無期限です。一方で、直接金融による資金調達に当たって会社法などの法令に基づく義務が資金の取り手に課されることから、調達コストや管理の手間が掛かります。

2)新株の発行(増資)

資金の取り手が新たに株式を発行(増資)し、投資家、自社の経営者や取引先といった関係者などに引き受けて(購入して)もらう資金調達方法で、多額かつ長期の資金を必要とする際などに利用されます。この方法では、返済期限の定めがない資金の調達が可能です。一方、資金調達時やその後に株主管理の手間やコストが掛かったり、経営に介入されやすくなったりします。

主な新株の発行による資金調達方法は次の通りです。

1.縁故募集

発行した株式を、資金の取り手の経営者や取引先などの関係者(縁故者)に引き受けてもらう資金調達方法で、一般的な直接金融による資金調達の方法です。引受先を限定するため、株主管理の手間やコストが比較的少なくて済み、元来から信頼関係がある先が株式を取得することから、経営への介入も抑えることができます。

一方、機関投資家や不特定多数の投資家への割り当てに比べて、資金の出し手の資力が乏しい傾向があるため、多額の資金調達に向いていない場合があります。

2.ベンチャーキャピタル、中小企業投資育成株式会社への割り当て

発行した株式を、中小・ベンチャー企業への投資を専門的に行っているベンチャーキャピタルや中小企業投資育成株式会社に割り当てて資金調達する方法です。

資力がある機関が出資することから比較的多額の資金調達ができ、出資を受け入れた後に機関が派遣する専門家による支援が受けられる場合があります。一方、資金の出し手から一定の利益を出すことを要求される傾向があります。

3.事業会社への割り当て

発効した株式を、事業会社に割り当てる資金調達方法です。

大規模な事業会社から出資を受けることで、多額な資金調達ができ、また業務提携という形で人的支援やネットワークの共有など経営全般に影響を受けることになります。

4.不特定多数の投資家に割り当て

株式の購入を希望する不特定多数の投資家に対して、新株を割り当てる方法です。この方法は、証券取引所(金融商品取引所)への上場時に合わせて行われるのが一般的ですが、非上場の資金の取り手がこの方法で資金調達をするケースもあります(注)。

知名度や信用力がある資金の取り手であれば、特定の人・企業に偏らず、さまざまな投資家から多額の資金を調達できます。一方、株主管理の手間やコストが膨大で、資金の取り手が自社単独で勧誘する場合は、引受先を開拓するのにも手間やコストが掛かります。

(注)なお、証券取引所に上場していない企業の株式(いわゆる「未公開株」)については、当該株式の発行会社以外の企業が投資家に対して購入を勧誘することは、日本証券業協会の自主規制ルールに基づき、原則として禁止されています。

5.種類株式の発行による資金調達

ここまで紹介した方式で株式の発行による資金調達を行う場合、いずれの方式でもネックとなるのが「株主の経営への介入」です。

そこで考えたいのが、種類株式の発行による資金調達です。種類株式は、剰余金・残余財産の配当(配分)・議決権の行使など株主の権利に関して標準的な地位が与えられている普通株式と異なり、「配当が優先的に行われる代わりに議決権の行使が制限される」「1株当たりの議決権が普通株式の10倍」など標準的な地位にない株式のことをいいます。

この種類株式を発行することで、「資金調達はしつつ、経営への影響を抑える」といった資本政策が可能となり、資金の取り手は事業の幅を広げつつ経営の自由度を維持することができます。資金調達を考える際の選択肢の1つとして考えてみてもよいでしょう。

3)社債の発行

資金の取り手が新たに債券を発行し、投資家、自社の経営者や取引先といった関係者などに引き受けて(購入して)もらう資金調達方法で、新株発行と同様に多額かつ長期の資金を必要とする際に利用されます。一種の借り入れであり、定期的な利払いや一定期間後に返済することが義務付けられている点が、新株の発行と異なります。

金融機関からの借り入れと比較すると、資金の取り手が金利や返済期間などの条件を任意に決められます。一方で、調達や管理のコスト・手間が掛かり、資金調達後の条件変更も困難です。

1.発行される社債の種類

資金の調達に際して発行される社債の種類には、次が挙げられます。

  • 普通社債(SB、事業債)
  • 新株予約権付社債(WB、ワラント債)

普通社債(SB、事業債)とは、利回りと満期における元金の返済を約束した社債です。

新株予約権付社債(WB、ワラント債)とは、普通社債に新株予約権が付加された社債です。新株予約権は一定の期間内に一定の価格で、所定の数量の株式を購入できる権利です。新株予約権の権利行使時に、新株の払込価額を社債金額で払い込む、つまり代用払込が認められる場合は、旧来の転換社債(CB)と同様の社債(転換社債型新株予約権付社債)になります。

2.調達方法:少人数私募債

50人未満の投資家や企業などに対して、資金の取り手が社債の購入申し込みの勧誘を行う調達方法です。法的な義務が少ないため、調達や管理の手間が少なくて済み、調達コストを抑えられます。一方、調達に当たっては法的な義務を限定するための要件が厳しく、対象者数が限られるため、多額の資金を調達しにくい傾向があります。

3.調達方法:公募債

不特定多数の投資家や企業などに対して社債の購入申し込みの勧誘を行う調達方法です。少人数私募債に比べて勧誘人数や募集金額の制約が少ないため、多額の資金を調達しやすい傾向があります。一方で、資金の取り手に課される法的な義務が多く、調達や管理の手間やコストが掛かります。

4)クラウドファンディング

インターネットを通じて資金の取り手が案件を提示し、その案件に関心を持った不特定多数の人から小口の資金を集める資金調達方法です。

クラウドファンディングは資金の出し手に対する金銭的な対価が発生しない「寄付型」、製品・サービスを提供する「購入型」、金銭的な対価が発生する「金融型」の大きく3つに分類されます。また、金融型には、投資(ファンド)型、貸付(融資)型、株式投資(エクイティ)型があります。

設備投資の資金調達は、比較的多額の資金が調達しやすい金融型のクラウドファンディングで行われることが多いようです。また、新店舗の内装・機器など必要な資金が少額で、顧客づくりを資金調達と並行して行い、かつ市場調査も兼ねて実施する場合は、サービス利用券などを対価とする購入型のクラウドファンディングで資金調達することがあるようです。

5 公的機関からの資金調達(助成金や補助金受給)

1)企業の資金調達を支援する施策の活用による資金調達

官公庁、政府系金融機関、地方自治体などの公的機関では、「中小企業の経営支援」「特定産業の育成」「地域経済の振興」などの政策課題を解決するために、企業の資金調達を支援する施策を講じています。

2)政府系金融機関などからの融資

日本政策金融公庫など、政府系金融機関や公的機関が提供している融資を利用して資金調達する方法です。融資を受けるに当たっては、公的機関に直接申し込む方法と、金融機関を通じて申し込む方法があります。

この方法は、金利が金融機関より低い、返済期間が長期、担保が不要なことが多いという傾向があります。一方、資金調達に当たって多量の書類をそろえる必要がある、融資の要件が厳しい、融資中の条件変更(金利の引き下げ、返済期間の延長など)が困難であるという傾向があります。

3)公的機関による債務の保証

全国各地に設けられた信用保証協会などの公的機関が、資金の取り手の融資返済の保証を行う制度です。この制度を利用して債務の保証を受けた資金の取り手に万が一の事態が生じ、返済が滞った場合は、公的機関が資金の取り手に代わって金融機関に返済します(信用保証協会の保証割合は原則として借入金額の80%)。公的機関による債務の保証そのものに資金調達の機能はありませんが、資金調達に当たっての信用補完に活用できます。

信用力のある第三者の保証を受けられることから、金融機関からの融資が受けやすくなります。一方、保証料を支払う必要があるため、普通の金融機関の融資に比べて調達コストが高くなります。

4)省庁、地方自治体など公的機関が実施する助成・補助制度

公的機関が実施する助成・補助制度を活用した資金調達方法です。省庁、地方自治体、官公庁の外郭団体などでは、一定要件を満たした企業に対して政策目標を達成するために助成金や補助金の交付を実施しています。

返済が不要な場合が多いため、有利な資金調達といえます。一方で、提出する書類を整える必要があるなど手続きが煩雑であることに加え、資金の使途が厳しく制限されていて違反時にはペナルティー(助成金・補助金の返還など)が科されます。また、補助金の場合は、交付の前に支出が発生するため、キャッシュフローの検討が必要になります。

6 資産の証券化

1)概要

資産の証券化とは、オリジネーター(原債権保有者)の保有する資産を特定目的会社(TMK、SPC)などの「ビークル」に譲渡し、ビークルが資産の受益権を証券として投資家に販売することにより現金に換える方法です。資金調達の多様化や資産のオフバランス化を進める上で、有力な手段といえます。

2)資金調達の多様化を図ることができる

オリジネーターからみると、資産の証券化には資金調達を多様化できるというメリットがあります。例えば、優良な不動産を持つ企業であれば、証券化を利用することで新たな資金調達の手段を確保できます。

証券化の対象となる資産は、安定的にキャッシュフロー(賃貸収入)を生み出す物件であることが必要であり、具体的には、「賃貸マンション」「小売業の店舗」「工場」「本社ビル」などが挙げられます。

3)資産のオフバランス化を図ることができる

資産を貸借対照表から外すことを「オフバランス化」といいます。資産のオフバランス化により、「総資産利益率(ROA)」「株主資本利益率(ROE)」「自己資本比率」などが改善します。

7 リース取引

1)リース取引とは

リース取引とは、貸手(リース会社)が借手の代わりに特定の物件を購入し、双方が合意した期間(リース期間)に当該物件を使用する権利を借手に与え、借手は使用料(リース料)を貸手に支払う取引です。現在では、金融機関からの借入とは異なる、設備投資資金調達の方法として一般的となっています。

リース取引に適した物件として、次のものが挙げられます。

1.技術革新が急速に進んでいる物件

日進月歩で技術革新が進む物件は、すぐに高性能な製品が開発されるため、数年で取り換えが必要になる場合があります。リースであれば、リース期間満了時に取り換えが行われます。

逆にいえば、技術開発が成熟していて、すぐに大きな技術革新が予想されないものは購入したほうがよいともいえます。

2.高額な物件

高額な物件は一度に支払うのが難しいため、支払いを分割できる方法が望ましく、金額が大きければ金利変動のリスクも大きいため、金利変動に影響されないリースが適しています。支出額が一定であるため、金利上昇によるコスト増を避けることができます。

また、リース期間と物件の使用期間が一致しているため、設備投資資金の支払いと回収のタイミングも近くなり、資金の収支バランスもよくなります。

2)リース取引の分類

1.ファイナンス・リース取引

リース取引を事実上中途で解約できないリース取引であり、借手が物件に関わる費用(物件代金・金利・固定資産税・保険料など)を実質的に負担することになります。

当該物件は購入した場合と同様に使用できるため、実態は賃貸借というより資金調達の性格が強いといえます。

原則売買処理(オンバランス取引)であり、減価償却費を通じて、全額損金処理が可能です。

2.オペレーティング・リース取引

リース期間満了時の物件価値(残価)の査定に基づいて行われるリースであり、当該物件の元本部分から残価を差し引いて、リース料を算出するリース取引です。リース期間の自由な設定が可能であり、中古品市場が活発で一定の相場がある設備(例:自動車)の導入などに適しています。

賃貸借処理(オフバランス取引)であり、支払リース料を通じて、全額損金処理が可能です。

8 設備投資資金調達の際の留意点

1)設備投資資金の調達

設備投資の回収には長期間を要し、この間は資金が固定化するので、それに見合った調達方法を選択する必要があります。金利などの調達コストや自社の財務状況、業績見通しを照らし合わせ、自社に最適な方法を選択するようにしましょう。また、設備投資はタイミングがずれると想定していた効果が得られないこともあるため、調達の容易さ(スピード)の観点からも検討が必要です。

2)設備投資資金調達の手順

1.必要資金の算定、調達方法の検討、返済方法・借入期間の推計

設備計画、資金計画に基づいて必要資金を算定します。次に、社債、金融機関からの借り入れ、リースなどの具体的な借入方法を検討します。社債による調達は中堅・中小企業には困難な場合が多いため、金融機関からの借り入れが中心となります。また、設備投資後の予想利益や減価償却費を考慮しながら、返済方法や借入期間を推計します。設備投資をすると、メンテナンス費など追加の運転資金が必要となる場合もあるので、併せて検討する必要があります。

2.担保の確保

長期借入には確実な担保が必要です。担保には、土地・建物などの不動産を充てるのが一般的です。こうした物的担保と併せて企業の代表者などの人的担保、つまり個人保証が必要となる場合があります。個人保証の他に、親会社などによる法人保証もあります。

3.資金調達コストの検討と借り入れ時期の見極め

長期借入では資金調達コストがかさむため、コストの抑制が重要です。金融機関の貸出金利は、その時々の金融情勢、業績、担保、借入金額、借入期間、取引状況などで決まります。従って、金融緩和期(低金利の時期)を選ぶなど設備投資のタイミングを考えることが大切となります。

3)適切な情報開示が不可欠

前述した、いずれの資金調達方法にも共通するのは、「資金の取り手の信用力が高く返済・リターンが見込める、または資金の取り手の資金需要と政策目標に合致する案件では、資金調達が有利になる」という点です。そして、見込める・合致すると判断する有力な材料が、資金の取り手による積極的な情報開示です。

資金の取り手の情報開示の度合いが高い場合、資金の出し手がリスクやリターンの見極めがしやすくなります。そのため、資金の取り手は資金調達に当たって有利な条件(低金利、多額の投融資など)を資金の出し手から引き出しやすくなります。

逆に情報開示の度合いが低い場合は、リスクとリターンの見極めが難しくなりがちなため、資金の出し手は慎重になります。そのため、資金の取り手は不利な条件で資金調達をせざるを得なくなり、時として資金調達そのものが失敗する場合があります。

具体的に資金の出し手に提示する情報としては、自社の現状、財務データ、事業計画、市場データなどが挙げられます。

以上(2019年5月)
(監修 合同会社gtra and company 代表執行役 公認会計士 朝倉厳太郎)

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画像:pixabay

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