書いてあること
- 主な読者:適切な会計処理を徹底したい経営者や経理担当者
- 課題:自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることもあり、意外にも身近なもの
- 解決策:不正会計の兆しや防止策、もし不正を見つけたときに経営者が取るべき行動など、現場を知る公認会計士が教える
身近にある? 不正会計
不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?
しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない
不正会計は意外と身近にある
からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が生まれやすい時期でもあります。昨今のテレワークの浸透により内部統制が脆弱化している会社は少なくないと思われます。
では、経営者が不正会計の兆しをキャッチしたり、防止したりするために、どのような知識が必要なのか、現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。
Q1 代表的な不正会計とは?
不正会計とは、
決算書(貸借対照表や損益計算書など)に虚偽の表示をすること
です。代表的な不正会計は、「粉飾決算」「資産の流用」によるものです。
粉飾決算とは、
意図的に決算書(貸借対照表や損益計算書など)を操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること
です。詳細はQ2で解説しますが、「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。
資産の流用とは、
会社の資産を盗み取ること
です。詳細はQ3で解説しますが、現金預金の「横領」、物的資産の「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額です。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。
Q2 粉飾決算の具体的な方法とは?
売上の水増し計上とは、
本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること
です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には架空の売掛金も計上されます。
売上の前倒し計上とは、
本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること
です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、決算日後(将来)の売上を取り込んでしまうため、当年度の決算と翌年度の決算のいずれの決算書も虚偽の表示となります。
売上の水増し計上、売上の前倒し計上ともに、会社の利益をよく見せることが目的で行われる不正会計です。例えば、決算時点で赤字が明らかである場合、既存取引の売上の水増し計上をすることでその原価を差し引いた利益が本来の利益に上乗せされ、赤字決算を黒字決算へと変えてしまうことができます。
中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。
Q3 資産の流用(横領や窃盗)の具体的な方法とは?
横領とは、
自らの職位を利用して会社の資産を盗み取ること
です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為です。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。
窃盗とは、会社の物品を盗み取ることです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取ることなどの行為です。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。
これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。
Q4 不正会計の基本的な防止策とは?
不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、
不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと
です。これらを考慮した不正防止の仕組みをつくることが有効です。
1.動機
「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。
2.機会
「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。
3.正当化
「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。
Q5 経営者が粉飾決算を防止するためにすべきことは?
売上の水増し計上は、
貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口
があります。なぜなら、
その売掛金は架空のものであり、何もしなければ、現金回収されることなくいつまでも貸借対照表に計上し続けることになるから
です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、
売上の前倒し計上を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント
です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。
Q6 経営者が資産の流用を防止するためにすべきことは?
横領では、やはり、
担当者間のチェック体制が重要なポイント
です。経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける必要があるでしょう(職務分掌)。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。
窃盗は、
適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要
です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿に照らして在庫数量を確認する体制が必要です。また、他者が定期的に管理簿を閲覧して異常な記録がないか確認しましょう。
Q7 不正会計の疑いがある場合、経営者がとるべき対処は?
「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。
不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。
Q8 専門家の立場から、中小企業の経営者にアドバイスを!
コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、コーポレートガバナンス(企業統治)の基本原理の1つになります。
会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、基本的に会社は利益を追求していくことになります。しかし、利己的な利益追求をしていくと、法令すれすれ(グレーゾーン)の行動を取らざるを得ないこともあります。
さらに、目先の利益追求のために倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。
また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続に関わる重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。
以上(2023年10月更新)
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画像:polkadot-Adobe Stock