ビジネスを進める上で、決算書を読みこなし、経営状況を分析する能力は必須です。今回の連載では、主要な決算書である貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の読み方と生かし方の基本を解説します。

多忙な経営者は、決算書をじっくり読み込む時間が取りにくいかもしれません。しかし、自社や取引先の財務状況は健全であるか、業績が良好であるか、資金繰りの安全性は高いか、将来の発展のために投資を怠っていないかなどを決算書から読み解くことは大切です。

第1回は、貸借対照表の読み方のポイントを紹介します。なお、第2回は「損益計算書」、第3回は「キャッシュフロー計算書」を取り上げます。これら財務諸表のつながりを確認したい場合は、「財務3表のつながりと、キャッシュフロー計算書の読み方」を読んでみてください。

1 貸借対照表の基本

貸借対照表(BS)とは、会社が所有するプラスの財産(資産)、マイナスの財産(負債)、そして資産と負債の差額である純資産を示す書類です。決算日における財産の残高(Balance)表なので、Balance Sheet(バランスシート)と呼ばれています。

また、貸借対照表は、お金の使い方(運用)と集め方(調達)を表す「お金の貸し借りの明細書」でもあります。運用を表す資産の額は、調達を表す負債と純資産の合計額と同額であり、貸借の金額が一致します。

貸借対照表のポイントを示した画像です

貸借対照表を見れば、「どれほどの資産を保有しているか」「借金が多すぎないか」「全ての資産を売却して負債を返済すれば、差額の純資産はいくら手許に残るか」「お金の使い方と集め方のバランスが崩れていないか」などの財産状況が分かります。

2 総資産(=総資本)で経営規模をつかむ

まず、貸借対照表は総資産(=総資本)の大きさで会社の財務的な経営規模を見ます。

総資産(=総資本)が大きい会社は、多額の資産を保有して、あるいは多額のお金を投入しているということであり、経営規模が大きいといえます。

しかし、総資産が大きいだけでは優良企業とはいえません。保有している総資産(=総資本)を有効に活用して、多くの売上高を稼ぎ出し、きっちり利益を計上することが大切です。たとえ総資産は小さくても多くの売上を稼ぎ出す会社は、「無駄な資産を抱えないで、大きく稼ぐ」効率的な経営を実践している会社といえます。

効率的な経営が実践できているかどうかチェックするための指標は、「総資産回転率(=売上高÷総資産)」です。総資産回転率とは、総資産(=総資本)の何倍の売上を稼ぎ出しているか、言い換えれば、1年間の売上で何回、総資産を回収できたかを表す経営指標です。

お金のことは「お足」ともいいます。お金は滞留することなく、会社の周りをグルグルと勢いよくまわっていることが望ましいのです。そのため基本的には、回転率が高い会社ほど、効率的な経営ができている会社であると評価できます。

3 お金の集め方に無理はありませんか?

貸借対照表の右側に表示されている負債と純資産の大きさを比較することで、お金の集め方の健全性を見ます。経営分析において、負債を他人資本といい、純資産(純資産合計から新株予約権と非支配株主持分を除く)を自己資本といいます。

このうち自己資本の割合を見る指標が、「自己資本比率(=自己資本÷総資本)」です。自己資本比率が高いほど、お金の集め方が健全で他人資本への依存度が低いといえます。なぜなら、自己資本は他人資本と違い返済義務がないからです。

どの会社も借入金以外に、商取引での仕入債務や未払税金、将来の退職給付債務などを抱えているでしょうから、他人資本をゼロにはできません。とはいえ、総資本に占める負債(他人資本)の額は半分(50%)以下に抑えておきたいものです。

業種や業態、経営規模を問わず、自己資本比率が高い会社とは、過去から自己資金での決済が可能な取引を通して、着実に利益を蓄積してきており、身の丈に合った堅実経営を継続してきた証しです。


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4 資金調達コスト0円のお金の集め方とは?

自己資本は、株主から払い込みを受けた資金である資本金および資本金へ組み入れなかった資本準備金や、過年度の利益の蓄積である利益剰余金などで構成されます。

自己資本とは、原則として、返済する必要のないお金の集め方ですが、資本金を払い込んでくれた株主に対して、支払配当金という資金調達コストがかかります。しかも、支払配当金は費用ではなく、法人税等を支払った後の利益の分配であるため、法人税等の計算上、考慮されません。

一方で、借入金に対する支払利息は、損益計算書の費用に計上されることで、法人税等の納税額が減るという税金の減額効果があります。税負担を考慮に入れると、支払配当のほうが支払利息よりも高コストとなる場合もあります。

自己資本のなかで資金調達コストが不要なのは、自社の利益の蓄積である利益剰余金となります。

5 流動資産は1年以内にお金になりますか?

貸借対照表の流動資産には、正常な営業活動での受取手形と売掛金、棚卸資産の他、おおむね1年以内に資金化できる資産科目が表示されます。

受取手形と売掛金は、製品や商品に係る売上代金の未回収額です。売上高を回収する権利という意味で「売上債権」と総称します。なお、売上債権のうち、得意先の経営状況により回収が困難となった債権は「破産更生債権」として固定資産に計上します。

また、「棚卸資産」は、決算作業のときに倉庫や店頭の陳列棚から卸して数と品質をチェックすべき資産の総称です。貸借対照表では、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの業種ごとに、より分かりやすい具体的な科目で報告します。棚卸資産は、いずれ顧客・消費者などに売って売上の基になる資産です。

棚卸資産は商売のために必要不可欠ですが、油断をすると過剰在庫を抱えやすいものです。在庫と売上は基本的に連動した関係にあるため、適正在庫であるかどうか、月々の売上高と比較してみることも大切です。

もしも売上が伸び悩んでいるのに、在庫が増加しているならば、滞留在庫や死蔵在庫(売り物にならない在庫)が増えている恐れがあります。

6 固定資産への無駄な投資はありませんか?

固定資産へ投入したお金(以下「投下資金」)は、1年を超えて長期に運用することを予定しています。固定資産は、売却や処分をするまで投下資金を回収できないため、「長期間資金が寝る」という表現をします。投下資金の回収に時間を要することに加えて、購入後の値下がりリスクも抱えます。

固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つに区分して表示します。

有形固定資産には、土地、建物、機械及び装置などの事業活動に必要な形のある資産、無形固定資産には借地権、のれんなどの事業活動に必要な形のない資産が計上されます。全ての固定資産が収益獲得に貢献しており、事業に必要とされる資産であるかチェックしましょう。

投資その他の資産には、投資目的の有価証券や子会社株式、回収期限が1年を超える長期貸付金、施設利用権などが計上されます。ビジネスに活用されていない資産がないか、投資目的の資産の時価が帳簿価額よりも大幅に下がっていないかどうかを注意します。

また、焦げ付く可能性が高い破産更生債権等は、固定資産に計上されていても回収は困難と考えられます。これらの不良債権が計上されることで固定資産が膨らむと、結果として、実力より利益が過大に計上されることになります。破産更生債権等は、その残高と適正な貸倒引当金で回収不能に備えているかも見ておきましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年3月13日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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