書いてあること
- 主な読者:決算月、決算作業月に決算が間に合わない理由が生じた会社の経営者
- 課題:何も申請せずに申告期限を過ぎると、加算税や延滞税を徴収されてしまう
- 解決策:大きな災害だけでなく、会社の火災など個別事情であっても申請書を提出することで申告期限を延長することができる
1 税金の申告期限は延長できる
法人税や消費税は、申告期限までに必要な申告書を税務署に提出しなければなりません。これを怠ると、
本来支払うべき税金の他、加算税や延滞税といった罰金のようなものが徴収
されます。会社としては避けたい事態ですが、「やむを得ない事情」もありますよね。
実際、経理担当者が新型コロナウイルス感染症で休職してしまったような場合は、申告期限の延長が認められることがあるので、基本を押さえておきましょう。ポイントは、
- 申告期限の延長は税金ごとに取り扱いが異なること
- 申告期限は自動的に延長される場合と一定の申請書を税務署に提出する場合があること
です。以降で詳しく確認していきましょう。
2 法人税と消費税の申告期限等の延長
法人税と消費税の申告期限は、原則として、
事業年度終了の日の翌日から2カ月以内
です。つまり、3月末決算なら5月31日までに申告書を提出しなければなりません。しかし、次の場合は申告期限が延長されることがあります。
- 被災地が広範囲にわたる災害などやむを得ない事情が発生した場合
- 会社が火災にあうなど、申告・納付が申告期限内にできない事情が発生した場合
- 定款で定められている定時株主総会が、申告期限後に行われる場合
1)被災地が広範囲にわたる災害などやむを得ない事情が発生した場合
東日本大震災のような被災地が広範囲にわたる災害が発生した場合、国税庁が申告や納付ができないと判断します。延長が認められる地域や対象者は国税局が決定し、官報に掲載されたり、国税庁ホームページで公表されたりします。
最近では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、2020年3月15日に申告期限を迎えた申告所得税(いわゆる所得税の確定申告期限)が一律4月15日に延長された例がありました。
なお、延長するか否かは国税庁が判断して公表するので、会社が自ら申請手続きをする必要はありません。また、この制度では、
申告期限だけでなく、税金の納付期限も併せて延長
されます。
2)会社が火災にあうなど、申告・納付が申告期限内にできない事情が発生した場合
火災によって帳簿書類が消滅した場合など、会社の個別事情を加味して延長される制度です。最近では、次のようなケースで、この制度を利用して延長が認められたことがありました。
- 経理担当やその周辺に、新型コロナウイルス感染症の感染者や濃厚接触者が多数出たことで部署を閉鎖したケース
- 顧問税理士が新型コロナウイルスに感染して会計事務所が長期間閉鎖したケース
なお、国(税務署)は会社の個別事情は分からないので、この延長を受けるためには、会社が自ら申請手続きをする必要があります。申請期限は
やむを得ない理由がやんだ後、相当の期間内
とされていますが、明確な期日は定められていません。なお、原則的な申告期限が過ぎた後でも申請できます。ただし、申請したからといって必ず認められるわけではないため、申請にあたっては事前に税務署へ相談するといったことも必要になるでしょう。
なお、この制度による延長についても、
申告期限だけでなく、税金の納付期限も併せて延長
されます。
3)定款で定められている定時株主総会が、申告期限後に行われる場合
定款に「定時株主総会を事業年度終了後、3カ月以内に行う」と定めている場合、定時株主総会を実施するまで決算の数値が確定しないため、事業年度が終了してから2カ月以内(原則的な申告期限)に申告できないケースがあります。
このような会社は、
延長の適用を受けようとする事業年度終了の日までに申請書を提出する
ことで申告期限の延長が認められます。なお、法人税と消費税では申請用紙が別のため、法人税用と消費税用の申請を別々に行う必要があるので注意しましょう。
この制度による延長は、
申告期限は延長されるが、納付期限は延長されない
ので、税金そのものは概算で計算し、原則通りの期限までに納付(見込納付)しておく必要があります。なぜなら、納税が遅れると、
利子税という利息のようなものが課される
ことになるからです。
3 源泉所得税の納期限の延長
会社が、従業員に支払う給与などから源泉徴収を行った場合、原則として、給与を支払った月の翌月10日までに納付しなければいけません。つまり、4月25日に給料を支払い、源泉徴収を行った場合には、5月10日までに源泉徴収した金額を納付しなければなりません。しかし、
- 被災地が広範囲にわたる災害などやむを得ない事情が発生した場合
- 会社が火災にあうなど申告・納付が申告期限内にできない事情が発生した場合
- 給与の支給人員が常時10人未満の会社の場合
は納期限が延長されます。なお、1.および2.の内容と手続きは法人税や消費税と同じなので、ここでは「3.給与の支給人員が常時10人未満の会社の場合」について解説します。
規模が小さい会社(給与の支給人員が常時10人未満の会社)については、
源泉徴収した所得税を、半年分まとめて納付してよい
という特例があり、これを「納期の特例」といいます。この特例を受けた場合、納期限は年に2回、7月10日と翌年1月20日です。
この特例を受けるためには、所定の届出書を提出する必要がありますが、提出期限は特に定められていません。原則として、届出書を提出した月の翌月徴収分から適用となるので、4月に届出書を提出した場合、納付済みかつ特例適用前の1~4月分を除く、5・6月分(2カ月分)を7月10日までに納付することになります。
以上(2023年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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