書いてあること

  • 主な読者:財務を勉強中の新任経理担当者、若手社員
  • 課題:財務の知識を身に付けたいが、読書や簿記の勉強だけではなかなか頭に入らない
  • 解決策:商品の仕入れや取引先との商談など、日々の活動が財務諸表にどのように反映されるのかを考えてみる

1 財務の知識は、日々の自分の業務と照らし合わせて学ぼう

財務の知識を身に付けようと思ったときにお勧めの方法は、日々の自分の業務と照らし合わせて考えることです。例えば、「会社から貸与されたパソコンは、財務上、どのように処理されるのか?」が分かると、そのパソコンを使って、どれだけの成果を上げたら元が取れるのかを考えられるようになるはずです。

以降では、日々の仕事を例に挙げて、それぞれの活動が財務諸表にどのように反映されるのかを見ていきます。なお、入社してあまり年数のたっていない人にとって、財務諸表上の数字だけを見て、取引をイメージするのは難しいものです。財務諸表の数字は、取引ごとに簿記のルールに従って同じ項目(勘定)ごとに集計したものです。数字をより身近に感じてもらうため、例ごとにどの項目(勘定)に影響するのかを確認しながら見ていきましょう。

なお、事例に入る前に財務3表の基本を確認したいときは、次の記事をご参照ください。

また、簿記の基本ルールについて確認したいときは、次の記事をご参照ください。

2 個人の業務は財務諸表にどう表れる?

ここで紹介するAさんは、海外からアパレル商品を仕入れて、国内の小売店に販売しているX社に務めています。Aさんの5月の業務や周辺の動きが財務諸表にどのように反映されるのかを、PLの項目順に沿って見ていきます。

なお、先月末(4月30日)時点のX社のBSは次の通りです。

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1)売上高

5月、前年度から営業してきたZ社に400足のシューズが売れました。1足当たり5000円なので、売上高は200万円です。6月中旬に入金される予定です。

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2)売上原価

1.在庫

Aさんが担当しているシューズの在庫は、5月1日時点で100足です。1足1300円なので、在庫は13万円分です。

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2.仕入れ

Aさんは、5月に取引先から500足のシューズを仕入れました。1足当たり1500円なので、仕入れ費は75万円です。6月に支払う予定です(出金は6月に行いました)。

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3.売上原価の算定

5月中に売れたシューズは400足です。売上原価は、5月1日時点の100足と新たに仕入れて販売した300足分となります。5月1日時点の100足は1足当たり1300円、新たに仕入れた300足は1足当たり1500円なので、合計58万円になります。

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4.5月末商品棚卸高

Aさんが担当しているシューズの在庫は、5月31日時点で200足です。5月1日時点で100足だったところに500足を仕入れて600足。そこから400足が売れたので、残りは200足ということです。

なお、棚卸資産の評価方法は、先入先出法(先に仕入れた商品から先に出していく方法)を採用しています。

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3)先月(4月)の売り上げの入金

Aさんが4月に掛けで販売したシューズの代金が5月に現金で入金されました。販売は300足、1足当たり5000円なので、売上高は150万円となります。

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4)先月(4月)の仕入れの支払い

Aさんは、4月上旬に仕入れたシューズの代金を仕入先に現金で支払いました。仕入れは400足、1足当たり2500円なので、仕入れ費は100万円となります。

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5)販売費及び一般管理費

1.給与手当

Aさんが勤めるX社の給料日は毎月25日。Aさんの基本給は20万円で、この他に地域手当の2万円、家族手当の1万5000円、通勤手当の1万5000円が支給されるので、合計は25万円です。

なお、ここでは社会保険料や源泉所得税は省略しています。

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2.旅費交通費

Aさんは、Y社の担当者と商談をするために、日帰りで大阪に出張しました。往復の新幹線代が3万円掛かりました。また、最寄り駅からY社までの往復のタクシー代が2000円掛かりました。

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3.交際接待費

Aさんは、Y社への手土産として3000円のお菓子を購入しました。

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4.福利厚生費

Aさんが勤めるX社に新入社員が入ってきたので、ウェブ会議システムを使ってオンライン歓迎会をしました。歓迎会は10人が参加し、1人5000円の予算でおのおのが好きな飲み物や出前を注文して楽しみました。

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5.会議費

Aさんは社内会議に出席しました。全員で10人参加しています。そこで出された仕出し弁当は、1食当たり1000円です。

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6.消耗品費

Aさんは、営業に使う資料や取引先からもらった名刺を整理するため、事務用品の通信販売会社から書類ケースとカードケースを2000円で購入しました。

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7.荷造運搬費

先日の商談で、Y社に商品を売ることが決まりました。AさんはY社へ商品を送るため、荷造り用の段ボールと緩衝材を3000円で購入しました。運送業者の配送費は5000円が掛かりました。

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8.固定資産の購入と、決算時の減価償却費

会社で新しいパソコンを1台購入し、Aさんに貸与しました。購入代金の20万円は6月に支払います。また、購入したパソコンは工具・器具備品(資産)としてBSに反映されます。

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X社では、5月に自社のECサイトを開設し、ネット販売を開始しました。ECサイトの作成は専門業者に外注しており、作成代金の200万円は6月に支払う予定です。また、作成したECサイトはソフトウエア(資産)としてBSに反映されます。

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5月末に、既存の固定資産(建物附属設備 取得価額550万円 帳簿価額500万円)に関する減価償却費を計上します。耐用年数の22年間で減価償却を行っています。

併せて、新しく購入したパソコン(工具・器具備品)と、外注作成したECサイト(ソフトウエア)の減価償却費(5月分)を計上します。

なお、パソコンは4年間、ECサイトは5年間の耐用年数でそれぞれ減価償却を行います。全て定額法を採用しています。

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6)営業外費用

X社は前年度に銀行から500万円を借り入れています。支払利息で月額8330円を支払いました(金利は年2%です)。

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7)5月のAさんのPL、BSはこのようになる

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このように、まずは、自分自身の活動でPLとBSを作ってみましょう。自分が会社の利益にどれだけ貢献しているのか、業務に掛かった経費一つひとつが会社の財務状況にどのような影響を与えるのかを日々考えることで、社会人に求められる「数字で考える視点」が養われていきます。

以上(2021年4月)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

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