書いてあること

  • 主な読者:決算のとき、評価損が計上できそうな商品や固定資産を有する会社の経営者
  • 課題:評価損を損金に算入できるか否かの判断は難しく、税務調査でも指摘を受けやすい
  • 解決策:棚卸資産と固定資産の評価損を損金算入するには証拠やデータが必要

1 ほとんど損金に算入できない「評価損」

決算が近づくと、資産の「評価」という普段とは違う会計処理をします。評価とは、

資産の一定時点における価値を認識し、帳簿上の価額を修正すること

です。財務上は、評価時点の価値(時価)が、帳簿の価額を下回る場合は「評価損」(上回る場合は「評価益」)を計上します。一方、税務上は、

原則的に評価損は損金に算入できないが、特定の事情に該当する場合は例外

ということになっています。

この例外を知ることは、税金対策の基本になるので、フローを使いながら説明していきます。ただ、評価損の判断は難しく、影響する金額も大きくなりがちです、ミスをして税務調査で指摘されると、追加で多額の税金を納めなければならないこともあります。そのため、税理士などの専門家に相談しながら進めるのが無難です。

2 棚卸資産に関する評価損

棚卸資産の評価損が損金に算入できるかどうかは、次のフローで判断します。

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「経済的な環境変化による著しい陳腐化」とは、資産自体に欠陥が生じたわけではないが、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、今後回復しないと認められる状態にあることをいいます。

例えば、

アパレル商品などの季節商品で、将来的に通常価額で販売できないことが例年の取引などから明らかな場合

は、損金に算入できる可能性があります。この場合、バーゲンでも売れ残ったなど、通常価額では販売できない客観的な実績を記録しておきます。過去の実績も記録しておきましょう。

また、

パソコンのモデルチェンジのように、用途はほぼ同じだが、形式・性能・品質が大きく異なる新モデルが発表された影響で、今後通常の方法で販売することができない場合

も、損金に算入できる可能性があります。パソコンなどは新モデルの販売前に見切り販売することがあります。見切り販売が習慣化している場合、過去事例や他社事例など、慣例となっていることが証明できるようにしておきましょう。

3 固定資産に関する評価損

固定資産の評価損が損金に算入できるかどうかは、次のフローで判断します。

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「所在場所が著しく変化した」とは、地盤沈下で地価が下落した場合などを指し、バブル経済の崩壊やリーマンショックのような経済環境の悪化による変化は含まれません。

また、以下の固定資産の評価損は損金に算入できません。

  • 過度の使用や修理が不十分なために、著しく損耗している固定資産
  • 償却を行わなかったため、償却不足額が生じている固定資産
  • 取得価額が取得時の事情で、同種の資産よりも高くなっている固定資産
  • 機械及び装置が、製造方法の急速な進歩により旧式化している固定資産

なお、モデルチェンジなどで既存の製造用機械装置の価値が著しく低下したとしても、その評価損は損金に算入できません。棚卸資産と異なるのは、固定資産は減価償却によって毎事業年度に費用計上されていて、価値の低下は減価償却の範囲内で行うことになっているからです。その代わり、耐用年数の短縮(税務署の承認が必要)により、その事業年度に損金に算入できる減価償却費の額を増やす方法があります。

最後に、財務上の減損損失との関係を整理しておきます。財務上の減損損失がされても、税務上は損金に算入できません。いずれも資産の帳簿価額を減額する処理ですが、

  • 財務上の減損損失(減損会計)は、将来の収益性(その固定資産を使っていくら稼げるか)の低下や、経営環境の悪化(材料価格の高騰)など経済的な要因で計上
  • 税務上の評価損は、その資産の物理的な損傷などに限って計上

されます。ただし、財務上の減損の対象となった固定資産の中には、税務上の評価損を損金に算入できるものも含まれている可能性があるので、精査する必要があります。

以上(2022年3月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:photo-ac

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