書いてあること
- 主な読者:減価償却の基本を知りたい中小企業の経営者・経理担当者
- 課題:なぜ、取得した費用をすべて計上しないのか分からない
- 解決策:減価償却は固定資産の価値を分割して費用にする処理。財務会計と税務会計の取り扱いも異なる
1 減価償却とは
減価償却とは、固定資産の取得価額を一定期間にわたり、分割して費用計上する会計上の処理をいいます。固定資産は、通常、数年から数十年使い続けます。もし、購入時に一括して費用計上してしまうと、次の年から、その固定資産がもたらす影響が財務諸表に正確に反映されなくなってしまうので、減価償却によってこれを防げます。
また、固定資産は使用や時間の経過により、少しずつ価値が減少します。このような実態を正確に財務諸表に反映するために、固定資産は一旦資産計上し、使用期間にわたって少しずつ減価償却を行っていくことになります。
2 減価償却の財務上の効果
減価償却が他の費用と違う点は、支出を伴わないことです。なぜなら、固定資産の取得時に支払いは済んでおり(分割払いなどの場合は除く)、その後は、計算上の金額が財務諸表に計上されるだけだからです。つまり、減価償却費の分だけ利益は減少しますが、資金は減少しません。このことは、利益以外の部分で、減価償却費分の資金が社内に留保されていることを意味し、「自己金融効果」と呼ばれます。新たな資金が入ってくるわけではありませんが、資金繰りや将来の投資計画を作成する際、減価償却費が意思決定の1つのポイントになります。
3 財務と税務で取り扱いが違う?
1)償却方法
財務上と税務上の減価償却の主な違いは、「償却方法」と「耐用年数」の取り扱いです。財務上認められる減価償却方法は次の通りです。
財務上は、資産の使用実態に合う上記の減価償却方法のいずれかを会社が継続して適用することを前提に、自由に選択することができます。
一方、税務上は、資産ごとに適用できる減価償却方法が法律で決められています(以下「法定償却方法」)。もし、税務上認められていない方法で償却した場合、納税額を計算する際に法定償却方法で再計算しなければなりません。そのため、実務上は、税務上の法定償却方法により減価償却を行うのが一般的です。税務上の法定償却方法は次の通りです。
2)耐用年数
財務上、減価償却の耐用年数はその固定資産の材質や使用環境により、会社ごとに合理的な年数を設定できます。また、同じ種類の固定資産であっても、使用頻度が違うなどを理由に、異なる耐用年数を設定することができます。
一方、税務上の減価償却の耐用年数は法律で定められています(法定耐用年数)。税務は基本的に、会社ごとに計算基準が異なることで、会社間の不平等を生じさせないこと(課税の公平性)が前提となっているため、会社が独自で見積もった耐用年数は認められません。実務上では、償却方法と同様、税務基準を基に行われていることが一般的です。
4 固定資産の減価償却に係る税務特有の取り扱い
1)少額減価償却資産
少額減価償却資産とは、「使用可能期間が1年未満」または「取得価額が10万円未満」のいずれかに該当する減価償却資産(減価償却を行う固定資産)をいいます。その事業の用に供した事業年度において、取得価額の全額を損金経理(費用として経理)した場合に、その全額を損金(税務上の費用)の額に算入することができます。つまり、固定資産として一旦資産計上する必要はなく、購入時に消耗品費などの費用として処理され、減価償却はしません。
なお、中小企業者等(資本金の額などが1億円以下で一定の法人)の場合は、一定の範囲内で、取得価額が30万円未満である減価償却資産も少額減価償却資産として処理することができます。
2)一括償却資産
一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産をいい、3年間の均等償却をすることができます。つまり、機械装置や工具器具備品などの個々の耐用年数を把握し、固定資産として計上するのではなく、一括償却資産として計上し、3年間の均等償却を行います。そのため、通常の減価償却はしません。
取得価額が30万円未満の固定資産(減価償却資産に限る)の税務上の取り扱いは次の通りです。
3)特別償却
特別償却とは、通常の減価償却費(以下「普通償却費」)の他に、設備の取得など投資をした固定資産の取得価額に一定の割合を乗じて計算するなどした特別な償却費(以下「特別償却費」)を損金に算入できる制度です。損金に算入できる償却費が増加(普通償却費+特別償却費)することで、所得金額を減少させる効果があり、投資額の早期回収が可能になります。
以上(2021年3月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
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