書いてあること
- 主な読者:実地棚卸の重要性を社内に周知したい経営者・経理担当者
- 課題:棚卸資産の管理が不十分だと在庫の過大・過少計上が生じる
- 解決策:経営判断と不正防止の観点から実地棚卸が不可欠
1 棚卸とは
棚卸とは、ある時点における在庫の種類・数量などを調査し、実際に保有している数量を確定し、棚卸資産の金額を正確に把握することです。これにより、適正な損益計算を行うことができます。棚卸の実施方法には以下があります。
- 帳簿棚卸:帳簿記録に基づき調査を行う
- 実地棚卸:現物を実際に調査する
帳簿棚卸で状況は簡単に把握できるものの、「棚卸差異(在庫数量と実在庫数量の誤差)」が生じていても発見できません。その点を実地棚卸により補完することになります。以降では、実地棚卸の基本や目的、手順を紹介します。なお、棚卸に資産評価(単価の決定)まで含める場合もありますが、本稿では含めません。
2 実地棚卸の基本
1)実地棚卸の対象資産
実地棚卸の対象資産は、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品、貯蔵品などです。企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ売却を予定する資産の他、売却を予定していない資産であっても対象となります。具体的には、短期間に消費される事務用消耗品等があります。
2)実地棚卸の実施頻度
実地棚卸の頻度は、年1回(年度末だけ)、半期、四半期、毎月、毎日など様々です。実施頻度は、棚卸資産の金額的および質的重要度の観点に基づいて決定します。また、実施日は月末日や決算日に行われることが多いですが、決算日等の前後で行う場合は、実地棚卸当日の帳簿在庫から決算日等の帳簿在庫まで受払記録を照合できるようにすることが重要です。
3 実地棚卸は何のために必要なのか
1)帳簿数量を実在庫数量へ修正
帳簿棚卸は棚卸差異を発見することができないデメリットがあることは、すでに紹介しました。そこで実地棚卸により実際の在庫数量を把握できれば、帳簿上の在庫数量を実在庫数量へ修正することができます。
2)滞留在庫などの把握や棚卸差異の分析
実地棚卸を行うことで不良品や滞留在庫(売れる見込みのない在庫)を見つけ出し、通常の在庫と区分することができます。また、棚卸差異を把握した後、記録ミス、在庫の紛失・破損・盗難、減耗損などの発生原因別に分析するための基礎情報を集められるので、その後の予防に役立ちます。
3)損益の確定
棚卸差異に係る金額は、原則として会計上は売上原価(棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生する場合は製造原価)に計上されます。ただし、大規模な自然災害など臨時的な事象によって多額の棚卸差異が生じた場合には、特別損失に計上されることもあります。このように棚卸資産にかかる費用・損失を正確に把握し、一定期間の(段階)損益を確定するために、実地棚卸が必要です。
4)会計不正の防止
売上原価は「期首在庫+当期仕入高-期末在庫」で算定されるため、期末在庫を正しく把握することは、正確な売上原価の算定につながります。そして、売上総利益(粗利益)は「売上高-売上原価」で算定されます。このように、期末在庫の把握は適正な損益計算を支える重要な作業です。
一方、期末在庫を実際の有高より大きく見せる(売上原価が小さくなり、利益は大きくなる)など、会計不正に用いられてしまうこともあります。これを防止するために、実地棚卸は有効です。定期的な現物のチェックに加え、帳簿上の在庫数量との差額の期間比較などをすることで、異常値を把握できます。
4 実地棚卸と(管理)会計との関係
1)在庫から生じるコストや資金負担
在庫は保有するだけで、管理のための人件費、倉庫の賃借料、水道光熱費、運送費、保険料、在庫が陳腐化した場合の処分費用などのコストが生じます。また、在庫は企業の資金が形を変えた資産と解釈できるため、在庫を保有している間は自由に使える資金が減っていることを意味します。仮に在庫でなく現金として保有していたなら、他の資産などに投資することでリターンを得られるかもしれないからです。
さらに、当該資金を借入金や株主資本で賄っていれば、その在庫を保有している期間の負債コスト(金融機関などからの借り入れにかかる金利)や株主資本コスト(株主が出資に対して要求する期待利回り)が発生しています。こうした在庫とコストの関係を現場に理解してもらうことは管理部門の責務といえます。
2)最適在庫量の基礎情報
在庫を保有することはデメリットばかりではありません。在庫を保有することで欠品による損失(受注機会損失)を回避できます。また得意先からの急な注文に対して対応できたほうが、長期的な信用を得るために有利です。このため欠品を防ぎながら在庫量を減らせる限界在庫量、いわゆる「最適在庫量」で管理できれば、利益を最大化することが可能です。最適在庫量の求め方の解説は本稿では省略しますが、最適在庫量を決定するにあたり、実地棚卸から得られる情報は、在庫の実態を知る上で非常に重要です。
5 実地棚卸の方法
1)実地棚卸の種類
実地棚卸は、ある時点で工場・店舗・企業等が保有する全ての在庫を一度に棚卸する「一斉棚卸」と、作業や業務を止めることなく一部の棚や在庫の種類などに分類し、順番に棚卸を実施する「循環棚卸」とに分かれます。循環棚卸は作業を止めずに行え、棚卸実施者も少なくて済むメリットがあるものの、日ごろから高い精度の在庫管理が要求されるため、実地棚卸を実施する際の難易度が高くなります。従って、循環棚卸を採用している企業の多くは、自動倉庫やPOSレジのような高度な在庫管理を行うことのできるシステムを導入しています。
2)実地棚卸のカウント方法
実地棚卸(一斉棚卸)は、在庫のカウント方法の違いにより「リスト方式」と「タグ(棚札)方式」とに分けられます。
リスト方式は、システムから出力されたリストに基づき、実際の在庫数量と一致していることを確認する方法であり、リストを新たに作成する手間が必要ありません。そのため、比較的短時間で棚卸ができるメリットがあります。しかし、リストに記載されていない在庫は調査対象から漏れるため、網羅性の確保という点に多少のデメリットがあります。
タグ方式は、タグ(棚札)を用いた実在庫数量の確認方法です。この方法はタグの貼り付けおよび回収作業に時間がかかるというデメリットがありますが、実在庫を網羅的にカウントできるメリットがあるため、タグ方式を採用する企業が多いです。
3)実地棚卸の手順
ここでは、実務上手順の多いタグ方式について紹介します。
以上(2021年3月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 鬼丸真史)
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