書いてあること
- 主な読者:新任経理担当者
- 課題:経費精算のチェックは時間がかかるため、少しでも作業を効率化したい
- 解決策:旅費交通費の基本を押さえた上で、判断に迷う事例をQ&A形式で解説する
1 手間の掛かる旅費交通費の申請
「あぁ~、毎月の旅費交通費の精算が面倒だ……」。特に社外での活動が多い従業員はこう感じているかもしれません。旅費交通費の申請は、「移動ルート」も記載することが多く、とにかく面倒な作業です。それに、近場の電車やバスの移動では、そもそも領収書をもらわない場合が多いでしょう。そのため、過去の行動を思い出しながら経費精算するので、時間もかかります。
旅費交通費の申請を面倒に感じる人の気持ちはよく分かります。経営者としても、従業員が旅費交通費の申請に長い時間をかけているのは困ります。とはいえ、経費精算の最も重要な目的は、企業の利益を正しく計算することであり、少額だからといって適当にできるものではありません。
また、経理担当者側も、経費精算の漏れや、間違った金額での請求などのチェックに多くの時間を要します。経費精算の作業を少しでも効率的に行うためには、従業員の意識と経理担当者の正確な知識が必要です。
本稿では、旅費交通費の基本事項を押さえた上で、判断に迷いやすい旅費交通費の取り扱いを解説します。
2 旅費交通費の基本を押さえよう
1)旅費交通費とは
旅費交通費とは、業務に必要な移動や宿泊で生じる費用です(旅費交通費にならないケースは後述)。厳密には遠方への移動を旅費、近場の移動を交通費と考えますが、一般的には「旅費交通費」として取り扱います。ただし、出張旅費規程においては、いわゆる「出張手当」との兼ね合いから、移動距離に応じた取り扱いを自社で定めているケースが多いので、一度、自社の規程を確認してみてください。
旅費交通費に含まれる主な費用は次の通りです。
自宅から勤務先への通勤費も旅費交通費に含まれます。一般的に、通勤費は給与に含めて支給されるため、給与と勘違いしている人もいるかもしれません。ここで注意が必要なのは源泉所得税の問題です。
通勤費は、基本的に源泉所得税は課されません(非課税)。ただし、非課税になるには次のような要件を満たしている必要があります。
- 電車、バスなど公共の移動手段を利用して通勤する場合は、1カ月当たり15万円以内であること
- マイカー、自転車を利用して通勤する場合は、片道の通勤距離が2キロメートル以上であること(通勤距離ごとに1カ月当たりの限度額があります)
通勤費が上記の限度額を超えた場合、超えた部分は従業員の給与所得となり、源泉所得税の課税対象となります。
2)旅費交通費として処理されない費用
業務上の移動に掛かる全ての費用が、旅費交通費で処理されるわけではありません。重要なのは「移動の目的」であり、これによって旅費交通費ではなく、交際費や福利厚生費などとして処理される場合があります。企業によって処理方法は異なるため、自社の取り扱いについては、税理士などの専門家に相談しましょう。
1.交際費として処理する場合
自社の主催で取引先を接待する場合に、取引先を会場まで送迎した際のタクシー代などは、交際費として処理します。一方、取引先主催の接待に出席する際のタクシー代などは接待そのものに対する支出ではないため、旅費交通費として処理します。
2.福利厚生費として処理する場合
社員旅行や従業員の歓送迎会など、福利厚生を目的としたイベントを開催する場合に、目的地までの移動に掛かる費用は、福利厚生費として処理します。
3.研修費として処理する場合
社外の会場での社員研修や外部講師のセミナーを受講する場合に、会場までの移動に掛かる費用は、研修費として処理します。
3)旅費交通費の精算には必ず領収書が必要か?
近場の得意先に訪問するためなどに電車やバスを利用した場合、領収書が発行されないことがあります。原則としては、少額であっても領収書を添付しなければなりません。
ただし、鉄道会社やバス会社によって領収書の発行方法が異なり、その都度領収書をもらうのも手間がかかります。また、経路や運賃はインターネットなどでも確認することができます。
さらに、消費税法上、税込みの支払額が3万円未満の場合には、請求書等の保存は必要なく、法定事項(取引年月日、取引内容など)が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています(3万円以上で請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合には、帳簿にそのやむを得ない理由および相手方の住所または所在地を記載することになっています)。
このような理由から、多くの企業は公共の移動手段を使った近場での移動に限って、領収書の添付は不要としています。ただしこうした場合、移動の根拠(適正な旅費交通費であることの証明)として、使用した路線や運賃などを「旅費交通費精算書」に記載することが大切です。
3 実費精算と出張旅費規程に基づく精算
1)実費精算
実費精算(従業員の請求)で支払う場合は、従業員が立て替えた費用を事後に精算する場合と、事前に仮払金を支払い、後日、実費との差額を精算する場合があります。
前者の場合、従業員が立て替える費用が高額になると負担が大きくなります。出張などに掛かる費用が高額になることが事前に分かるときは、仮払いを併用するのがよいでしょう。
また、経費精算には必ず期限が設けられています。仮に、経費精算が遅れてしまうと、一定期間内(月次決算の場合には月、四半期の場合には期間)に発生した費用が把握できず、正確な損益計算(決算処理)ができなくなります。そのため、従業員が出張などから戻った際には、期限に遅れないように経費精算を申請してもらうようにしましょう。
2)出張旅費規程に基づく精算
出張旅費規程に基づいて精算する場合は、交通費や宿泊代などの手当を定額で支給することができます。従業員によって経路や宿泊先が違う場合でも、支給する金額は定額なので、経費精算の事務処理を簡略化することができます。
出張旅費規程で定めるべき主な事項は次の通りです。
また、定額で出張旅費が支給されることで、実際に掛かる金額よりも多くの金額を受け取ることができる場合もあるため、実費精算の場合よりも、多くの旅費交通費を法人税の計算上、損金(税務上の費用)の額に計上することができます。損金が多いほど、所得(税務上の利益)が少なくなるため、所得に対して課税される法人税の負担を軽減することができます。
3)出張手当の取り扱い
宿泊費や旅費交通費以外で出張の際に発生する食事代や雑費などについても、出張旅費規程で定めることで、実費ではなく、あらかじめ決められた金額を支給することができます。遠距離出張旅費・出張手当・宿泊料の取り決め例は次の通りです。
この他、必要に応じて、時間外労働に掛かる手当(時間外の割増賃金とは別に企業が定めるもの)の有無を記載します。
また、定額で出張旅費が支給される場合でも領収書が必要です。領収書がないと、空出張や費用の架空計上を疑われることがあるためです。出張に使った新幹線代や航空券代、ホテル代などの領収書は必ず保存するようにしましょう。なお、保存期間は、7年間となります。
4 こんなときはどうする? 旅費交通費のQ&A
1)タクシーの相乗りで領収書がない場合
タクシーに相乗りし、運賃を割り勘で支払った場合、領収書がもらえないケースがあります。このような場合は、領収書の代わりとして、出金伝票を作成してもらう必要があります。
市販の出金伝票を使うこともできますが、自社でひな型を作成する場合には、支払日、支払先、支払内容、支払金額を記載する必要があります。出金伝票のひな型は次の通りです。
2)企業支給の交通系ICカードでチャージした場合
企業支給の交通系ICカードにチャージした場合の取り扱いには迷います。「交通系」といえども、コンビニなどさまざまな店舗で決済できるため、チャージした時点では、交通費として処理することはできません。
そのため、仮払金として一旦処理をし、実際に使った用途に応じて仮払金以外の科目に変更します。例えば、ボールペンやノートなどを購入したときは、旅費交通費ではなく消耗品費として処理をします。
また、交通系ICカードを、うっかりプライベートのシーンで使ってしまう場合もあると思います。このような私的な支出は費用にはならないので、経費精算に含めないよう注意しましょう。
3)電車事故などにより通勤経路を変更した場合
通常、通勤に利用している路線が電車事故などにより運休になっていた場合、別の路線を利用することになります。通常よりも交通費が高くなったときは、経路を変更した理由が合理的であれば、差額を交通費として支給することができます。
このような場合は、経路を変更して通勤したことが分かるように、遅延証明書や振替輸送票を申請書に添付してもらうようにします。また、電車事故などで通勤経路を変更する場合の取り扱いは、あらかじめ就業規則で支給額も含めて定めておくとよいでしょう。
4)週末の出張でプライベートの旅行をした場合
例えば、金曜日に東京から名古屋へ出張したので、少し足を延ばして土日に京都に行って観光をした従業員がいるとします。この場合、東京-名古屋間の交通費は、旅費交通費として往復の金額を支給します。
しかし、名古屋-京都間の交通費や観光のための宿泊費は自己負担になります。とはいえ、法律上で一律にこのような対応を取らなければならないという規定はないため、自社の旅費交通費規程に従うこととなります。
なお、プライベートの旅費を会社が負担した場合には給与として取り扱われますので注意が必要です。
5)過去の領収書が見つかった場合
旅費交通費の精算を忘れていた数カ月前の領収書が見つかる場合があります。原則、領収書の日付と旅費交通費を精算する日付が同じ年度内であれば、経費精算をすることができます。
例えば、3月末決算の企業の場合、4月1日から翌年の3月31日までの間であれば、その年度中に支払った費用については精算が可能です。会計処理は年度ごとに行われており、その会計処理に基づいて、法人税などの税金が計算されるからです。つまり、決算日を越えてしまうと、前年度の費用は、原則損金として処理することはできません。従業員には経費精算の目的を理解してもらい、期限を守って経費精算をするように呼び掛けましょう。
以上(2020年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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