書いてあること
- 主な読者:税務調査などで指摘されないよう、税金対策を適切に行いたい経営者
- 課題:法人税は税金の中でもボリュームが多く、一つの論点でも色々な角度から対策を検討しないと税務調査で指摘されることがある
- 解決策:税務調査で重点的に調べられる論点ごとに、会社が注意すべきポイントを押さえる。棚卸資産に関しては、仕入、売上、在庫計算がポイントになる
1 棚卸資産に係る税務上の重要ポイント
シリーズ第2回では、棚卸資産を取り上げます。棚卸資産とは、
商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの資産(不動産会社が販売目的で所有する不動産を含む)
をいいます。一般的に棚卸資産は次の流れで取引されます。
棚卸資産に係る税務上の取り扱いは、取引の流れの中で「いつ」「いくら」で仕入・売上・売上原価を計上するかなどが明確に決められています。棚卸資産に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。
仕入・売上原価・評価損など損金の過大計上や、売上(益金)の過少計上は、所得を少なくする(=納税額が少なくなる)ことに直接影響するため、税務調査でも詳細にチェックされます。
2 取得価額の計算
購入した棚卸資産の取得価額は、原則として購入代金だけではなく、棚卸資産を購入・販売するために支払った費用(付随費用)も加えるので注意しましょう。
ただし、次の付随費用は、合計額が少額(商品そのものの購入代金のおおむね3%以内の金額)であれば、取得価額に算入せず(棚卸資産に計上せず)、支払手数料などの費用として計上できます。
- 買入事務、検収、整理、選別、手入れなどに要した費用
- 販売所から販売所へ棚卸資産を移動させるために要した運賃などの費用
- 特別な時期に販売するなどの理由から、長期にわたって保管するために要した費用
なお、次に掲げるような費用は棚卸資産を取得するための費用であっても、取得価額に算入しないことができます。
- 不動産取得税
- 固定資産税、都市計画税
- 登録免許税その他の登記・登録費用
- 借入金の利子
3 仕入の計上時期
一般的に仕入の計上時期は、
- 入荷基準:棚卸資産が入荷したときに仕入を計上する基準
- 検収基準:入荷した棚卸資産を検収したときに仕入を計上する基準
のいずれかが採用されます。注意点は、
- 仕入の計上時期は仕入代金を仕入先に支払ったときではない
- 計上基準は、一度選択したら継続して適用しなければならない
ことです。
4 売上の計上時期
売上の計上時期は、
- 引渡基準:棚卸資産を引渡したときに売上を計上する基準
- 検収基準:引渡した棚卸資産を相手が検収したときに売上を計上する基準
のいずれかが採用されます。注意点は、
- 売上の計上時期は売上代金が入金されたときではない
- 計上基準は、一度選択したら継続して適用しなければならない
ことです。
5 締め後売上の計上
締め後売上とは、
決算月において請求書の発行締め日から決算日までの間に引渡し、または相手が検収(以下「引渡し等」)した場合の売上
をいいます。
前述の通り、売上は棚卸資産の引渡し等をしたときに計上する必要があります。つまり、決算日までに相手先に棚卸資産の引渡し等をしていれば、その引渡し等をした棚卸資産について相手先に請求書を発行していなくても、この売上を決算に含めなければなりません。
例えば、請求書の発行締め日が毎月20日である法人は、決算月の21日から決算月末までに引渡し等をした棚卸資産の売上を集計し、これを売上に計上して決算を行わなければなりません。決算のときに、この締め後売上の計上が漏れやすいため注意が必要です。
6 在庫の計上金額が適正か
1)基本的な考え方
決算を行うために、今期の売上に対応する売上原価を計算しなければなりません。売上原価は次の計算式により計算されます。
期首在庫の金額は前期の決算で確定しているため、今期中に行った商品の仕入金額と、期末棚卸により把握した期末在庫の金額を上記計算式に当てはめて、売上原価が確定します。
期末在庫の金額が大きくなれば、売上原価(損金)は小さくなり、法人の利益は大きくなります。反対に期末在庫の金額が小さくなれば、売上原価は大きくなり、法人の利益は小さくなります。次の例1と例2で確認してみましょう。
ミスが起こりやすいのが期末在庫の集計です。適正な在庫金額を計上するためには、次の点に注意する必要があります。
2)除外している棚卸資産はないか
期末在庫は漏れなく集計します。法人税を少なくするために、意図的に期末在庫の金額を小さくすることは不正です。経営者に悪気がなくても、現場担当者が記録不備などの発覚を恐れ、意図的に期末在庫から除外してしまうことも考えられます。経営者自身の意識はもちろん、現場担当者の教育も大切です。
3)棚卸資産の金額が過小ではないか
意図的に期末在庫の金額を小さくするつもりがなくても、期末在庫の金額を過小に計算してしまうケースがあります。例えば、以下のようなケースです。
1.単価を正しく評価できていないケース
棚卸資産の評価方法は原価法と低価法に分けられます。原価法はさらに6つの評価方法(最終仕入原価法、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法)に区分されます。
棚卸資産の評価方法については、税務署に自社が選択した評価方法を記載した届出書を提出します(変更する際には変更届の提出が必要)。ただし、その届出書を提出しなかった場合は、「最終仕入原価法」を採用したと見なされます。このように、
税務署への届出書の提出を必要としない点や、計算が簡便である点から、多くの中小企業が「最終仕入原価法」を採用
しています。ここでは、最終仕入原価法について紹介します。
最終仕入原価法では、期末に最も近い時点で取得したものの単価を1単位当たりの取得価額とする方法で、次のように期末在庫を評価します。
最終仕入原価法を採用する場合には、図表6でいうところの110円や140円の金額を単価として選ぶなど、初歩的なミスが生じることがあります。チェック体制を整えたり、マニュアル化を徹底したりすることが大切です。
2.期末在庫の金額を算出した表計算ソフトの入力内容に誤りがあるケース
これは初歩的なミスであるものの、在庫を数える人、在庫表を作成する人、期末在庫の金額を会計処理する人がそれぞれ別の担当者であることも多いため、比較的頻発するミスです。期末在庫の合計額が正しく計算されているかをチェックするために、過去のミス事例を担当者に周知するなどの対策を取るようにしましょう。
3.普段使用していない倉庫の保管在庫を加え忘れるケース
保管倉庫を複数使用している会社においては、普段使用していない倉庫の保管在庫を計上し忘れるというケースがあります。税務調査では、所有・賃借している倉庫のそれぞれの使途を確認されることがあります。税務調査時に計上のし忘れがあったと気付くことがないよう、棚卸チェックシートなどは定期的に更新するなど注意が必要です。
4.預け在庫の金額を加え忘れるケース
会社の中には、商品が会社を経由せず、仕入先から直接得意先に納品されるような取引をしていることもあります。その場合、仕入先の倉庫に預けている販売前の商品(預け在庫)の計上漏れがないように注意が必要です。
商品管理の担当者と経理担当者間の意思疎通や、チェック環境を整備するなどの対策を取るようにしましょう。
7 評価損の計上は適正か
棚卸資産について、会計上は評価損を計上することがあります。しかし、税務上、原則として評価損は損金に算入できません。
ただし、次に該当するような事実が生じたことにより、棚卸資産の時価が帳簿価額を下回ることとなった場合に限り、帳簿価額と時価との差額を限度として評価損の損金算入が認められます。
- 棚卸資産が災害により著しく損傷した場合
- 棚卸資産が著しく陳腐化した場合
陳腐化とは、棚卸資産そのものに欠陥が生じたわけではないものの、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいいます。具体的には、商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当します。
- 季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが、これまでの実績から明らかであること
- その商品と用途の面でおおむね同様のものであるが、形式、性能、品質等が著しく異なる新商品が発表されたことにより、その商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと
このように税務上、評価損に関する取り扱いは詳細に決められています。棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更などの事情によって低下しただけでは、税務上は評価損の損金算入は認められないため注意が必要です。
8 廃棄損の計上は適正か
商品を廃棄した場合、会計上「商品廃棄損」を計上することになりますが、税務調査においては、実際に期末までに商品を廃棄したかどうか確認されることになります。廃棄業者から受領した廃棄完了報告書などから、計上の妥当性を確認されることになります。廃棄完了報告書の発行が受けられない場合などには、廃棄した商品の状態や廃棄したときの写真(日付あり)など、客観的に説明できる資料を残しておきましょう。
以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)
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