書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を身につけたい経理担当者
  • 課題:棚卸資産の取得価額は購入代価以外にも、含めなければならないなど、会計処理が複雑で分かりにくい
  • 解決策:取得価額に含めなければならない費用、含めなくてもよい費用や、期末の評価方法を解説

1 購入した棚卸資産

1)購入した棚卸資産の取得価額

購入した棚卸資産の取得価額には、その購入の代価のほか、これを消費しまたは販売の用に供するために直接要した全ての費用の額が含まれます。

しかし、次に掲げる費用については、これらの費用の額の合計額が少額(当該棚卸資産の購入代価のおおむね3%以内の金額)である場合には、その取得価額に算入しないことができます(法人税基本通達5-1-1)。

  • 買入事務、検収、整理、選別、手入れなどに要した費用の額
  • 販売所等から販売所等へ移管するために要した運賃、荷造費等の費用の額
  • 特別の時期に販売するなどのため、長期にわたって保管するために要した費用の額

1.~3.に掲げる費用の額の合計額が少額かどうかについては、事業年度ごとに、かつ、種類等(種類、品質及び型)を同じくする棚卸資産ごとに判定することができます。事業所別に異なる評価方法を選定している場合には、事業所ごとの種類等を同じくする棚卸資産とすることができます。

棚卸資産を保管するために要した費用(保険料を含む)のうち、3.に掲げるもの以外のものの額は、その取得価額に算入しないことができます。

2)棚卸資産の取得価額に算入しないことができる費用

次に掲げるような費用の額は、たとえ棚卸資産の取得または保有に関連して支出するものであっても、その取得価額に算入しないことができます(法人税基本通達5-1-1の2)。

  • 不動産取得税の額
  • 地価税の額
  • 固定資産税及び都市計画税の額
  • 特別土地保有税の額
  • 登録免許税その他登記または登録のために要する費用の額
  • 借入金の利子の額

3)取得後の事業年度において購入代価が確定した場合の調整

棚卸資産を取得した日の属する事業年度において、その購入の代価が確定していないため、見積価額で棚卸資産の取得価額を計算している場合、その後の事業年度において購入の代価が確定したときは、その確定した金額と見積価額との差額に相当する金額は、その確定した日の属する事業年度の益金の額または損金の額に算入します。

ただし、その差額が多額である場合には、その差額については、原価差額の調整方法に準じて調整します(法人税基本通達5-1-2)。

2 製造等に係る棚卸資産

1)製造等に係る棚卸資産の取得価額

自己の製造等に係る棚卸資産の取得価額には、その製造等のために要した原材料費、労務費および経費の額の合計額の他、これを消費しまたは販売の用に供するために直接要した費用の額が含まれます。

しかし、次に掲げる費用については、これらの費用の額の合計額が少額(当該棚卸資産の製造原価のおおむね3%以内の金額)である場合には、その取得価額に算入しないことができます(法人税基本通達5-1-3)。

  • 製造等の後において要した検査、検定、整理、選別、手入れ等の費用の額
  • 製造場等から販売所等へ移管するために要した運賃、荷造費等の費用の額
  • 特別の時期に販売するなどのため、長期にわたって保管するために要した費用の額

1.~3.に掲げる費用の額の合計額が少額かどうかについては、事業年度ごとに、かつ、種類等を同じくする棚卸資産(工場別に原価計算を行っている場合には、工場ごとの種類等を同じくする棚卸資産)ごとに判定することができます。

棚卸資産を保管するために要した費用(保険料を含む)のうち、3.に掲げるもの以外のものの額は、その取得価額に算入しないことができます。

2)製造原価に算入しないことができる費用

次に掲げるような費用の額は、製造原価に算入しないことができます(法人税基本通達5-1-4)。

  • 使用人等に支給した賞与のうち、例えば創立何周年記念賞与のように特別に支給される賞与であることの明らかなものの額(通常賞与として支給される金額に相当する金額を除く)
  • 試験研究費のうち、基礎研究及び応用研究の費用の額並びに工業化研究に該当することが明らかでないものの費用の額
  • 措置法に定める特別償却の規定の適用を受ける資産の償却費の額のうち特別償却限度額に係る部分の金額
  • 工業所有権等について支払う使用料の額が売上高等に基づいている場合における当該使用料の額及び当該工業所有権等に係る頭金の償却費の額
  • 工業所有権等について支払う使用料の額が生産数量等を基礎として定められており、かつ、最低使用料の定めがある場合において支払われる使用料の額のうち生産数量等により計算される使用料の額を超える部分の金額
  • 複写して販売するための原本となるソフトウエアの償却費の額
  • 事業税及び地方法人特別税の額
  • 事業の閉鎖、事業規模の縮小等のため大量に整理した使用人に対し支給する退職給与の額
  • 生産を相当期間にわたり休止した場合のその休止期間に対応する費用の額
  • 償却超過額その他税務計算上の否認金の額
  • 障害者の雇用の促進等に関する法律第53条第1項「障害者雇用納付金の徴収及び納付義務」に規定する障害者雇用納付金の額
  • 工場等が支出した寄附金の額
  • 借入金の利子の額

3)製造間接費の製造原価への配賦

法人の事業の規模が小規模である等のため製造間接費を製品、半製品または仕掛品に配賦することが困難である場合には、その製造間接費を半製品および仕掛品の製造原価に配賦しないで製品の製造原価だけに配賦することができます(法人税基本通達5-1-5)。

4)法令に基づき交付を受ける給付金等の額の製造原価からの控除

法人が、その支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費を補填するために「雇用保険法」「雇用対策法」「障害者の雇用の促進等に関する法律」等の法令の規定等に基づき給付される給付金等の交付を受けた場合、その給付の対象となった事実に係る休業手当、賃金、職業訓練費等の経費の額を製造原価に算入しているときは、その交付を受けた金額のうち、その製造原価に算入した休業手当、賃金、職業訓練費等の経費の額に対応する金額を当該製造原価の額から控除することができます(法人税基本通達5-1-6)。

5)副産物、作業くずまたは仕損じ品の評価

製品の製造工程から副産物、作業くずまたは仕損じ品(以下「副産物等」)が生じた場合には、総製造費用の額から副産物等の評価額の合計額を控除したところにより製品の製造原価の額を計算します。

しかし、この場合の副産物等の評価額は、継続して当該副産物等に係る実際原価として合理的に見積もった価額または通常成立する市場価額によるものとします。

ただし、当該副産物等の価額が著しく少額である場合には、備忘価額で評価することができます(法人税基本通達5-1-7)。

3 棚卸資産の評価

1)原価法による評価方法

原価法とは、当該事業年度終了の時において有する棚卸資産を取得価額をもって当該期末棚卸資産の評価額とする方法をいいます。

法人税法で定めている原価法による棚卸資産の評価方法には、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法の6つの方法があります(法人税法施行令第28条第1項)。

次の前提条件を基に、各評価方法による期末棚卸資産の取得価額を算出してみます。

  • 期首商品=10円×10個=100円
  • 第1回当期仕入=20円×20個=400円
  • 第2回当期仕入=30円×20個=600円
  • 当期販売数量 =40個
  • 期末棚卸数量 =10個

1.個別法

個別法は、棚卸資産全てを個別に算出します。例えば期末商品が第1回当期仕入分4個、第2回当期仕入分6個で構成されている場合、次の通りです。

  • 期末棚卸高=20円×4個+30円×6個=260円

2.先入先出法

先入先出法は先に仕入れたものから先に売れるものと考えます。期末棚卸資産の取得価額は、最も後に仕入れた商品で構成されます。

  • 期末棚卸高=30円×10個=300円

3.総平均法

総平均法は次式で計算します。

  • 商品仕入単価=(100円+400円+600円)÷(10個+20個+20個)=22円
  • 期末棚卸高=22円×10個=220円

4.移動平均法

移動平均法では、棚卸資産を仕入れる都度、平均仕入単価を改定します。

  • 第1回当期仕入時の仕入単価=(100円+400円)/30個≒16.7円

次に、20個を販売した後、第2回当期仕入をしたものとした場合、次の通りです。

  • 第2回当期仕入時の仕入単価=(16.7円×10個+600円)/30個≒25.6円
  • 期末棚卸高=25.6円×10個=256円

5.最終仕入原価法

最終仕入原価法では、次の通りです。

  • 期末棚卸高=30円×10個=300円

6.売価還元法

売価還元法では、次のように算出されます。

  • 原価率=(期首商品+当期仕入高)/(当期売上高+期末棚卸資産の販売価額)
  • 期末棚卸資産=期末棚卸資産の販売価額×原価率

そこで、販売単価を50円とした場合、次の通りです。

  • 原価率=(100円+1000円)/(50円×40個+50円×10個)=44%
  • 期末棚卸高=50円×44%×10個=220円

2)原価法による評価と低価法による評価

法人税法施行令第28条第1項には、棚卸資産の評価方法として、次の2つの方法が規定されています。

  • 原価法(第28条第1項第1号)
  • 低価法(第28条第1項第2号)

原価法は前述の通り、期末棚卸資産を取得価額をもって当該期末棚卸資産の評価額とする方法をいいます。低価法は期末棚卸資産を原価法により評価した価額と当該事業年度終了の時における価額とのうち、いずれか低い価額をもってその評価額とする方法をいいます。

3)棚卸資産の評価方法の変更

法人税法施行令第30条第1項には、「内国法人は、棚卸資産につき選定した評価の方法を変更しようとするときは、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならない」と規定されています。例えば、先入先出法を総平均法に変更する場合や原価法による評価を低価法による評価に変更する場合、納税地の所轄税務署長の承認を受ける必要があります。

4)低価法採用後の処理

低価法により評価した場合において、翌事業年度終了の日において評価をする場合の当該棚卸資産の取得価額は、前事業年度終了の日における評価額ではなく、実際の取得価額を基礎として計算します。

以上(2019年10月)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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画像:photo-ac

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