書いてあること
- 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
- 課題:目標利益が共有されたけど、これを達成するために必要な売上高が分からない
- 解決策:損益分岐点と同じ考え方。固定費と目標利益の合計を限界利益率で割って計算する
1 質問:必要な売上高を計算できますか?
当期の営業利益は1億円。来期は強気に2億円まで伸ばす計画です!
現在の損益の状況と次期目標利益は次の通りなのですが、この目標利益を達成するために必要な売上高はいくらでしょうか。売上原価は売上高の増減に合わせて変動し、販売管理費は一定とします。
このケースの売上高は、
12億5000万円=(3億円+2億円)/0.4
となります。上の数式の「0.4」は、本ケースの売上総利益率です(40%(1-0.6))。
これが基本的な答えですが、会社の営業戦略によって変わる部分があります。例えば、強気に値上げをする場合もあれば、値下げして販売量を増やすこともあります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。
2 「損益分岐点」という感覚を持つ
「損益分岐点」とは、
売上と費用がトントンの状態
です。損益分岐点は管理会計で用いられる最もポピュラーな指標の1つで、これを知ることで意思決定に明確な根拠を持たせることができます。
さて、損益分岐点を求めるには費用を次のように分けます。
- 変動費:売上高に応じて変動する費用。小売業の場合は支払運賃、支払荷造費など
- 固定費:売上高に関係なく発生する費用。人件費や減価償却費、賃借料など
そして、横軸を販売数量、縦軸を金額(費用、利益、売上高)とした場合、変動費、固定費、利益、売上高の関係は次のようになります。
図表2では変動費の上に固定費を置いているので、固定費ラインが費用の合計(変動費+固定費)になります。売上高ラインと固定費ライン(費用の合計)が交差する点が損益分岐点です。
また、変動費と固定費の上に目標利益を置いています。売上高ラインと目標利益ラインが交差する点が「目標利益達成点」です。必要売上高は次のように算出することができます。なお、「変動費率」は「変動費/売上高」です。
必要売上高=(固定費+目標利益)/(1-変動費率)
さらに分かりやすくすると、「1-変動費率」のことを「限界利益率」といいます。限界利益率を用いると、計算式は次のようにシンプルになります。
必要売上高=(固定費+目標利益)/限界利益率
3 営業戦略のバリエーション
目標利益を達成するための必要売上高の求め方は、損益分岐点の考え方でお分かりいただけたと思います。次は、設定した目標利益をどのように達成するか、つまり営業戦略の問題です。ここでは、次の4つの営業戦略を想定し、それぞれの必要売上高を求めます。
ちなみに、図表3を見て戦略1~4はどのような内容か想像できますか?
それぞれの戦略は、次のようなものです。
- 戦略1:販売単価を10%値上げ
- 戦略2:販売単価を10%値下げ
- 戦略3:販売管理費を1億円増強
- 戦略4:販売管理費を1億円削減
これらは企業がとり得る基本的な営業戦略です。条件次第で結果は変わってきますが、以降では「目標営業利益2億円を達成する」ために必要な売上高と販売数量を検討する際の基本的な考え方を紹介します。
4 戦略1:販売単価を10%値上げ
値上げをすると限界利益率が高くなるので利益が出やすくなりますが、一方で販売数量が減少する恐れがあります。
値上げ戦略は、「価格弾力性が低い商品」に適しています。価格弾力性が低い商品とは、
価格の影響を受けにくい商品です。つまり、販売数量は値上げしてもあまり減少せず、逆に値下げしてもあまり増加しない
ということです。具体的には、食品や日用品などが挙げられます。
ここでは販売単価を10%値上げして限界利益率を上げ、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値上げすることで変動費率は54.5…%(6億円/(10億円×1.1))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。
必要売上高
=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)
=(3億円+2億円)/(1-0.545…)=11億円
この場合、販売数量は現在の100%(11億円/(10億円×1.1))、つまり、現状と同じ販売数量で必要売上高を達成できます。
5 戦略2:販売単価を10%値下げ
値下げをすると限界利益が低くなるので利益が出にくくなりますが、一方で販売数量の増加が見込めます。薄利を上回る多売を実現すれば、目標利益の達成が可能になります。
値下げ戦略は、「価格弾力性が高い商品」に適しています。価格弾力性が高い商品とは、
価格の影響を受けやすい商品です。つまり、販売数量は値上げしたら減少し、逆に値下げすると増加する
ということです。具体的には、家具や家電製品など耐久消費財などが挙げられます。
ここでは販売単価を10%値下げして販売数量を増やし、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値下げすることで変動費率は66.6…%(6億円/(10億円×0.9))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。
必要売上高
=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)
=(3億円+2億円)/(1-0.666…)=15億円
この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の約1.7倍(15億円/(10億円×0.9))にする必要があります。
6 戦略3:販売管理費を1億円増強
販売管理費を1億円増強し、営業担当者を増やしたり、広告を出したりして拡販につなげます。製品のライフサイクルが成長期にある場合、営業力強化による拡販は効果的です。
ここでは固定費(販売管理費)を1億円増やして4億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。
必要売上高
=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)
=(4億円+2億円)/(1-0.6)=15億円
この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の1.5倍(15億円/10億円)にする必要があります。
7 戦略4:販売管理費を1億円削減
販売管理費を1億円削減し、利益を上げやすくします。とはいえ、営業力が極端に低下してはいけないので、基本は不採算店の閉鎖、物流の効率化、在庫の圧縮などの効率化となります。製品のライフサイクルが成熟期にある場合、固定費の削減は効果的です。
ここでは固定費(販売管理費)を1億円削減して2億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。
必要売上高
=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)
=(2億円+2億円)/(1-0.6)=10億円
この場合、現状と同じ必要売上高と必要販売数量で目標利益を達成できます。ただし、売上高が減少局面にある場合、売上高を維持することは容易ではありません。
8 法人税等を考慮した場合
ここまで紹介してきた4つの営業戦略による売上高、売上原価(変動費)、販売管理費(固定費)、営業利益は次の通りです。
また、目標利益が税引後利益の場合、法人税等に留意が必要です。例えば、固定費3億円、変動費率60%、法人実効税率30%とした場合、目標税引後利益2億円を達成する必要売上高は次の通りです。
必要売上高
={固定費+目標税引後利益/(1-法人実効税率)}/(1-変動費率)
={3億円+2億円/(1-0.3)}/(1-0.6)≒14億6429万円
目標とする税引後利益から必要売上高を算出する場合、税引後利益に法人税等を加味して、税引前利益を求めてから計算しましょう。
以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
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