書いてあること
- 主な読者:給与以外の所得がある会社員
- 課題:年末調整だけでは、所得税の確定申告に関する手続きが不十分と聞いたが、どんなケースが該当するのかよく分からない
- 解決策:まずはそれぞれの利益が20万円以上あるかが、確定申告をしなければならない主な基準となる。損失がある場合は、他に利益が出ている所得があるか確認する
1 申告しなければならない人、したほうがよい人
将来のための資産形成、または副業による給与以外の所得がある人は、所得税の確定申告や納税に気を付けないといけません。確定申告をすべき人が申告・納税をしていないと、いずれ税務署から調査を受けて多額の納税資金が必要になります。しかも、本来の納税額に罰金の性格を持つ税金(無申告加算税など)が追加されてしまいます。
この記事では申告をしなければならない、またはしたほうがよい主なケースを紹介しますので、まずは、自身の所得の状況(利益か損失か)を確認し、確定申告が必要なのかどうかを把握するようにしましょう。
なお、所得税の基本については、下記の記事で紹介しています。
2 株や投資信託で利益または損失が出ていませんか?
株や投資信託をしている人で確定申告をしなければならないのは、
- 株や投資信託を売って20万円以上の利益が出ている人
- 一般口座または、特定口座(源泉徴収なし)を口座開設時に選択している人
です。株や投資信託を売買するのに利用する口座は5種類あり、それぞれ
- 一般口座:確定申告が必要
- 特定口座(源泉徴収なし):確定申告が必要
- 特定口座(源泉徴収あり):確定申告が不要
- NISA口座:基本的には確定申告が不要
- iDeCo口座:自身では申告不要
となります。自身が口座を開設したときにいずれの口座を選択したかを確認し、上記1.または2.に該当するかどうかを把握しておきましょう。
確定申告をしたほうがよいのは、
株や投資信託を売って損失が出ている人
です。株や投資信託にかかる損失に対しては税金がかかることはないため、確定申告は不要です。ただし、その年に他の株や投資信託で利益が出ている場合、確定申告をすることで、その損失を利益と相殺することができます。これを「損益通算」といいます。
一方、相殺するような利益がない場合でも、翌年以降に利益が出た場合に、繰り越して(最長3年間。2023年分については、2024~2026年まで)その損失と相殺することができます。
3 FX投資で利益が出ていませんか?
FX投資をしている人で確定申告をしなければならないのは、
会社員や年金受給者の場合には20万円超、専業主婦や学生の場合には48万円超の利益が出ている人
です。FX取引に関しては、株や投資信託の特定口座のように源泉徴収する制度がありません。そのため、FX取引によって一定の利益が出た場合(上記それぞれの金額を超える場合)には、必ず確定申告が必要です。
確定申告をしたほうがよいのは、
FX取引で損失が出ている人
です。FX取引についても、損失が出ている場合には確定申告は本来不要です。ただし、その年に他の先物取引に分類される取引(差金決済取引や商品先物など)で利益が出ている場合、確定申告をすることで損益通算ができます。なお、FX取引の損益と株や投資信託などの取引の損益を損益通算することはできません。
また、相殺するような利益がない場合(他の先物取引に分類される取引でも利益が出ていない場合)でも、翌年以降に利益が出た場合には、繰り越して(最長3年間。2023年分については、2024~2026年まで)その損失と相殺することができます。
4 暗号資産(仮想通貨)取引で利益が出ていませんか?
暗号資産(仮想通貨)取引をしている人で確定申告をしなければならないのは、
会社員や年金受給者の場合には20万円超、専業主婦や学生の場合には48万円超の利益が出ている人
です。暗号資産取引の利益の計算については、売却したときだけでなく、他の暗号資産と交換したとき、暗号資産を使って商品を購入したときにも必要になるのでご注意ください。
確定申告をしたほうがよいのは、
暗号資産取引で損失が出ている人
です。暗号資産取引についても、損失が出ている場合には確定申告は本来不要です。ただし、その年に雑所得に分類される取引(他の暗号資産取引やFX取引、副業などによる所得など)で利益が出ている場合、確定申告をすることで、その損失を利益と相殺する損益通算ができます。なお、株や投資信託などの取引とは損益通算ができないのでご注意ください。
また、暗号資産取引で出た損失については、3年間の繰越控除制度はありません。
5 マンションなどの貸付による収入はありませんか?
不動産オーナー人で確定申告をしなければならないのは、
マンションの一室やアパート、土地(以下「不動産」)の貸付により20万円超の利益が出ている人
です。不動産所得は、給与所得など他の種類の所得と合算した金額に税率をかける計算方式(総合課税)で所得税を計算します。そのため、後述する損失が出ている場合においても別の種類の所得と損益通算ができます(青色申告である場合に限ります)。
確定申告をしたほうがよいのは、
- 不動産の貸付により損失が出ている人
- 自身が持っている不動産で大きな修繕工事を行ったり、その不動産に係る固定資産税や損害保険料を支払ったりしている人
です。不動産所得においても、損失が出ている場合には確定申告は本来不要ですが、他の総合課税の対象である所得(給与所得や一時所得)がある場合に損益通算ができます。不動産については、定期的なメンテナンスや修理など一時的に多額の支払いが発生します。そのような年は損失も発生しやすいため、損益通算が活用できるかどうかチェックしましょう。
6 仕事に必要な資格取得などのための支払いはありませんか?
この項目については、給与所得から控除できる特定支出控除についての解説です。特定支出控除は、年末調整では受けることができない所得控除で、確定申告が必要になります。
確定申告をしたほうがよいのは、
業務に関連する資格の取得費や会社で補填されない通勤費など一定の支出(特定支出といいます)が、自身の給与所得控除額の50%を超えている人
です。特定通勤費は
- 通勤費
- 職務上の旅費
- 転居費(転任に伴うもの)
- 研修費
- 資格取得費
- 帰宅旅費
- 図書費
- 衣服費(制服や作業服など)
- 交際費
の9種類に限定されており、会社で経費精算しているものは対象外です。また、業務を行う上で直接必要であることを会社側が認めているなどの一定の条件を満たすものに限られます。
なお、自身の給与所得控除額は源泉徴収票から簡単に計算できるので一度確認してみましょう。源泉徴収票の見方を確認したい場合は、下記のリポートをご参照ください。
以上(2024年2月作成)
(監修 税理士 石田和也)
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