書いてあること
- 主な読者:税務対策を適切に行いたい中小企業の経営者
- 課題:事業年度が終わり、申告書の作成時期に税金のことを心配しても、とれる税務対策はない
- 解決策:「事業年度当初」「事業年度の中途」「事業年度末」それぞれの時期に適した税務対策を解説する
1 税務対策と経営計画
会社の経営は経営計画を策定し、それを着実に実行していかなければなりません。その際、経営と切り離せない税金については、経営計画の段階で納税額を試算し、納税資金の準備と税務対策を講じる必要があります。経営計画を実行する過程で月次や四半期ごとに年間利益を推計し納税額を試算し、それに対応した対策を検討します。
事業年度が終了し、申告段階になって税金の心配をしても、既に手遅れです。こうしたことのないように、定期的に税理士などの専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
なお、企業にかかる税金で、とっさにできる対策はありません。基本的には、払い過ぎを防止したり、課税の繰り延べを図ることが中心となります。
2 税務対策のポイント
1)費用および損失の発生
損金に算入できる給与の増額、福利厚生の充実、設備投資、不良資産の処分など。
2)損金算入可能な経理処理の適用
貸倒引当金の計上、棚卸資産の評価損の計上など。
3)費用および損失の前倒し計上
短期前払費用の費用計上、少額減価償却資産の費用化、特別償却など。
4)課税の繰り延べ処理の活用
圧縮記帳など。
5)特例制度の活用
設備投資などの税額控除など。
税務対策は、そのときだけの税額が少なくなればよいというだけではなく、中長期的な観点で判断し、タイミングや組み合わせを考えて行う必要があります。また、各種の税務対策を実行するに当たっては、税理士などの専門家に相談して実行する必要があります。
3 事業年度当初から行う税務対策
1)役員報酬の改定
事業年度初めに引き続き業績好調が見込まれる場合は、役員報酬の改定を行います。その額は業績などから検討します。なお、事業年度開始からの3カ月以内に改定しなければなりません。留意点は次の通りです。
- 役員報酬の総額については定款に定めのない場合は株主総会(株式会社以外は、社員総会)の決議事項であり、各役員の報酬額は取締役会および監査役会の決議事項であるため、必ず株主総会・取締役会および監査役会を開催し、その承認を受け議事録を作成します。なお、取締役会非設置会社においては株主総会で全てを決議します。
- 職務の内容、収益状況および使用人に対する給与の状況、同業同規模の他社の支給状況などと照らして、その役員の職務に対する対価として不当に高額でないかを確認します。
2)事前確定届出給与の届出
事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する給与で、次に定める届出期限までに納税地の所轄税務署長に、事前確定届出給与に関する定めの内容の届出をします。
原則として次の1または2のうち、いずれか早い日が届出期限です。
- 株主総会等の決議により、その定めをした場合におけるその決議をした日から1カ月を経過する日
- その事業年度開始の日から4カ月を経過する日
3)中小企業倒産防止共済制度への加入
中小企業基盤整備機構の「(中小企業倒産防止共済制度)経営セーフティ共済」に基づき納付する掛け金は、全額損金算入することができます。
中小企業倒産防止共済制度とは、取引先の倒産の影響を受けて中小企業者が倒産する事態(連鎖倒産)、または倒産に至らないまでも、著しい経営難に陥る事態の発生を防止するため、中小企業者の拠出による共済制度で、中小企業の経営の安定に寄与することを目的としています。
中小企業倒産防止共済制度の諸条件は次の通りです。
4)中小企業退職金共済制度(中退共)への加入
勤労者退職金共済機構の中小企業退職金共済制度へ納付する掛け金は、全額損金の額に算入されます。
中小企業退職金共済制度は事業主が機構と退職金共済契約を結び、毎月の掛け金を最寄りの金融機関に納付し、従業員が退職したときその従業員に機構から退職金が直接支払われる制度です。単独では退職金制度を持つことが困難な中小企業に、事業主の相互共済と国の援助によって退職金制度を設け、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と雇用の安定を図ることを目的としています。
中小企業退職金共済制度の諸条件は次の通りです。
5)役員退職金の支払い
高齢の役員などがいれば、退職を検討します。留意点は次の通りです。なお、役員退職金の算式の例としては「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率(規定に準ずる)」といったケースなどが見られます。
- 役員退職金は原則として株主総会で決議された日の属する事業年度で損金経理をします。
- 同業同規模の他社と比較して不当に高額でないようにします。
- その役員の業務従事期間や退職の事情に照らして不当に高額でないようにします。
また、実際に退職しない場合の分掌変更による退職金も検討できます。
4 事業年度の中途で行う税務対策(修繕・修理の実施)
1)資本的支出の範囲
古くなった建物、機械、車両などの修繕・修理を行います。なお、資本的支出に該当するか否かという点には注意が必要です。
税務上の資本的支出に該当するものとして、次のような例が明らかにされています。
- 【法人税法基本通達7-8-1】
法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すことになると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。
- 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額
- 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
- 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額
(注)建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。
この通達は、資本的支出の基本的な考え方を明らかにしているもので、リフォームなどが、「建物の価値を高めているか否か」「建物の耐久性を増加させるかどうか」で、資本的支出または修繕費に該当するかどうかを示しています。
2)資本的支出と修繕費の区分の特例
実務上、資本的支出と修繕費の区分は大変困難な問題です。そこで、税務上において、その区分の特例として次の取り扱いが認められています。なお、この方法は、法人が継続的に一種の簡便法を適用することを認めたものですが、あらかじめ文書により所轄の税務署長に届け出る必要はありません。
- 【法人税法基本通達7-8-5】
一つの修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額(法人税法基本通達7-8-3「少額又は周期の短い費用の損金算入」、法人税法基本通達7-8-4「形式基準による修繕費の判定」の適用を受けるものを除く)がある場合において、法人が、継続してその金額の30%相当額とその修理、改良等をした固定資産の前期末における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この経理を認める。
3)災害等の場合の資本的支出と修繕費の区分の特例
災害等の場合においては、特別な手当てが必要ですが、これについて税務上次の特例を認めています。
- 【法人税法基本通達7-8-6(3)】
被災資産について支出した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでないものがある場合において、法人が、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この経理を認める。
この取り扱いは、資本的支出と修繕費の区分について特例を認めたものですが、災害等の場合には、被災した建物などへの支出額に関して、資本的支出であるか修繕費であるかの区分が困難な場合が多いことから、この特例が設けられ、処理の簡便化を図っています。
なお、災害等の場合における修繕については、災害損失特別勘定など、別途、一定の経理処理が認められています。そのため、災害時の修繕費の取り扱いについては注意が必要です。
4)耐用年数を経過した建物について行った修理、改良など
耐用年数を経過した減価償却資産につき、修理、改良などを行った場合の税務上の取り扱いは次の通りです。
- 【法人税法基本通達7-8-9】
耐用年数を経過した減価償却資産について修理、改良等をした場合であっても、その修理、改良等のために支出した費用の額に係る資本的支出と修繕費の区分については、一般の例によりその判定を行うことに留意する。
5)他人の建物に対する造作など
他人から賃借している建物に対して造作などを行った場合においては、原則として、資本的支出に該当し、その内部造作を1つの資産として合理的に見積もった耐用年数により償却します。
ただし、当該建物について賃貸期間の定めがあるもの(賃借期間の更新のできないものに限る)で、かつ、有益費の請求または買取請求ができないものについては、当該賃借期間を耐用年数として償却することができます(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3)。
5 事業年度末に行う税務対策
1)ボーナスの支給
業績が好調な会社の場合、社員の功績に応じて決算賞与を支給します。留意点は次の通りです。また、未払経理により賞与を決算に計上して経費とします(一定の要件あり(注))。
- 社員に対する賞与であれば、年度末までに支給額が確定していれば問題になりませんが、役員に対するものは損金になりません。
- 使用人兼務役員に支給する場合は、他の使用人等と同時期に支給し、かつ損金経理した使用人分相当額のみが損金となり、それを超える部分は損金となりません。
(注)一定の要件とは、「支給額を各人別に同時期に支給を受けるすべての使用人に対し、期末日までに通知し、その通知をした日の属する事業年度において損金経理をした上で、翌期首から1カ月以内に通知通り支給すること」です。
2)未払費用の検討
社会保険料、電話料、電気料、給与のうち、締め日から期末日までの期間分(役員報酬は不可)等の未払費用の計上漏れがないかチェックします。留意点は次の通りです。
- 事業年度末までに債務が成立していること。
- 債務に基づいた具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
- その支払うべき金額が明らかであること。
3)その他の税務対策
その他の税務対策として検討できるものとしては次のようなものがあります。
- 生命保倹(経営者保険)の加入(注)。
- 固定資産の売却・除却。
- 消耗品の購入(貯蔵品として資産計上するものを除く)。
- 不良債権の処理(損失処理・引当金計上など)。
(注)支払額全額が損金計上できるとは限りません。また、固定資産を売却した時は、利益が生じる場合があるので注意が必要です。
6 決算時に行う税務対策
1)棚卸資産の評価損計上
法人税法上、資産の評価損の計上は原則認められていません(法人税法第33条第1項)。しかし、棚卸資産については次のような場合および法的整理に限り評価損の計上が認められています(法人税法施行令第68条第1項第1号)。
- 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
- 当該資産が著しく陳腐化したこと。
- 上記に準ずる特別の事実。
例えば、身近で分かりやすい例を挙げると、売れ残りの季節商品で通常の価額では今後販売できないことが明らかであるものや、新製品が発表されたことで流行遅れになるため、今後通常の方法で販売できなくなった場合も当てはまります。
つまりは、いろいろな要因はあるものの、著しく価値が減少して、今後その価格が回復しない状態や、通常の価額で販売できないということが明らかであれば、評価損として計上できるのです。ただし、単に時価や物価変動があった場合や、過剰生産によって価額が低下した場合には、計上することができません。
最後に、評価損を計上する場合、「著しく価値が減少して、通常の方法で販売できなかった」旨を、税務署から問われても大丈夫なように証拠資料をそろえておくことです。例えば、バーゲンセールの広告などを保管しておくとよいでしょう。
2)特別償却や税額控除の検討
経営改善設備を取得した場合の特別償却または税額控除、特定経営力向上設備等を取得した場合の即時償却または税額控除、雇用者給与等支給額が増額した場合の特別控除などの制度があります。これらの制度の適用を受けることができるかどうかについては、顧問税理士など専門家に確認するとよいでしょう。
以上(2020年1月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
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