書いてあること
- 主な読者:自社の固定資産税について、今一度確認したい経理担当者
- 課題:法人税などの税金に比べて、納税通知書が自治体から送られてくる固定資産税の内容を知っている経理担当社は少ない
- ポイント:固定資産税の仕組みやポイントを解説
1 普段意識されにくい固定資産税
固定資産税は市町村(東京23区の場合は都)が課す地方税です。所得税や法人税は所得金額と納税金額を申告して納税する申告納税方式ですが、固定資産税は市町村から納税通知書が送られ、その通知書に示された金額を納付する賦課課税方式です。
賦課課税方式であることもあり、普段あまり気に留められない固定資産税ですが、納税額が過大であったりする例もあります。また、償却資産の申告を怠ると過去に遡って延滞金を含め追徴課税されます。
土地の固定資産税評価額は3年に1度評価替えが行われます(直近では2018年)。本稿では、普段意識されにくい固定資産税にスポットを当て、その仕組みと留意すべき点について紹介します。
2 固定資産税の仕組み
1)市町村で異なる税率
固定資産税の標準税率は1.4%とされていますが、標準税率を超える税率を採用している市町村もあります。総務省「市町村民税及び固定資産税の税率等別市町村数調(令和元年度)」によると、固定資産税の税率別市町村数は次の通りです。
都市計画区域においては、固定資産税の他に都市計画税が課されます。都市計画税の税率は0.3%が上限とされています。東京都の場合、23区内は制限税率の0.3%が適用されていますが、府中市などでは0.2%となっています(2020年4月時点)。0.1ポイントの差ですが、地価の高い地域では大きな差となります。
都市計画税は都市計画事業または土地区画整理事業に要する費用に充当することを目的として、都市計画法による都市計画区域内に所在する土地及び家屋に対して、固定資産税とセットで課されます。
2)課税時期と納税通知書の交付時期
固定資産税はその年の1月1日時点で所有している資産に対して課税されます。なお、納税通知書の交付日程は自治体によって異なります。例えば、東京23区の場合、6月上旬に納税通知書が交付されます。
1月1日が課税の基準日であることから、不動産売買の売り手はそれより前に売りたい、買い手はそれより後に買いたいと考えがちです。このようなこともあり、不動産取引では売り手と買い手の負担の公平性を保つために、売り手が支払った(または支払う)固定資産税と都市計画税を日割り計算して、買い手に負担してもらうことが慣習として行われています。ちなみに、この負担額は取引価額に上乗せされます。
3)軽減措置
固定資産税には軽減措置が設けられています。住宅用の建物がある場合、その敷地の固定資産税の課税標準額(税金を計算する際の算定基準額)は次のように軽減されます。
固定資産税評価額が1平方メートル当たり10万円、面積が1000平方メートルの宅地で、軽減措置の効果を考えてみましょう。
この宅地が更地の場合、固定資産税評価額は1億円(10万円×1000平方メートル)になります。しかし、この宅地に総床面積100平方メートル以上の住宅を建築した場合、この宅地の固定資産税の課税標準額は約3000万円になります。
- 200平方メートル×10万円×1/6+800平方メートル×10万円×1/3
- =約3000万円
この軽減措置は、自ら居住する住宅だけでなく、賃貸住宅用の住宅用地も同様の扱いになります。
これが複合ビルになると、居住部分の割合に応じてその敷地が住宅用地とされる割合が異なってきます。地上5階建て以上の耐火建築物(併用住宅)の場合、建築物全体に占める居住部分の割合に応じて、住宅用地とされる率は次のように定められています。
- 1/4未満:0%
- 1/4以上1/2未満:50%
- 1/2以上3/4未満:75%
- 3/4以上:100%
4)租税公課
遊休地の固定資産税は、所得税の計算に当たり、経費に計上することができません。しかし、これを事業の用に供すると、その固定資産税は租税公課として経費計上することができます。従って、遊休地は、駐車場や資材置き場などの事業用地として利用したほうが、租税公課による経費計上の効果を得ることができます。
例えば、所得税率45%、住民税率10%の人が、固定資産税が200万円の遊休地を駐車場に転用したとします。この場合、200万円を経費に計上できることから、所得税と住民税を110万円軽減することができます。
- 200万円×(45%+10%)=110万円
ここで、住宅用地の軽減措置と租税公課を比較して、どちらの税額軽減効果が大きいかを確認してみましょう。
固定資産税の軽減措置1/3、都市計画税の軽減措置2/3が適用される住宅用地で比較してみます。固定資産税の税率を1.4%、都市計画税の税率を0.3%とします。
住宅用地の軽減措置を選択した場合、固定資産税は約61%軽減されます。
- {(1-1/3)×1.4%+(1-2/3)×0.3%}/(1.4%+0.3%)
- =約61%
一方、所得税の最高税率45%と住民税(道府県民税+市町村民税)10%の合計は55%であり、租税公課による所得税・住民税の税額軽減効果率は最大で55%です。
上記条件で比較すると、住宅用地の軽減措置のほうが約6ポイント(約61%-55%)税額軽減効果が大きいということになります。さらに、賃貸用住宅用地であれば、両方の軽減効果が得られます。
5)国民健康保険と固定資産税
自営業者などの場合、国民健康保険に加入することになります。国民健康保険の保険料は国民健康保険税(料)として、各市町村が徴収します。
政令指定都市や中核市のような大都市では、その多くが国民健康保険税(料)を所得割額(所得に応じた金額)と均等割額(加入者の人数に応じた金額)によって徴収しています。
しかし、これとは別に固定資産税を基にした資産割額を用いて国民健康保険税(料)を徴収している市町村があります。資産割の割合は市町村によって異なりますが、固定資産税を基に、固定資産税額×30%といった具合に資産割額が算出されます。
企業の経営者や従業員は健康保険に加入しているので、現職の場合は関係ありませんが、退職すると切実な問題となる可能性があります。住宅を取得する際は、こうしたことも加味して検討したほうがよいかもしれません。
3 忘れてはいけない償却資産の申告
1)償却資産の申告書の提出から納税までの流れ
土地・建物の固定資産税については、市町村が登記簿を調べて税を賦課するため、その所有者が申告をする必要はありませんし、申告用紙も用意されていません。しかし、機械・装置や備品等の償却資産については、その所有者が申告をする必要があります。
申告書の提出から納税までの流れは次の通りです。
1.申告書の提出
賦課期日(1月1日)時点で所有している償却資産を、その年の1月31日までに、資産が所在する市町村に申告します。
なお、価格等の算出の結果、課税標準額が150万円(免税点)未満の場合には課税されません。
2.価格等の決定及び課税台帳への登録と公示
償却資産の価格等は申告及び調査に基づいて決定され、償却資産課税台帳に登録し、価格等を償却資産課税台帳に登録した旨を公示します。償却資産課税台帳は固定資産税の納税に直接関係する一定の人が閲覧できます。
3.税額の算出及び納税通知書の交付(課税)
前述の通り、東京23区の場合、6月上旬に納税通知書が交付され、4回(6月、9月、12月、翌年の2月)に分けて納付します(スケジュールは自治体によって異なります)。
償却資産の申告漏れ等による賦課決定に際しては、その年度だけではなく、過去5年度分遡って加算金を合わせて徴収されます。また、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合は、過去7年度分遡って徴収されます。申告書の提出時期は年明けで忙しいこともあり、ミスが起きがちなので注意しましょう。
2)償却資産に係る固定資産税の特例
2018年度税制改正において、償却資産の固定資産税の課税標準(税金を計算する際の算定基準)となるべき価格を、ゼロから1/2の範囲で軽減する固定資産税の特例が制定されました。
2018年6月6日から2021年3月31日までの間に中小企業者が取得する新品で一定の機械・装置等に係る固定資産税が軽減されます。軽減率は市町村の条例によって定められますが、評価をゼロとする市町村であれば固定資産税は掛かりません。
課税標準を最初の3年間、市町村の条例で定める割合(ゼロ以上2分の1以下の割合)を乗じて得た額とする措置が講じられます。
対象となるのは、市町村の導入促進基本計画に適合し、かつ、労働生産性を年平均3%以上向上させるものとして認定を受けた所定の機械・装置等です。
4 固定資産税をチェックしてみよう
1)固定資産税の過大賦課の問題
2017年8月8日、東京都武蔵野市が固定資産税・都市計画税の課税誤りに関するお詫びを公表しました。
その内容は「2棟の複合構造建築物に対する固定資産税・都市計画税を過大に課税していることが判明した。2棟合計の還付税額は18年間分、約2億2300万円となる」というものです。
また、2018年1月23日、群馬県板倉町「固定資産税に係る課税誤りについて」には、還付対象者の数及び返還する概算金額が報告されています。国民健康保険税の徴収に資産割を用いていたことから、その分被害も大きくなりました。
- 固定資産税対象者数208人、還付金額計1609万9500円
- 国民健康保険税対象世帯数117世帯、還付金額計258万5400円
こうした過大賦課の発生には、次のような原因が挙げられます。
- 新増築家屋にかかる土地の評価時における住宅用地の特例適用漏れによるミス
- 情報を入力する際の確認不足によるミス
- 建築物の経年減点補正率の適用ミス
- 複合建築物の住宅用地率の適用ミス
- 不整形地の補正率の適用ミス
2)改めて固定資産税を確認してみよう
少し古い資料になりますが、総務省「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果」によると、2009~2011年の間に固定資産税の税額修正をしたことのある市町村の割合は、調査回答団体1544団体中97.0%に上っています。
所得税や法人税が申告納税方式であるのに対して、固定資産税は賦課課税方式であることから、市町村から賦課された金額に疑問を抱くことなくそのまま納めるケースがほとんどのようです。ただし、武蔵野市の事例のように18年間で約2億2300万円もの過大賦課があった例を見ると、自社の固定資産税を再確認したほうがよいでしょう。
固定資産税の負担が重いと感じたとき、市町村から示された金額を単に納付するだけでなく、その金額が適正であるかどうか、算出過程に間違いがないかどうか確認することが大切です。
賦課課税方式の場合には、間違いや事実誤認があったときには、納税者自身が訂正を求めなければなりません。
固定資産課税台帳に登録された価格(評価額)に不服がある場合、固定資産評価審査委員会に「審査の申出」をすることができます。また、価格以外の課税の内容について不服がある場合は、市町村長に対して「審査請求」をすることができます。「審査の申出」「審査請求」は納税通知書が交付されてから3カ月以内に行う必要があります。なお、土地・建物にかかる「審査の申出」は、原則として評価替えが行われる基準年度にのみ行うことができます。
そして、固定資産評価審査委員会の決定に不服がある場合、また市町村長の裁決に不服がある場合、決定または裁決の送達を受けた日から6カ月以内に裁判所に取消訴訟を提起する必要があります。
固定資産税の評価額や課税額に疑問を感じた場合、税理士や不動産鑑定士等の専門家を交えて、その対応を検討することが大切です。
以上(2020年6月)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)
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