個人事業を法人化する「法人成り」。これを行うと、個人で事業を行っているときよりも税金対策の幅が広がる、金融機関からの信用を得やすくなる、などのメリットがあります。
法人成りは、所得税法や消費税法等の関係で、売上が一定以上になったら実施することが多く、一般的には売上1000万円程度が法人成りの基準といわれています。ただ、実際の適正なラインは、自社の実情などに合わせてシミュレートしてみないと分かりません。

そこでこの記事では、法人化のタイミングに悩んでいる個人事業主に向けて、法人成りのメリットと法人成りのタイミングを検討する際のシミュレーションの例を紹介します。

1 法人成りとは

法人成りとは、個人で事業を行っている人(個人事業主)が、株式会社などの法人格を取得することです。一から事業を立ち上げる「起業」と違い、法人成りは、個人事業の資金や事業内容をそのまま法人に引き継ぐことができます。
例えば、起業の場合、資本金しかないような状態で会社をスタートさせることになりますが、法人成りは個人で行っていた事業や資金、個人資産を引き継げるため、起業の場合よりもスムーズに立ち上げられるのです。

2 個人事業主から法人化する7つのメリット

1)給与所得控除で所得税の税金対策になる

法人成りすると、会社は社長本人に「給与」を支給できます。支払った給与は経費となり、「給与所得控除」という個人事業には適用されない控除が適用され、所得税の税金対策に大きな効果をもたらします(55万~195万円の範囲内で収入金額に基づき控除)。

2)家族に給与を支払って経費にできる

社長の家族を役員や従業員にすると、家族に支払った給与も経費となり、給与所得控除が適用されます(個人事業でも専従者給与に該当する場合は経費となります)。

3)出張手当が経費になる

社長が出張に行くと、会社は出張手当(出張の内容に応じて決まった額を支給するもの)を経費に計上できます(個人事業主の場合は不可)。交通費や宿泊費だけでなく、食事補助などのために支給する日当も対象です。

4)自宅を税金対策に活用できる

社長が住んでいる自宅を、役員社宅として会社が貸し付けている状態にすることで、家賃の50%程度を経費に計上できます。個人事業主の場合、経費に計上できるのは自宅兼事業所として実際に利用している部分だけですが、法人の場合、社会通念上一般に貸与されている社宅であれば、その全ての部分が対象になります。

5)赤字を10年間繰り越せる

事業で生じた赤字(欠損金)を10年間繰り越せます。繰り越した赤字は翌年以降の利益で相殺できます。個人事業の場合、赤字を繰り越せるのは3年間だけなので、法人成りしたほうが税金対策の効果は高くなります。

6)社会的信用を得られる

法人は「登記」がされていて、事業の内容や責任者などの情報を誰もが閲覧できるため、社会的信用を得やすいです。そのため、補助金の申請、金融機関からの借り入れ、クレジットカードの発行など、お金にまつわる申請が通りやすくなる傾向にあります。

7)最大4年間の消費税納付猶予期間を得られる

一般的に消費税は、売上が1000万円を超えたタイミングの2年後から課税の対象になります。これは法人も個人事業も同様ですが、資本金1000万円未満で法人成りすることで、免税期間がさらに2年間伸び、最大4年間、消費税の納付が猶予されます。

3 法人成りに適したタイミングは?

法人成りはどのタイミングで行うのがよいのでしょうか。実際のシミュレーションをもとに、適切なタイミングを考えてみます。

1)利益の面から考える

ここでは、年間800万円の利益を上げている個人事業主が、法人成りして800万円のうち400万円を社長(本人)の給与として支払うようになった場合の税引後の手取り額をシミュレートしてみます。

【個人の試算条件】

  • 東京都豊島区在住の30歳男性
  • 配偶者なし
  • 年間の利益800万円(前年度も800万円)
  • 個人事業は青色申告(e-tax)で65万円の控除
  • 法人成り後は従業員を雇わない
  • 国民年金第1号被保険者
  • iDeCo・小規模企業共済・生命保険・ふるさと納税などは考慮しない
  • 法人はIT業(プログラマー)で設立すると仮定

税引後の手取り額のシミュレーションの画像です

法人成りによって800万円のうち400万円を給与として支払う場合、

給与所得控除=124万円(400万円×20%+44万円)

となり、これが「所得税+復興特別所得税」「住民税(個人)」の計算に反映されて、税金が大きく下がります。
一方、法人成りすると、社長が厚生年金保険、健康保険に加入することでそれぞれの保険料が発生し(個人事業主のときに支払っていた国民年金保険料は厚生年金保険料に統合)、新たに「法人税」「法人事業税」「法人住民税」を負担しなければならなくなります。
ただ、それらを考慮しても、利益を800万円に設定した場合、税引後の手取り額は、法人成りした場合のほうが4.6万円(574.3万円-569.7万円)多くなります。ただし、これはシミュレーションの一例であり、実際の税金や社会保険料負担額は、給与をいくらにするかによって変わりますので注意が必要です。
なお、シミュレーションの内容は、役員社宅や出張手当の制度を考慮していないシンプルなものですから、これらの制度も活用すればより手元に多くの資金を残せるでしょう。

2)消費税の面から考える

売上が1000万円を超えると、課税事業者として翌々年から消費税を納めなければなりません。しかし、法人成りした場合、消費税の納付期間を2年間先送りにできます。そこで、次は消費税の面に注目してシミュレーションを実施します。

【試算条件】

  • 東京都豊島区在住の30歳男性
  • 配偶者なし
  • IT業(プログラマー)
  • 2年前の売上1000万円(税抜)、以降も継続
  • 売上に対する経費はかかっていないものとする
  • 前年の前半6カ月は1000万円を超えていない
  • 一般課税で算出
  • 消費税は100万円

消費税額のシミュレーションの画像です

例えば、年間売上が1000万円を超えてから法人成りをせずに事業を継続していると、2年後からは年間100万円消費税を納税しなければなりません。しかし納税義務が生じる前に法人成りすることで、さらに2年間納税を先送りできるのです。
なお、個人と法人はまったくの別人格として扱われます。仮に2年前、個人で1000万円稼いだとしても、新しく立てた法人は2年前の売上の影響を受けません。つまり、個人で納めなければならない消費税を免除にしつつ、もう2年猶予期間を得られます。
また、消費税の免除を受けるには、法人の資本金が1000万円未満で、かつ初年度半年間の売上が1000万円以下である必要があります。

4 小規模企業共済は法人成りするとどうなる?

小規模企業共済とは、小規模企業の経営者や役員が定期的に掛金を積み立て、廃業や退職時にまとまったお金を受け取れる制度です。掛金は全額所得控除の対象になるため、税金対策に活用できます。
個人事業主が法人成りする場合、「小規模企業共済に引き続き加入できるのか」を気にする人がいますが、結論から言うと可能です。ただし、小規模企業共済に加入し続けるには、法人成り後の従業員数が加入資格に則した数である必要があります。
例えば、運輸業や不動産業は従業員数が20人以下でなければなりません。また、卸売業やサービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は、従業員数が5人以下であることが条件になります。
なお、一部の個人事業を残して法人成りする場合(同一人物の事業)は、個人と法人で小規模企業共済は二重でかけられません。あくまでもどちらかひとつに引き継ぐ形になるため、あらかじめ理解しておきましょう。

以上
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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