書いてあること
- 主な読者:適法で自社に合った法人税対策をしたい経営者
- 課題:法人税対策といっても、どのような方法があるのか分からない
- 解決策:法人税対策として「所得の平準化」と「税制上の優遇・制限」を知る
1 2つの性質に分けられる法人税対策
利益が増えると、法人税対策への関心度は高まります。ただ
目先の納税額を少なくすることを考えても、長期的にはあまり意味がないものであったり、無駄に資金の支出を増やしているものであったりする
ことがあります。法人税対策は、
- 所得の平準化によるもの
- 税制上の優遇・制限によるもの
ごとに大別されます。それぞれ会社の資金に与える影響や効果や性質を考えた上で、自社に合った対策を講じることが大切です。
この記事では、法人税対策の考え方を紹介します。なお、より具体的に法人税対策を検討したい方は、以下のコンテンツをご参照ください。
2 ひと目で分かる多様な法人税対策
法人税対策の概略をまとめると次のようになります。
1)所得の平準化によるもの
「今年度の税金を少なくする(所得の平準化によるもの)」ということであれば、
- 費用の前倒し計上(さらに資金の支出を伴うものと、伴わないものに細分化)
- 収益の繰延処理
- 資産の評価損の計上
が有効です。これらは今年度の税金を少なくしますが、翌年度以降に反動が出てきます。また、法人税は毎年平均的に所得を計上したほうが、総額の税額は低くなる(詳細は後述)ので、こうした点も考えながら節税対策を検討します。
1.費用の前倒し計上
費用の前倒し計上は資金の支出を伴うものと、伴わないものとに区分されます。
資金の支出を伴うものは、
- 決算賞与の支給、あるいは未払い計上
- 消耗品や固定資産を利用した費用の創出
に区分されます。
また、資金の支出を伴わないものは、
- 優遇税制の利用
- 未払い計上が可能な費用などの確認
に区分されます。
2.収益の繰延べと資産の評価損
収益の繰延べは今年度に入金があったものの、翌年度以降の収益として計上する繰延処理を行うもので、前受収益の計上と、一定の要件を満たす場合の圧縮記帳(一定の方法により得た収益と同じ金額を取得金額から控除するなどして、課税を繰り延べる制度)とがあります。
また、その他に資産の評価損があります。これは年度末時点で保有している資産の評価損(帳簿価額と時価の差額)を認識するものです。
2)税制上の優遇・制限によるもの
「税金の額を永久に少なくする(税制上の優遇・制限によるもの)」ということであれば、
- 税額控除を利用する
- 損金性を否認される費用を減らす
- 特別課税の適用を受けないようにする
- 欠損金繰越控除の期間を有効に活用する
という4つに区分することができます。これらの節税対策は会社に資金の負担を掛けません。一方、前述した資金の支出を伴う法人税対策は、一時的にその期の節税額以上に資金繰りを悪化させるので要注意です。
3 所得の平準化がなぜ法人税対策として効果があるのか
個人の所得税は累進課税(所得が増えるほど税率が大きくなる課税制度)であるため、所得を平準化したほうが税金の総額が少なくなります。一方、法人は一定税率であるため、所得の平準化による節税効果はないと思われがちです。
しかし、法人も資本金が1億円以下であれば、中小法人(資本金の額が5億円以上の大法人の100%子会社を除く)の軽減税率により、2段階の累進課税となっているので、複数年度の所得を累進させる手前の段階でとどめておくことができれば、節税効果が生じます。また、特定同族会社(資本金1億円以下を除く)では、留保金課税が追加発生するので、留保金課税が発生する手前で平準化できれば節税効果が生じます。
4 法人税対策の基本的な進め方
上記で説明した分類に基づいて「法人税対策」を考えた場合、まず行うべきは「税制上の優遇・制限によるもの」です。それらは、適用を受ける、または適用を受けないようにすることで、必ず効果が出ます。
それらを検討して改善の余地がなければ、「所得の平準化によるもの」について考えます。これは、現在手を着けなくても後日にその分の効果が出るものです。後日の節税効果より、現在手を着けたことによる節税効果のほうが大きい場合に検討します。
本稿で紹介したことは当たり前のことともいえますが、これができていないために、払わないで済む余分な税金を払っている場合が多いのです。まず、当たり前のことがきちんとできているかどうかを確かめることから始めましょう。
以上(2024年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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