書いてあること
- 主な読者:簿記の基本をマスターしたい新入社員
- 課題:社会人としての基本である会社のお金の流れを理解したい
- 解決策:棚卸資産と売上原価の関係、棚卸資産の評価方法を理解する
1 売上原価と棚卸資産
売上原価とは、実際に売れた商品の仕入金額のことで、次のように計算します。
- 売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
では、次のケースで仕訳例を確認していきましょう。
- 期首商品棚卸高:20万円
- 当期商品仕入高:100万円(掛仕入)
- 期末商品棚卸高:10万円
この場合の当期売上原価は次のようになります。
- 当期売上原価=20万円+100万円-10万円=110万円
製造業の場合、商品仕入高の代わりに当期製品製造原価を用いて売上原価を算出します。また、棚卸資産は、材料棚卸高・仕掛品棚卸高・製品棚卸高で構成されます。実際の原価計算は非常に複雑ですが、簡単にまとめると次のようになります。
- 当期製品売上原価=期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高
- 当期製品製造原価=期首仕掛品棚卸高+当期総製造費用-期末仕掛品棚卸高
- 当期総製造費用=材料費+労務費+製造経費
- 当期材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高
2 原価法による評価
期末商品棚卸高(次期繰越商品)は、次のいずれかの方法で取得価額を算出します。そして、算出した取得価額が期末商品、棚卸資産の評価額となります。
1)先入先出法
先に仕入れた商品から順に売上原価に入れていく方式です。期末商品は、最も新しく仕入れた商品になります。
2)総平均法
期首商品並びに当期仕入商品を全て平均する方法です。売上原価と期末商品の単価は同じになります。
3)移動平均法
商品を仕入れた都度、商品の平均値を求めます。期末商品も同様に求めます。
4)売価還元法
多品種多品目の商品を扱う小売業では、商品を売価でしか管理できない場合があります。この場合、商品の平均売上原価率を求め、これを商品棚卸売価に乗じて算出します。売価還元法では、期末商品棚卸価額は次のように計算します。
- 期末商品棚卸価額=期末棚卸資産(商品)の通常の販売額×原価率
この原価率の計算方法は、税法では次のようになります。
- 原価率=(期首棚卸価額+当期仕入高)/(当期売上高+期末棚卸資産の通常の販売価額)
例えば、原価率算出の条件は次の通りです。
- 期首棚卸価額:200万円
- 当期仕入高:1000万円
- 当期売上高:1400万円
- 期末棚卸資産の通常の販売価額:200万円
この場合、原価率と期末商品棚卸価額を次のように算出することができます。
- 原価率=(200万円+1000万円)÷(1400万円+200万円)=75%
- 期末商品棚卸価額=200万円×75%=150万円
3 減耗損と評価損
1)減耗損とは
減耗損とは、帳簿上の数量と実地棚卸数量との差異で、低価主義を適用する場合に生ずる評価損は、商品価値の劣化、市場価格の下落によるものです。低価主義とは、帳簿価額と時価のいずれか低い金額をもって、その後の帳簿価額とすることです。
原価性があるものは、売上原価に含め、そうでない場合は営業費用に含めます。また、経常的でない損失は営業外費用か特別損失に含めます。
2)評価損に関する規定
企業会計原則の注解10で、棚卸資産の低価主義などの評価基準の適用に基づく評価損について、次のように規定しています。
1.低価主義の適用に基づく評価損
売上原価の内訳科目または営業外費用として計上します。
2.棚卸資産の時価が著しく下落した場合の評価損
時価まで価額を引き下げ、評価損は営業外費用または特別損失として計上します。
3.棚卸資産に関する品質低下、陳腐化などの原因によって生じる評価損
原価性を有するものは製造原価、売上原価の内訳科目または販売費に計上し、原価性を有しないものは、営業外費用または特別損失に計上します。
4 仕訳例
1)前提条件
甲商品は次の通りでした。
- 単価:100円
- 期末時価:90円
- 期末帳簿棚卸高:1000個
- 期末実地棚卸高:900個
- 品質の低下:100個(見積額:40円)
2)減耗損
減耗損は帳簿上の資産数量と実地棚卸数量の差異(帳簿数量>実地棚卸数量)によって生じます。
3)品質低下評価損
品質低下評価損は、棚卸資産の劣化や陳腐化などの品質低下による評価損です。
4)低価法評価損
低価法評価損は、取得価額と時価を比較し、時価のほうが低い場合に生じる評価損です。
減耗損と評価損を図示すると次の通りです。
以上(2023年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
pj35065
画像:pixabay