書いてあること
- 主な読者:消費税の基本を知りたい経営者や経理担当者
- 課題:各種届出が遅れると大きな損をする恐れがある。しかも、届出の提出期限は早い
- 解決策:基本的には、適用を受けたい課税期間の前課税期間末日までに提出期限が来るものが多いので、計画時など早い段階での判断が必要になる
1 忘れていたでは済まされない“消費税の届出書”
消費税は、
届出をしなければ適用されない制度が多い税金
といえます。当然、それぞれの届出には提出期限があり、1日でも遅れてしまうと大きな損につながる恐れがあります。厄介なのは提出期限です。提出期限は、
適用を受けたい課税期間の前課税期間の末日(例えば、2023年4月1日以降に受けたい3月決算の会社であれば、2022年3月31日)に設定
されているものが多いので、顧問税理士に早めに知らせて計画的に進めないと間に合わなくなります。
そこで、この記事では、消費税の実務の中でも大きな損につながりやすい届出として、「課税事業者選択届出書」「簡易課税制度選択届出書」「課税期間特例選択・変更届出書」を紹介します。
2 課税事業者選択届出書
1)免税事業者が対象
消費税の納付税額は、次のように計算します。
納付税額=課税売上に係る消費税額(預かった消費税額)-課税仕入に係る消費税額(支払った消費税額)
預かった消費税額よりも支払った消費税額が大きい場合、その差額は還付を受けることができます。しかし、免税事業者は還付申告ができません。免税事業者は、
確定申告する義務がない代わりに、還付申告する権利もない
のです。免税事業者が還付申告したいなら、届出書を提出して課税事業者を選択しなければなりません。
なお、免税事業者になるには複数の要件を満たす必要があります。詳細は、次の記事をご参照ください。
2)課税事業者の選択
免税事業者が、課税事業者選択届出書を税務署長に提出した場合、
提出日の属する課税期間(以下「提出課税期間」)の翌課税期間以後
に国内で行う課税資産の譲渡等については、納税義務は免除されなくなります。なお、事業を開始した課税期間などである場合は提出した課税期間から適用を受けます。
注意が必要なのは、その届出書の効力は翌課税期間から生じるので、
当課税期間から課税事業者となって還付申告をする場合は、前課税期間末までに届出書を提出しなければならない
ことです。免税事業者が設備投資等によって、課税売上を超える多額の課税仕入れが生じた場合、還付を受けることができるのにもかかわらず、届出を忘れたことで還付を受けられないという事態に陥ってしまいます。
3)課税事業者の選択不適用の届出
課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった事業者が、免税事業者に戻りたいとき(または事業を廃止したとき)は、課税事業者選択不適用届出書を提出します。ただし、課税事業者を選択すると、最低2年間は継続適用してからでないと免税事業者には戻れません。従って、免税事業者が課税事業者を選択する場合、2年間のシミュレーションをして判断することになります。
また、課税事業者選択不適用届出書の効力も、提出課税期間の翌課税期間からです。従って、当課税期間から免税事業者に戻りたい場合、前課税期間の末日までに届出書を提出する必要があります。なお、課税事業者を選択している期間中に、高額特定資産(1000万円以上の一定の資産)の課税仕入れがあった場合、免税事業者の選択には一定の制限が入ります。
3 簡易課税制度選択届出書
1)課税売上高が5000万円以下の事業者が適用できる簡易課税制度
基準期間(簡単にいうと2年前)における課税売上高が5000万円以下の中小企業には、簡単に消費税の納付税額を計算する簡易課税方式が認められています(適用の届出をした者に限る)。この場合、納付税額を次のように計算します。
納付税額=課税売上に係る消費税額-課税売上に係る消費税額×みなし仕入率
みなし仕入率は、業種ごとに40%~90%となります。課税売上に係る消費税額のみを集計すればよいので、実務上の負担が少なく済みます。
2)簡易課税制度の選択
簡易課税制度の適用を受ける場合、簡易課税制度選択届出書を税務署長に提出しなければなりません。この届出書の効力も、翌課税期間から生じます。従って、当課税期間から簡易課税制度で計算したい場合は、前課税期間末までに届出書の提出が必要です。
なお、簡易課税制度を検討する際は、仕入項目(費用の支払い、資産の取得など)のうち、課税仕入れに該当するものを集計し、原則課税と簡易課税のどちらが有利なのかを判断しましょう。例えば、簡易課税制度では仕入項目は考慮しません。そのため、その課税期間に多額の課税仕入れ等(設備投資など)があり、原則課税なら還付を受けられるケースでも、簡易課税では還付を受けられないので注意が必要です。
3)簡易課税制度の選択不適用の届出
簡易課税制度選択届出書を提出した事業者は、簡易課税制度で計算することをやめるとき(または事業を廃止したとき)は、簡易課税制度選択不適用届出書を提出します。ただし、簡易課税制度の適用を受けると、原則として、最低2年間は継続適用してからでないと原則課税には戻れません。
また、簡易課税制度選択不適用届出書の効力も、提出課税期間の翌課税期間からです。当課税期間から原則課税に戻りたいという場合は、前課税期間の末日までに届出書を提出する必要があります。
4 課税期間特例選択・変更届出書
1)輸出業者など、消費税の還付が経常的に発生する事業者が対象
消費税の課税期間の原則は、
- 個人事業者:暦年(1月1日から12月31日までの期間)
- 法人:事業年度
です。しかし、経常的に還付を受ける事業者のために、選択によって課税期間を短縮できる特例制度があります。例えば、輸出業者は売上げに係る消費税額よりも仕入れに係る消費税額のほうが大きいため、常に還付を受けることになります。そこで、特例制度を利用することで、より早く還付を受けられます。
この課税期間の短縮制度には、
3月ごとの期間に短縮する場合と、1月ごとの期間に短縮する場合
があります。
「3月ごとの期間に短縮する場合」の短縮課税期間は、
- 個人事業者は、「1月から3月まで」「4月から6月まで」「7月から9月まで」「10月から12月まで」の期間
- 法人は、その事業年度開始の日から3カ月ごとに区分した期間(最後に3カ月未満の期間を生じたときは、その3カ月未満の期間を含む)
となります。
「1月ごとの期間に短縮する場合」の短縮課税期間は、
- 個人事業者は、1月から12月までの各期間
- 法人は、その事業年度開始の日から1カ月ごとに区分した期間
となります。
2)短縮課税期間の選択
課税期間を短縮する場合、課税期間特例選択・変更届出書を税務署長に提出します。この届出書の効力も、翌課税期間から生じます。
事業年度が4月1日から翌年3月31日までの法人が7月15日に届出書を提出したとします。3カ月の短縮を適用する場合、7月から9月までの期間が提出期間となり、翌期間である10月から12月までの期間から短縮課税期間が始まります。この場合、4月から9月までの期間も1つの課税期間とみなされます。
また、1カ月の短縮課税期間を適用する場合、7月が提出期間となり、翌期間である8月から短縮課税期間が始まることになります。この場合は4月から7月までの期間も1つの課税期間とみなされます。
3)短縮課税期間の選択不適用の届出
課税期間特例選択・変更届出書を提出した事業者が、短縮課税期間の適用をやめようとするとき(または事業を廃止したとき)は、課税期間特例選択不適用届出書を提出します。ただし、短縮課税期間を採用すると、最低2年間は継続適用しないと原則には戻れません。
5 短縮課税期間を利用した還付申告
短縮課税期間の選択は、毎年のように還付が生じる事業者のために設けられた特例ですが、
課税事業者の選択の届出書や簡易課税制度の選択不適用の届出書の提出を忘れた場合などの裏技として利用する
こともできます。
免税事業者が当課税期間に多額の設備投資をした場合、還付申告を行うために、前課税期間末までに「課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。同様に、簡易課税制度を選択している事業者が当課税期間において多額の設備投資をした場合、還付申告を行うために、前課税期間末までに「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。もし、これらの提出を忘れてしまった場合、
短縮課税期間の特例を利用することで、事実上その提出期限を延ばす
ことができます。
例えば、事業年度が4月1日から翌年3月31日の免税事業者が、当課税期間の2月に多額の設備投資をしたとします。当課税期間から課税事業者を選択して還付申告を行おうとする場合、前課税期間の3月末までに課税事業者選択届出書を提出する必要がありますが、これを忘れてしまった場合でも、
当課税期間の1月末までにこれらの届出書を提出すれば還付申告を行う
ことができます。なぜなら、当事業年度の課税期間は、短縮課税期間の特例により、「4月から翌年1月までの期間」、「2月」そして「3月」の3つに区分されます。そして、課税事業者選択届出書の提出課税期間は「4月から翌年1月までの期間」となりますから、この届出書の効力は、翌課税期間である「2月」から生じ、還付申告ができるのです。
以上(2022年9月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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画像:unsplash