「社長。ここ3カ月の売上はいくらでしたか?」

この質問に正確に即答できる経営者は、意外と少ないものです。「昨年よりは少ないのではないだろうか」「仕事が忙しいから増えていると思う」などと、大雑把(ざっぱ)な返答しかできないことが珍しくありません。マーケティングや戦略立案に強い経営者でも、会計や数字のことになると苦手意識があるからです。

ところが、それと矛盾するようですが、経営者が抱える不安の大半はお金のことです。お金のことが常に心配なのに、数字については苦手意識が強いために目を背けてしまいがちで、いわゆる「どんぶり勘定」で経営をし、とてもリスキーな状態といえます。

事業活動には多くの要素がありますが、とても重要なのが「お金を回す活動」、つまり財務マネジメントや資金調達です。

1 財務マネジメントの重要性

経営に関する計数感覚とは、経営活動が企業の財務へ与える影響を考えることができて、早めに手を打てる能力だといえます。

「会計や財務は税理士など専門家に任せるもの」と考える人は少なくありません。しかし、税務申告や月次試算表の作成は税理士に依頼するとしても、財務マネジメントは経営者自身が行うべきです。

なぜなら、投資や資金調達など、重要な経営判断は経営者自身が下すからです。例えば、新規投資を行うには、投資を何年で回収するかという観点や採算確保の見通しなど、数字に基づく検討が欠かせません。

投資はスピードが重要なので、経営者は短時間で企業業績や財務に与える影響を判断して、戦略的に意思決定をする必要があります。

また、売掛金の回収よりも買掛金や経費の支払いサイトが短い場合は、売上が伸びれば伸びるほど、資金繰りがタイトになることがあります。その場合は、半年~1年先までの資金繰りを考えて、早めに資金調達をしておくことが重要です。

経営者にとって重要な財務マネジメントは、企業の実態を数字(お金)で把握して経営を改善することであり、経営者が把握すべき重要な数字は、収益構造、資産負債状況、資金繰りの3つです。以降で確認していきましょう。

2 収益構造のチェック

1)業績の振り返り

収益構造分析の第一歩は、売上・利益の推移と経営環境や事業活動の振り返りです。数年前から直近までの売上高を確認して、傾向や背景を分析します。売上が多かった年(月)の要因は何だったのか、などを振り返ります。過去の実績を振り返ることで、今後実行すべきことが見えてきます。

2)部門別収益の分析

次に自社の事業部門(商品・サービス)別の収益状況を分析します。創業後数年経過した企業の大半は、複数の事業や商品・サービスを展開しています。ところが、どの事業(商品・サービス)が、どれくらいの収益になっているのかを、経営者が正確に把握していないのが実態です。

そこで、ぜひ実行していただきたいのは、それぞれの売上、原価、経費を計算して、表を作成することです。経費のうち、複数の事業部門の間に共通していて分けるのが難しいものは度外視すればよいでしょう。

3)原価・経費の分析

最後に、原価や経費の内容のチェックです。これは次の観点で分析していきましょう。

1.原価率や経費(一般管理費)を業界平均値と比較する

一般的な業種であれば、日本政策金融公庫のホームページにある「小企業の経営指標」にデータが掲載されています。

●日本政策金融公庫「小企業の経営指標」
https://www.jfc.go.jp/n/findings/sme_findings2.html

2.経費の中で無駄なものはないかをチェックする

個別の経費を見て、無駄な支出がないかをチェックします。逆に広告宣伝費など、もっとかけたほうが収益に寄与するものがないかも分析します。過去の支出額が妥当かどうかを検証して、今後の活動に生かします。


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3 資産負債状況の把握

資産負債状況とは、決算書の貸借対照表に記載されているような資産と負債のバランスです。重要なことは、貸借対照表の数字と実態を比較して把握することです。

貸借対照表では、各勘定科目の実態をチェックしてください。例えば、「売掛金」が300万円として、その中に回収が見込めないものが30万円あれば、実態の売掛金は270万円です。

負債の部では、役員や身内からの借入があれば、事実上、返済については緩やかに考えることができます。

こうして資産負債の実態を把握すれば、実質の自己資本(純資産)がいくらなのかを算出できます。自社の実質自己資本を把握すると、安全性を客観的にチェックできます。

4 資金繰りのチェック

資金繰りは企業経営において非常に重要なことです。近い将来の資金繰りを予測して、早めに手を打つことで資金の枯渇を防ぐことが可能になります。

資金繰りを予測するために「資金繰り表」を作成しましょう。直近の実績と、半年~1年先の入出金を月別に計上して、月末の現預金残高を予測します。

資金繰り表は、保守的に作成することがポイントです。入金予測は、「間違いなく入ると見込める金額」をベースに計上します。将来の売上を予測するのは容易ではありませんが、過去の実績も勘案しながら検討しましょう。支出についても同様です。

もし「3カ月後に資金不足になりそう」と判明したら、すぐにでも資金を増やす行動が必要です。「資金繰り表を作るのは大変」と思っている人も多いですが、一度作ってみれば慣れるものです。ぜひ定期的に作成して、資金繰りの問題を事前に察知しやすい環境にしましょう。

5 資金繰りのピンチを乗り切る方法

創業後数年を経過した企業の経営者であれば、「資金繰りのピンチ」に直面したことがあるのではないでしょうか。

「今月末が厳しい」「機械が壊れたのに修理代が足りない」「お金が減ってきてなんとなく不安だ」など、緊急性や深刻度はそれぞれですが、経営者であれば必ずといっていいほど経験するものです。

資金繰りのピンチを乗り切るためには、次のようなキャッシュを増やす行動が不可欠です。

キャッシュを増やす行動を示した画像です

「当たり前のこと」といえる内容ですが、どれを行うべきか検討して早急に実行することが重要です。また、例えば「融資を受ける」とした場合でも、金融機関融資、カードローン、オンラインレンディングなどがあります。また、上表にはありませんが、ファクタリングという方法もあります。経営者は資金調達方法を理解し、いざというときに使える準備をしておくことが大切です。

万一、「崖っぷち」のピンチに直面した場合は、コストを思い切って削減しなくてはなりません。資金繰りのためには、関係先にお願いして支払いを待ってもらうことも選択肢の1つですが、言うまでもなく信用低下につながるので極力避けたいところです。

そうした事態になる前に、先の資金繰りを予測して早めに対策を講じることが、事業継続のためには不可欠です。

6 融資を活用してビジネスを加速させる

経営をしていると、「お店を増やしたい」「設備を更新したい」「売掛金回収までのつなぎ資金が必要」など、まとまった資金が必要になる場面に直面することがあります。

経営者の中には「借金は怖いからしたくない」と考える人もいますが、適正な範囲であれば、怖いことはありません。ビジネスを加速させるために、融資を積極的に利用することをお勧めします。

日本政策金融公庫「新規開業パネル調査」(2016年12月)によると、創業から年数が経過するにつれて、金融機関等からの借入残高(1企業当たり)が増えています。

この調査結果は、創業して事業経営を進めていくうちに、運転資金や設備資金の必要性が高まっていることを示しています。

金融機関等からの借入残高(1企業当たり)を示した画像です

創業後3年以内において資金調達が必要となる理由はさまざまですが、融資の主な使途の例として、次のようなものが挙げられます。

融資の主な使途の例を示した画像です

創業後年数が経過すると、必要な資金の種類が増える傾向にあります。収益アップや生産性向上など効果が見込める投資であれば、「今は資金が足りないからやめておこう」と考えるよりも、融資を利用して事業を加速させるほうが賢明です。

融資を申し込む際には、次の3つのポイントについて、金融機関などの担当者に説明できるようにしておくことが重要です。

1.最近の業績を説明できるか

最近の業績について、数字できちんと説明できるようにしましょう。前述の「2 収益構造のチェック」で解説した分析を行って、説明資料として準備しておくことが望ましいといえます。

2.資金使途とその効果はどうか

融資の使い道(資金使途)は、具体的に説明する必要があります。何にいくら使って、その結果どのような効果が得られるのか、十分に検討しておきましょう。

3.無理なく返済できるか

融資を受けた後の返済能力は、融資の審査において重要なチェックポイントです。うまく説明するためには、資金繰り表や事業計画書を準備することが有効です。特に新規出店など大きい設備投資の場合は、投資内容の詳細や収支見通しを盛り込んだ事業計画書を作成することが不可欠といえます。

7 補助金・助成金を活用する

補助金・助成金には、大きく分けると国や自治体が実施する補助金(東京都などでは「助成金」の名称になっています)と、厚生労働省関係の雇用に関する助成金があります。

いずれも、基本的に返済不要の資金が得られる制度です(利益が大きく出た場合などには返金を求められることがあります)。中小企業にとってありがたい制度ですが、次の2つの点に留意が必要です。

1つ目は、それぞれ政策目的があり法律や規定が定められているので、その厳守が求められることです。万一違反すると、罰則を適用されることもあります。

2つ目は、特に補助金は「完全後払い」であることです。つまり、先に資金が提供されるのではなく、自己資金(または融資など)で支出して、事業が完了した後に支給されるものです。

これらを理解した上で、自社の事業計画や雇用見通しと照らし合わせて、合致する制度があれば、積極的に活用しましょう。補助金・助成金の募集情報は、中小企業基盤整備機構のWebサイトの「支援情報ヘッドライン」というページで検索することができます。

●中小企業基盤整備機構「支援情報ヘッドライン」
https://j-net21.smrj.go.jp/snavi/support

首尾よく補助金・助成金を活用できると、さまざまなメリットがあります。主に次の3点が挙げられます。

1.返済不要の資金が調達できる

返済が不要の資金を調達できるので、余裕を持った事業運営ができます。

補助金の場合、例えば「上限1000万円。補助率3分の2」という制度であれば、計画遂行に1500万円かかった場合に、その3分の2の1000万円が支給されることになります。

2.考えていた計画を実行するきっかけになる

以前から考えていた新規事業の計画があっても、先延ばしになって実行できていないことがあります。事業内容が補助金の趣旨に合っていれば、応募して採択(審査に合格すること)されることにより、計画を実行に移すことができます。補助金応募時に作成した事業計画書の通りに事業を進めることで、期間内に目標としていた成果を出せる確率が高まります。

3.採択企業としてブランド力アップにつながる

補助金の多くは、採択者発表の際に、採択された企業名と事業テーマがWebサイト上に公開されます。補助金に採択された事実は、事業内容が評価された証しです。自社のホームページなどで「○○補助金採択事業」と掲載することで、企業のブランド力が高まる効果が期待できます。なお、雇用に関する助成金は要件を満たせば利用可能といえますが、補助金は申請しても必ず採択されるわけではありません。

補助金の審査にパスするためには、「公募要領」をよく読んで理解することが重要です。特に「審査項目」(または「審査の視点」)の欄は、審査基準を示していますので、申請書を書くときに意識して記入しましょう。補助金によっては、「認定経営革新等支援機関」など専門家の協力を得ることが必須のものもあります。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年7月9日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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