書いてあること

  • 主な読者:コロナ禍の助け合いとして「従業員シェア」を検討している経営者
  • 課題:従業員シェアには「在籍出向、副業、業務委託」の形態がある。税務上、在籍出向の場合は注意が必要
  • 解決策:在籍出向により従業員シェアをする場合、給与は出向先が支払うのが基本

1 従業員シェア。対象者への給料が寄附金になる?

コロナ禍だからこそ、経営者は何としてでも従業員の雇用を守ろうと考えます。実際にそうした思いが形になっているのが、企業の垣根を越えた助け合いといえる「従業員シェア」です。従業員シェアとは、複数の企業が業務の繁閑に応じて従業員を融通し合う取り組みです。業績好調な企業は採用コストをかけずに働き手が見つかりますし、業績不振な企業も従業員の雇用を守ることができます。

こうした従業員シェアは、次のいずれかの仕組みで実現します。

  • 在籍出向
    出向元(自社)と従業員の労働契約あり。従業員は出向元の指示で、出向先(他社)とも労働契約を交わし、出向先の指揮命令で働く
  • 副業
    本業先(自社)と従業員の労働契約あり。従業員は自身の意思で、副業先(他社)とも労働契約を交わし、副業先の指揮命令で働く
  • 業務委託
    勤め先(自社)と従業員の労働契約あり。従業員は自身の意思で、他社と業務委託契約を交わすが、他社の指揮命令は受けず、裁量権をもって業務委託契約を履行する

お伝えしたいのは、在籍出向で従業員シェアをした場合の給与の取り扱いです。税務上の基本は「出向者の給与は出向先が支払う」というものであり、これと異なる取り扱いをすると、給与のつもりで支払ったのに、寄附金として処理することになるなど、意図せぬ事態に陥ります。これがどういうことなのかを説明します。

なお、本稿では取り上げていませんが、一定の在籍出向を行うと「産業雇用安定助成金」を受給できることがあります。この助成金に対応した「出向者取扱規程」などのひな型は以下のコンテンツで紹介しています。

2 出向者の給与に関する税務上のポイント

1)出向先が出向者に給与を支払った場合

前述した通り、税務上では出向者の給与は出向先が支払うことを基本とします。出向先が給与(出向先の基準に基づく。以降、同様)を支払うことは税務上の考え方に沿うものであり、出向先は給与を損金算入できます。

2)出向元が給与を支払い、出向先から給与相当額を受け取っている場合

出向者に給与を支払っているのは出向元でも、出向先がその相当額である「給与負担金」(経営指導料など名称は問わない)を出向元に支払っている場合、実質的に給与を支払っているのは出向先と考えられます。そのため、出向先は給与負担金を損金算入できます。

一方、出向元が出向先から受け取る給与負担金は益金となります。ただし、出向元が出向者に支払う給与も損金算入できるので、プラスマイナス0となり課税関係は生じません。

3)出向元が給与を支払い、出向先から給与相当額を受け取っていない場合

税務上は、出向先が負担すべき出向者の給与を、出向元が立て替えていると考えます。立て替えているのに出向先から給与負担金の支払いがない場合、出向元が支払った給与は出向先への贈与となり、寄附金として取り扱われるのが原則です。

例外的に、「出向元の事情で出向させ、かつ出向先では出向を受け入れることで何らの利益もないような場合」には、出向元が従業員に支払った給与は損金算入できます。

一方、出向先では、帳簿上特段の処理を行わないことが通常です。そのため、税務上も課税関係は生じません。

4)出向先が給与を支払い、出向元から給与相当額を受け取っている場合

出向元が支払う給与負担金は、上記3)と同様に、基本的には寄附金となりますが、合理的な理由がある場合は例外として損金算入できます。

一方、出向先が出向元から受け取る給与負担金は益金となります。ただし、出向者に支払う給与は損金算入されるので、プラスマイナス0となり課税関係は生じません。

5)出向先の給与が出向元より低いので、出向元が出向者に補填した場合

出向元が出向者に支払う金銭は、合理的な理由がなければ出向先への寄附金となります。給与水準の調整のために出向元が出向者に支払う補填金については「合理的な理由」があると認められるため、出向元は損金算入できます。

以上(2021年4月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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画像:Adobe Stock-fizkes

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