起業して間もない企業やこれから起業を志す方には、「お金」の不安がつきものです。

設備費、プロダクト開発費に、人件費など……。
それらをまかなうための資金調達について考えた際、エンジェル投資家、VC・CVC、株式投資型のクラウドファンディングなど、思いつく選択肢はさまざまあります。

しかし、銀行融資に関しては「実績がある企業でないと難しいのでは」とはじめから諦めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、さまざまな領域のスタートアップ企業で、融資サポートを行ってきた株式会社INQ 代表取締役CEO・若林哲平氏にお話を伺いました。さまざまな選択肢がある中で、銀行融資を受けるメリット、融資を受けるためのポイントをご説明いただきます。

若林さん、貴重な学びのシェアを愛りがとうございます!(愛+ありがとう)

1 「スタートアップ」とは

スタートアップの銀行融資について論じる前に、まず本記事における「スタートアップ」がどのような企業を指すのかを確認しておきます。

スタートアップとは、本来、テクノロジーなどを活用し、新たな市場を切り拓く新興企業を指します。
新たな市場をスピーディに切り拓くため、大きな額の資金調達をし、一気に成長していく戦略を取ることが多いため、大きな可能性と共にリスクもはらんでいます。

そうしたリスクの面から考えると、銀行などの金融機関にとっては、スタートアップは融資の可否の判断が難しい存在と言えるでしょう。

しかし、昨今では新たにビジネスを立ち上げる創業間もない企業全体を指してスタートアップと呼ぶことが増えてきています。
当然、業種やビジネスモデルは幅広く、リスクの程度や、金融機関の評価も企業によってさまざまです。

この記事では、特別な断りなくスタートアップと表記する場合、後者の、創業間もない企業全体を意味するものとしてご理解ください。

2 なぜ、スタートアップが銀行融資を受けるべきなのか

1)日本は今、国をあげてスタートアップを支援している

なぜ、スタートアップが銀行融資を視野に入れるべきなのか?
その最も大きな理由として、日本が国策として起業支援に注力していることが挙げられます。

日本は欧米と比較して起業・開業率が格段に低く、政府としては起業数を底上げしてきたいという意図があります。そのため、公的融資制度の充実に取り組んでいる他、民間の銀行であっても創業間もない企業に融資できるような仕組みづくりに注力しているのです。

具体的に、スタートアップが活用しやすい融資には、以下のようなものがあります。

1.日本政策金融公庫の新創業融資制度

政府系金融機関である日本政策金融公庫では、新たに事業を始める方を対象とした融資制度を設けています。
支店で1000万円まで決裁でき、原則的に無担保・無保証。代表者個人に責任が及ばない形で融資を受けられることが大きな特徴です。

万が一事業が立ち行かなくなった場合にも代表者個人が連帯保証債務を負わないため、生活を守りながらチャレンジができる上、失敗してしまっても再チャレンジしやすくなります。

2.民間金融機関の信用保証協会保証付融資

りそな銀行のような都市銀行、地方銀行、信用金庫などの民間金融機関でも、創業支援融資を受けることができます。

ただし、民間金融機関では基本的に預金者から預かったお金を融資に回すことになるため、貸し倒れが起こり、預金者の大事なお金を損なうようなことがあってはなりません。

そのような事態を防ぐために存在しているのが、都道府県ごとに設けられている信用保証協会です。

民間金融機関が企業へ融資を行い、万が一貸し倒れが発生した場合には、信用保証協会がそれを保証します。

これにより、民間金融機関は比較的リスクの高い創業間もない会社への融資を積極的に行うことができるのです。

日本政策金融公庫と、信用保証協会という2つの公的制度があることにより、スタートアップであっても銀行融資を受けることができる土台が整っています。

2)銀行融資は、株式の希薄化を抑えられる資金調達方法

融資による資金調達は、株式のシェアを渡すことがないというのは大きなメリットと言えます。

スタートアップがエグジットするまでに、3回、4回、5回とエクイティファイナンスを行っていくと、その度に株式を外部に放出していくことになります。

その中の1回をデットファイナンスに置き換えることができれば、それだけでも株式の放出を抑えることができ、株式の希薄化を抑えることができるのです。

3)資本性ローンという選択肢

「もちろん、融資のメリットはわかる。でも、創業間もない時期に、売上の中から返済原資を捻出していくのは、難しそう……。」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

そんな方に知っていただきたいのが、資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)です。
 資本性ローンとは、日本政策金融公庫の中で設けられた制度です。

最も大きな特徴は、元金の返済期限が月々ではなく期限一括返済となること。月々の返済は金利のみでよいとされています。

また、その他にも、金融検査上は資本とみなされる、経営状況によって金利が変動する(赤字である場合には金利が低く、一定水準以上の場合は高くなる)など、通常の融資とは大きく性質の異なる制度です。

元々は、シリーズA期以降のスタートアップを中心に融資実行されていた制度であり、審査要件が厳しいというデメリットがありました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたスタートアップの支援を目的とし、新型コロナ対策資本性劣後ローン(新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付)がつくられました。
これは従来の資本性ローンよりも要件が緩和され、適用範囲が拡大しています。

4)創業支援制度は、使わなくてはもったいない

ここまで見てきたように、日本では現在、起業率を高めるための創業支援制度が充実してきています。

2010年代前半まではエクイティが主流という風潮があったものの、昨今の制度充実を受けて、多くのスタートアップが融資という選択肢を活用するようになってきたというのが現状です。

一般的には、起業後2年以内に、創業融資もしくは保証協会保証付の融資を受ける傾向にあります。

3 スタートアップが銀行融資を受けるには

ここからは、実際にスタートアップが融資を受けるためのステップをご説明していきます。

1)金融機関の視点を知り、準備する

まずは金融機関がどのような視点でスタートアップを評価しているのかを理解し、その上で準備を進めていきましょう。

1.金融機関の視点

・投資家は未来を見るが、金融機関は過去しか見ない

具体的な評価ポイントについては後述しますが、金融機関が評価するのは過去の実績です。スタートアップが魅力的な事業計画を有していて、その評価が株価にあらわれていたとしても、銀行の評価はイコールではありません。

・VCにはポジティブなプランを、金融機関にはネガティブなプランを見せる

VCと金融機関に同じ資料を提出するケースが見受けられますが、これはあまりおすすめできません。
金融機関に提出する計画は、堅実である方がよいため、VCに向けたものとは別で用意するのがよいでしょう。

2.具体的な評価ポイント

金融機関の具体的な評価ポイントは以下の通りです。

  • 自己資金
    (起業に向けて、代表者がどれだけ準備をしてきたか)
  • 代表者の経験・属性
    (これから立ち上げようとしている事業を実現できるだけの知識・技術などを、どのような職歴の中で培ってきたのか)
  • 事業計画
    (堅実で実現可能な事業計画であるか)

1点目の自己資金については、借りたい金額の1/2〜1/3程度が用意されていると評価が高いと言われています。

2点目の代表者の経験・属性には、個人の信用情報なども含まれます。信用情報から「お金使いが荒い」と判断されれば、融資対象としての信用度に影響してしまう可能性があります。

また、「若くてビジネス経験が乏しい」というケースもあるでしょう。そうした場合、他社から業務を受託した経験などを先につくり、記載することも可能です。

例えば、「大学でAIの研究をしていて、これからAIのビジネスを立ち上げる」といったケースでは、AIの研究実績に加え、他社の事業の受託開発経験などをいくつか積み、それを実績として提出する方法もあります。

そして、最後の事業計画ですが、個人的な印象ではあるものの、金融機関では「小さく生んで、大きく育てる」ビジネスを好む傾向にあると感じます。

はじめは赤字でも資金を注ぎ込んで、大きな成長を狙うような計画よりは、売上の立ち上がりが早い堅実な計画を提出したほうが融資は通りやすいと思います。

2)適切な融資希望金額を設定する

融資金額を決めるファクターはいくつかありますが、以下のような考え方が一般的とされています。

  • 自己資金の2〜3倍
  • 月商の2〜3倍+設備資金 ※売上が立ち始めている場合
  • 前年度の売上の範囲内

また、活用する制度によっては上限が決まっているケースもあります。
制度上の上限と、融資を申し込む側の状況を鑑みて、低いほうで決まることが多いです。

利子も制度によって固定が多く、プロパー融資の場合は企業の財務状況などで判断されます。

3)金融機関と交渉する

初めて金融機関に融資の相談へ行く時には、緊張してしまうものですが、以下のようなことを意識しながら、交渉を進めてみてください。

1.ポジティブな材料を積み上げ、余すことなく見てもらう

金融機関とのコミュニケーションにおいて「これさえ見せれば大丈夫」というような裏技は、残念ながらありません。
スタートアップで実績が少ない状況でも、ポジティブな材料を積み上げて、それを見てもらうことが大切です。

ポジティブな材料としては、以下のような例が挙げられます。

  • VCからの出資を受けている
    第三者の評価を受けていることの証明になりますし、資金があるので事業計画の推進性が高まるとみなされます
  • 補助金を受けることが決まっている
    事業に対する補助金が決まっていれば、補助金をある意味担保としてみなしてもらい、融資を受けやすくなる傾向があります
  • 大口の契約が既に決まっている
    売上の見込みがあれば、当然ながら融資は受けやすくなります

銀行融資を受ける上では、これらのポジティブな材料を、しかるべきタイミングで見せることが重要です。

2.専門用語を使いすぎず、平易な言葉でコミュニケーションを

基本的に金融機関は幅広い業種とやりとりをしており、担当者が必ずしも自社の事業領域に詳しいとは限りません。
打ち合わせの際には、専門用語を使いすぎず、平易な言葉を用いたほうがよいでしょう。

4)審査〜着金までのスケジュール

金融機関にもよりますが、例えば日本政策金融公庫の場合は、申し込みから2〜3週間で面談・審査が終わり、1週間程度で着金となります。申し込みからお金が入るまでは1カ月程度を見込めばよいでしょう。

1度取引をした金融機関であれば、初めのプロセスは省略されることが多いので、2回目以降の融資では2〜3週間程度で着金となります。

また、保証協会保証付融資などの場合は、関わる人が増え、それぞれで審査・手続きなどが発生するため、着金までの期間は長くなります。
長くなった場合でも、概ね1〜3カ月程度で着金します。

4 金融機関と付き合う上で、押さえておきたいポイント

1)複数の金融機関とお付き合いするのがおすすめ

初めは誰もが不慣れな金融機関とのやりとりですが、複数の機関としっかり付き合うことで、コミュニケーションのコツが掴め、条件交渉がしやすくなっていきます。

また、金融機関の場合は担当者との相性が大切ですが、金融機関では3年に1度程度のペースで異動があります。
「相性の良かった担当者が急に異動してしまい、融資の相談をしにくくなってしまった」という事態を避けるため、リスクヘッジの意味でも複数の金融機関とやりとりしておくことが重要です。

2)継続的に情報開示を行い、信頼関係を築く

継続的にやりとりをするためには、四半期に一度程度、経営状況を説明するのがおすすめです。金融機関としては、取引実績のある既存顧客を好みますし、情報開示をきちんとしてくれる企業のほうが付き合いやすいと考えるからです。

「赤字だったから報告しづらい……」ということもあるかもしれませんが、例えば、「開発費や広告費など、先行投資的なものを除けば黒字化できている」「ある特定の部門は黒字化できている」などしっかりと説明を添えて開示できれば、赤字であっても融資を受けられることがあります。

3)企業の成長フェーズに合わせ、適切な金融機関とやりとりする

企業のフェーズによって、付き合う金融機関は信用金庫がよいのか、都市銀行がよいのかなどで迷うことがあるかと思います。

1つの目安ではありますが、保証協会の保証上限が8000万円までとなっていますので、数百万〜8000万円規模であれば、信用金庫・信用組合、地方銀行などでの事例が多く、取り扱いに慣れています。
年商5億円を超えてきた頃から、都市銀行へ相談する企業が増えるようです。

4)金融機関選定に迷ったら、各種専門家を活用する方法も

中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上ある者として、国の認定を受けた認定支援機関(主に税理士や中小企業診断士などの士業)が存在します。
彼らは金融機関とも既にネットワークを構築していますので、これらの専門家にアプローチし、状況に適した金融機関を紹介してもらうこともできます。

5 読者へのメッセージ

最後に、若林さんから読者に向けて、メッセージをいただきました。

スタートアップには、いろいろな経営の方法があると思いますし、それにより、資金調達の方法も変わってきます。
銀行融資は、会社のコントロールをキープした上で資金を調達できる方法としておすすめです。

資金調達に関する情報が溢れているので迷われることもあるかと思いますが、時には自分のコミュニティ以外も視野に入れ、詳しい専門家に相談することもよいかと思います。多くの企業が、ごく限られた制度しか活用できていないというのが現状です。

融資、出資、補助金などさまざまな方法がありますが、しっかりと自社に合ったものを見極め、思い切りチャレンジしていってください。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年1月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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