書いてあること

  • 主な読者:初めて決算仕分けを行う新任経理担当者や営業担当者など
  • 課題:「会社の決算書の数字」と「自分の業務」のつながりを理解したい
  • 解決策:決算の期間に売上や費用を合わせて考えるようにする

1 日々の仕訳と何が違う? 「決算整理仕訳」とは

決算と聞くと、多くの人は貸借対照表、損益計算書などの決算書や、株主総会での決算発表をイメージするでしょう。しかし、同じ質問を経理担当者にすると、恐らく「決算整理仕訳」という膨大な仕訳を思い浮かべます。この決算整理仕訳が、決算の始まりであり、土台となる作業になります。決算整理仕訳では日々の仕訳では出てこない項目を整理し、それぞれの勘定を決算日時点の数値に確定します。

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決算整理仕訳には、売上原価の計算や、減価償却や、収益費用の見越し・繰延べなど、財務会計を学ぶ上でも重要な考え方が詰まっています。また、決算整理仕訳で、文字通り、数字が確定するため、経営者はもちろん、営業担当者なども決算仕訳の基本は知っておくべきです。

2 決算整理仕訳に必要なこと

決算整理仕訳では、一般的には次の項目を整理します。

売上原価の算定、収益費用の見越し・繰延べ、減価償却の計上、貯蔵品(切手・印紙など)

貸倒引当金の計上、有価証券の評価

これらの仕訳を処理するためには、さまざまな情報が必要です。例えば、「収益費用の見越し・繰延べ」では、売り上げた商品がいつ発送または納品され、その売上に対する費用はどの支出なのかを正確に把握しなければなりません。この情報は、商品管理担当部署や営業部署などから聞き出さなければなりません。もし、今期中に取引先に発送・納品されていない商品や、完了していないサービスに対する費用が計上されていると、売上がないのに費用だけが先に決算書に記載されてしまい、正確な数値となりません。これは、決算書を基に計算される税金計算にも影響することになり、税務調査でもよく指摘される「期ズレ」の原因となります。

このように、決算整理仕訳の背景を知ることは、会社の決算書の数字と自分の業務のつながりを知る上でも重要なのです。以降では、経理部署以外の部署にも関連する主な決算整理仕訳として、売上原価、収益費用の見越し・繰延べ、減価償却に注目します。

3 主な決算整理仕訳の内容と留意点

1)売上原価の算定

売上原価とは、会社の売上に直接対応する費用をいいます。例えば、小売業であれば、売り上げた商品の仕入額が売上原価です。一般的に、売上原価は売上の都度把握するのではなく、決算整理仕訳により、年間の売上に対応する売上原価を次の算式で計算します。

売上原価=期首商品棚卸高+当期仕入高-期末商品棚卸高

例えば、期首商品棚卸高が100万円、当期仕入高が3000万円、期末商品棚卸高が150万円だった場合、売上原価は2950万円(100万円+3000万円-150万円)となります。決算整理仕訳として、期首商品棚卸高、当期仕入高、期末商品棚卸高を次の仕訳で処理すると、貸借対照表(以下「BS」)と損益計算書(以下「PL」)にそれぞれ次のように反映されます。

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実務上、重要になるのが、決算日に商品管理部署などで行われている実地棚卸です。実地棚卸により、期末商品棚卸高(翌期の期首商品棚卸高)を把握します。特に、決算日直近に発送した商品は期ズレの原因になりやすいので注意しましょう。

なお、近年は会計ソフトの発達により決算整理仕訳が月次決算として毎月落とし込まれている企業も多くなっています。月次決算での在庫は帳簿棚卸の数字を利用し、年度末決算時のみ実地棚卸の数字を利用します。

2)減価償却

減価償却とは、固定資産の取得価額のうち、その期に対応した分を一定のルールに基づいて一部ずつ費用に計上していくことをいいます。建物、機械装置などの固定資産は数年間にわたって使用することで売上に貢献すると考えた場合、多額な固定資産の取得価額を購入時に一括で費用化すると、期間ごとの利益を正確に計算できません。そのため、会社の固定資産は、決算時に一定の計算方法で、減価償却費を計算します。

例えば、A社では決算日において、建物附属設備250万円、機械装置70万円、器具備品30万円の減価償却費が計上された場合、減価償却費分、それぞれの固定資産の帳簿価額から控除した金額が、決算日における固定資産の会計上の価値を表すことになります。決算整理仕訳として、減価償却費を次の仕訳で処理すると、BSとPLにそれぞれ次のように反映されます。

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実務上、重要になるのが、決算日時点において、それぞれの固定資産がどのような状態にあるのか正確に把握することです。例えば、従業員に貸与されるノートパソコンのように会社から持ち出し可能なものは、決算日時点でそのもの自体が使える状態であるのか、期中に廃棄したものはないかなどの棚卸が必要です。また、新しく購入したものは、いつから使い始めたかによって、その期の減価償却費も変わってきます。そのため、固定資産を貸与されたり、使用したりしている部署については、その使用状況を固定資産台帳に記載するなどして経理部署と共有する必要があります。

なお、月次決算では、年度内に計上見込みの減価償却費を月次按分した金額で各月に計上します。

3)収益費用の見越し・繰延べ

収益費用の見越し・繰延べとは、決算日をまたいで影響する収益と費用について、その1年間(3月末決算会社であれば、4月1日から3月31日)に計上すべき収益費用の金額に調整することをいいます。それぞれの内容は次の通りです。

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以降では、それぞれ事例を挙げて、最後にまとめて行う仕訳例と、BSとPLにどう反映されるのかを紹介します。なお、いずれの事例も×2年3月31日が決算日のA社を前提とし、期中には収益費用を分割計上せず、現金の受け取り・支払い時点に一括して収益・費用を計上しているものとします。

1.収益の見越し

A社は、B社に提供しているサービス料金(240万円)を、毎期9月に過去の1年間分を後払いで受け取っています。そのため、決算日時点では、今期6カ月分の120万円(×1年10月から×2年3月分)が、まだ計上されていない収益となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年9月に受け取ったサービス料金の当期分120万円のみが計上されています。

2.費用の見越し

A社は、C社に委託しているウェブサイトの保守料金(60万円)を、毎期1月に過去の1年間分を後払いしています。そのため、決算日時点では、今期3カ月分の15万円(×2年1月から×2年3月分)が、まだ計上されていない費用となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年1月に支払った保守料金の今期分45万円のみが計上されています。

3.収益の繰延べ

A社は、D社に提供しているサービス料金(120万円)として、毎期10月に次の1年間分を前払いで受け取っています。そのため、決算日時点では、翌期6カ月分の60万円(×2年4月から×2年9月分)が、今期に計上されている収益となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年10月に受け取ったサービス料金の今期分60万円と、×1年10月に受け取った1年間分のサービス料金120万円の合計額180万円が収益に計上されています。

4.費用の繰延べ

A社は、備品の賃借料(12万円)として、毎期1月に次の1年間分を前払いで支払っています。そのため、決算日時点では、翌期9カ月分の9万円(×1年4月から×1年12月分)が、今期に計上されている費用となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年1月に支払った賃借料の当期分9万円と、×1年1月に支払った1年間分の賃借料12万円の合計額21万円が計上されています。

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実務上、重要になるのが、それぞれの収益・費用に関連する部署(例えば、売上金であれば営業部署など)において、契約内容を正確に請求書の摘要欄などに反映してもらうなど、取引先とのやり取りや、担当者が前払いや後払いについての認識を経理部署と共有することです。

以上(2021年3月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:Andrey Popov-Adobe Stock

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