書いてあること
- 主な読者:「損金」の正しい知識を得たい経営者、経理担当者
- 課題:損金は税金対策の基本だが、どのようなルールがあるのか分からない
- 解決策:「売上原価」「販売費及び一般管理費その他の費用」「損失」に分けて整理する
1 税金対策の主役となる「損金」
皆さんの中にも、決算前になると「税金対策(決算対策)」を意識する人が多いでしょう。この税金対策の主役は損金ですが、いわゆる「費用」と何が違うのでしょうか。
損金とは税法上の考え方で、
所得(税務上の利益)を計算するために用いる、税法で認められた費用などの支出
のことです。
所得は、益金(税務上の収益)から損金(税務上の費用)を引いた金額です。損金が増えれば所得が減るので、税負担も軽くなるのです。これが税金対策です。一方、費用は財務上の考え方で、支出という意味では損金と同じです。
ただし、税務会計と財務会計の考え方の違いから、「損金の額=費用の額」とはなりません。それは、交際費等や役員報酬などのように、税法上で定められる「特定の項目」があるからです。これらは、税法の要件や金額などから損金に算入できるか否かが判断されます。ですから、税金対策をする上では、損金の基本とともに、特定の項目の考え方を知っておく必要があります。一方、特定の項目ではない損金は財務上の費用と同じ基準で計上できるので、特に気にする必要はないでしょう。
では、売上原価、販売費及び一般管理費その他の費用、損失の順に損金の取り扱いを説明していきます。
2 損金になる売上原価
売上原価とは、
その事業年度の売上(収益)に係る売上原価、完成工事原価など
のことです。損金になるのは、
その事業年度に計上された売上と、直接対応しているものでなければならず、この考え方は財務上も税務上も同じ
です。
また、「売上原価=仕入高」ではないことに注意しましょう。仕入高は、商品の仕入時は費用として計上されますが、事業年度末に棚卸しを行い、その事業年度の売上に対応する部分(売上原価)と在庫となる部分(資産)とに区分されます。そして、在庫に係る仕入高は、費用(財務上)にも損金(税務上)にもなりません。
3 損金になる販売費及び一般管理費その他の費用
1)販売費及び一般管理費その他の費用の要件
販売費及び一般管理費その他の費用とは、
- 事業年度末までに、債務が成立している(償却費を除く)
- 事業年度末までに、支払い原因となる事実が発生している
- 事業年度末までに、その金額が合理的に算定できる
といった3つの要件を満たしている費用です。
3月末決算の会社における3月分の給料(毎月末締め翌月25日支給)の「未払計上」について考えてみます。未払計上とは、簡単にいうと「債務は確定しているが、決算時には未払いとなる項目を計上する」という、いわゆる「決算整理仕分」の一つです。
会社は社員の3月の労働(支払いの原因となる事実)の対価として、社員に給料を支払います(債務が成立)。そして、給料の支給額は毎月厳密に計算されています(金額の合理的な算定)。このように、3月末決算の会社における3月分の給料(毎月末締め翌月25日支給)は3つの要件を満たすため、未払計上しなければならないのです。
2)主な特定の項目
前述した3つの要件が基本ですが、例外もあります。それが冒頭で触れた特定の項目です。ここでは交際費等と役員報酬について確認していきましょう。
1.交際費等
交際費等とは、
取引先の接待や慰安などのための費用
です。ただし、交際費等は多岐にわたり、税務上の交際費等に該当するか否かの判断は難しいので注意しましょう。
さて、損金に算入できる交際費等の金額は、接待飲食費の50%相当額までと決まっているのですが、中小法人の場合は、
接待飲食費の50%相当額と、年800万円(定額控除限度額)のいずれかを選択できる
ことになっています。中小法人とは、事業年度終了日における資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人です(普通法人のうち事業年度終了日における資本金の額または出資金の額が5億円以上の大法人による完全支配関係がある子法人などを除く)。
2.役員報酬
損金に算入できる役員報酬は次の3つに限定されます。また、次の3つに当てはまる場合でも、税務署から高額すぎると判断された部分は、損金に算入できないなどの制約があります。
4 損金に算入できる損失
1)棚卸資産の評価損
棚卸資産の価値が著しく下落した場合は評価損を計上しますが、それらが全て損金に算入できるとは限りません。まず、損金に算入できるのは、
- 災害で損傷した場合
- 売れ残りが季節商品で、将来的に通常価額で販売できないことが例年の取引などから明らかな場合
などです。
一方、損金に算入できないのは、
物価変動や過剰生産などによって価値が著しく下落した場合
です。
なお、棚卸資産や固定資産の評価損の取り扱いについては、以下のコンテンツで詳しく説明しています。
2)貸倒損失
売掛金が回収できそうにない場合、貸倒れの処理をして貸倒損失を計上しますが、それらが全て損金に算入できるとは限りません。まず、損金に算入できるのは、
- 取引先が民事再生法や会社更生法の手続きを申し立て、その規定により金銭債権が切り捨てられた場合
- 取引先の資産状況などから、その金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合(担保があれば、それを処分した後)
などです。また、継続的に取引をしていた取引先に対する売掛金については、
取引を停止したときなどから1年以上経過した場合
には、備忘価額(1円)を引いた債権金額について、貸倒損失として損金に算入できます。
一方、これらの要件に該当しない貸倒損失は損金に算入できないケースがあるので、税理士などの専門家にご確認ください。
以上(2022年3月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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