書いてあること

  • 主な読者:新たな設備投資について融資かリースかを検討している経営者
  • 課題:融資とリースのどちらが有利なのか、どう判断すればよいのか分からない
  • 解決策:固定資産税はリースがお得だが税制次第。その他、金利や企業の信用状況によって異なるため、都度、判断するしかない

1 融資とリースでどちらがお得か?

機械などの設備投資には多額の資金が必要で、自己資金だけで賄いきれないことがあります。そうした場合は、

  • 金融機関から設備資金の融資を受けて設備を購入する
  • リースまたはレンタルで調達する

ことが一般的です。経営者が知りたいのは、「融資とリースではどちらがお得か?」ということですが、結論は、設備投資の都度、判断するしかありません。なぜなら、

固定資産税の負担はリースが有利ですが、支払利息の負担は金利や企業の信用状況によって異なります。また、税制も変わります。そのため、設備投資の都度、税制、金利、企業の信用状況などを総合的に勘案する必要がある

ということです。この記事では、こうした結論に至るまでの考え方を紹介します。

2 融資を受けて購入する場合

融資を受けて設備を購入する場合、損益に影響する項目は、

減価償却費、支払利息、租税公課(固定資産税)

です。注目するのは減価償却費です。代表的な減価償却方法には、

  • 定額法:耐用年数にわたり一定の減価償却費を計上
  • 定率法:取得当初に多額の減価償却費を計上

があります。いずれを選択しても最終的な減価償却費は同じですが、途中の事業年度の損益に与える影響が異なります。定額法と定率法における減価償却費の推移(イメージ)は次の通りです。

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3 リースで導入する場合

1)ファイナンスリースとオペレーティングリース

会計上のリースとは、

特定の物件の所有者たる貸手が当該物件の借手に対して、リース期間にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は貸手にリース料を支払う取引

です。専門的でとっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、内容はリースに関する世間一般の認識と異なるものではありません。また、会計上のリースは、ファイナンスリースとオペレーティングリースとに区分されます。

ファイナンスリースは、リース期間の中途で契約解除ができないリース、またはこれに準ずる取引です。借手が当該リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に受け、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担します。ファイナンスリースに該当するか否かについては、「リース取引に関する会計基準の適用指針」で詳細に規定されています。ファイナンスリースは、「売買取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を購入した場合に準じた会計処理を行います。なお、ファイナンスリースは所有権移転ファイナンスリースと所有権移転外ファイナンスリースに区分されますが、わが国のファイナンスリースは所有権移転外ファイナンスリースであることが多いため、以降では所有権移転外ファイナンスリースを前提とします。

一方、オペレーティングリースは、ファイナンスリース以外のリースをいい、リース取引を「賃貸借取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を賃貸借した場合に準じた会計処理を行います。現在、オペレーティングリースの会計基準(日本基準)の見直しが検討されていて、今後、資産計上が必要になる可能性があります(2021年9月17日時点)。この記事では、現時点の会計基準(日本基準)を基に、「賃貸借取引」に準じた会計処理として紹介しています。

会計上、ファイナンスリースとオペレーティングリースのどちらに該当するかの判断は、次のように行われます。

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2)損益に与える主な影響(費用化)

ファイナンスリースの場合、

減価償却費と支払利息

が損益に影響する項目になります。ファイナンスリースの減価償却方法は、通常はリース期間を耐用年数としたリース期間定額法となります。一方、オペレーティングリースの場合、

支払リース料

が損益に影響する項目になります。

4 融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどっち?

融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどちらなのか、次の条件で比較します。

  • 売上高:1500万円
  • 導入資産の取得価額:1000万円
  • 耐用年数:7年
  • リース期間:5年
  • 融資の場合の借入金利:年2.0%
  • リースの場合の割引率(支払利息の計算に適用される利率):年2.8%

融資とリースの場合の、損益計算書とキャッシュフロー計算書は次の通りです。

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この条件のキャッシュフローの合計は、融資が4480万円、リースが4490万円となり、リースのほうが10万円有利になります。その理由は次の通りです。

  • 固定資産税負担がない:40万円
  • 支払利息負担が多い:マイナス26万円(融資2.0%、リース2.8%)
  • 上記による税負担の増加:マイナス4万円((40万円-26万円)×30%)(万円未満切捨)

融資とリースの比較の場合、固定資産税の負担ではリースが有利です。一方、支払利息の負担では、金利動向や企業の信用状況によって結果が変わります。そのため、いずれが有利かの判断は画一的には決定できず、設備調達の都度、税制、金利、企業の信用状況など総合的に勘案して決定することが大切です。

5 (参考)それぞれの会計処理

1)融資を受けて設備を購入する場合の会計処理

融資を受けて設備を購入する場合の会計処理を紹介します。なお、購入する設備は機械設備とし、取得価額は1000万円(耐用年数7年、定額法、消費税は考慮しません)、金融機関からの借入金返済期間は5年、利率は年2.0%とします。

1.融資を受けたとき

現金預金を借方に計上(資産の増加)し、借入金を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)現金預金 1000万円 /(貸方)借入金 1000万円

2.設備の購入時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、機械設備を借方に計上(資産の増加)します。

(借方)機械設備 1000万円 /(貸方)現金預金 1000万円

3.金融機関に対する元本および利息の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、借入金を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)借入金  192万円 /(貸方)現金預金 212万円

(借方)支払利息 20万円 /

4.購入した設備の減価償却費計上

減価償却費を借方に計上(費用の計上)し、機械設備を貸方に計上(資産の減少)します。これは、機械設備の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 143万円 /(貸方)機械設備 143万円

5.固定資産税の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、租税公課(固定資産税)を借方に計上(費用の計上)します。これは、設備等に課された固定資産税(固定資産評価額×標準税率1.4%)を反映するものです。

(借方)租税公課 12万円 /(貸方)現金預金 12万円

2)ファイナンスリースにより設備を導入する場合の会計処理

ファイナンスリースにより設備を導入する場合、次のような会計処理になります。なお、リース資産の取得価額は1000万円、リース期間は5年、支払利息は利息法(毎事業年度のリース債務未返済残高に一定の利率を乗じて、支払利息を計上する方法)によるものとし、割引率は年2.8%、消費税は考慮しません。

1.リース資産の導入時

リース資産を借方に計上(資産の増加)し、リース債務を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)リース資産 1000万円 /(貸方)リース債務 1000万円

2.リース会社に対するリース料の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、リース債務を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)リース債務 189万円 /(貸方)現金預金 217万円

(借方)支払利息   28万円 /

3.リース資産の減価償却費計上

リース資産を貸方に計上(資産の減少)し、減価償却費を借方に計上(費用の計上)します。これは、リース資産の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 200万円 /(貸方)リース資産 200万円

ファイナンスリースを売買取引に準ずる取引とみなすため、企業はリース資産を購入した場合と同様に資産計上し、リース期間にわたって減価償却費を計上していきます。ただし、リース資産の所有権はリース会社にあるため、固定資産税はリース会社が負担します。

3)オペレーティングリースにより設備を導入する場合の会計処理

リース料の支払いの都度、支払リース料を借方に計上(費用の計上)し、現金預金を貸方に計上(資産の減少)します。

(借方)支払リース料 217万円 /(貸方)現金預金 217万円

オペレーティングリースを賃貸借取引に準ずる取引とみなすため、設備を導入しても、資産計上する必要はありません。また、ファイナンスリース同様に、固定資産税はリース会社が負担します。

なお、レンタル会社から設備をレンタルする場合の会計処理も、賃貸借取引であることから、オペレーティングリースと同様の会計処理(費用科目は賃貸料など)となります。そのため、別途説明は省略します。

以上(2021年10月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:pixabay

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