新型コロナウイルス感染症の影響により、経営課題としての重要度がより高まっている資金繰り。すでに影響を受けている会社だけでなく、今はまだそれほど受けていない会社においても、不確実な未来に向けた対策は欠かせません。
このシリーズでは、中小企業の経営者向けに、資金繰りの基本や資金繰りを行う上でのポイントを専門家が解説します。
1 企業は何のために資金繰りをするのか?
企業は何のために資金繰りをするのでしょうか? 当たり前のことなので考えたことがないという方も多いかもしれませんが、とても大切なことなので、この機会に一緒に考えてみましょう。まずは「資金繰りが上手くいっていない会社」と「資金繰りが上手くいっている会社」の違いを一緒に見ていきましょう。
1)「資金繰りが上手くいっていない会社」8つの特徴
「資金繰りが上手くいっていない会社」の特徴を8つ挙げてみましたので、あなたの会社は幾つ該当するのかを確認してみてください。5個以上なら要注意です。
- 資金繰りの予測が甘くて不正確
- 頭の中で同じ計算を繰り返している
- 幹部社員が資金繰りを分かっていない
- 銀行が思うような提案をしてくれない
- 無駄な経費に気付いていない
- 行きあたりばったりの資金繰りをしている
- 資金繰りの対策が遅れがちで常に焦っている
- 売上アップの課題が後回しになっている
2)「資金繰りが上手くいっている会社」8つの特徴
次に、「資金繰りが上手くいっている会社」の特徴を8つ挙げてみましたので、あなたの会社は幾つ該当するのかを確認してみてください。5個以上なら合格です。
- 資金繰りの予測の精度が高い
- 頭の中で計算をする必要がない
- 幹部社員と資金繰りの情報が共有できている
- 銀行が期待以上の提案をしてくれる
- 無駄な経費がない
- 地に足を着けた資金繰りをしている
- 早めに対策できるので気持ちに余裕がある
- 売上、利益、残高が増えるようになっている
「資金繰りが上手くいっていない会社」も「資金繰りが上手くいっている会社」も、倒産や廃業をしていない限り、どちらもお金が回っているという点は同じです。それでは何が違うのでしょうか?
「資金繰りが上手くいっていない会社」は、日々恐怖におびえて焦りながらお金を回しているため、本来やるべきことが後回しになり、事業が好転しにくいという悪循環に陥っている傾向があります。それに対して、「資金繰りが上手くいっている会社」は、気持ちに余裕を持ちながらお金を回せるため、本来やるべきことに集中でき、事業が好転しやすいという善循環の傾向があります。
つまり、何のために資金繰りをするのか? という問いに対する答えとして、「気持ちに余裕を持ちながらお金を回し、本来やるべきことに集中して事業を好転しやすくするため」といったことが浮かび上がってきます。その結果として、経営は善循環に入っていきます。
2 そもそも資金繰りとは何のこと?
資金繰りを一言でいうと、「予測」することです。それでは、何を予測するのでしょうか? その答えは3つあります。お金の「入り」と「出」と「残り」です。ちなみに「残り」とは預金残高のことです。その「入り」と「出」と「残り」の予測の精度が低いと、悪循環に陥る可能性が高くなります。逆にそれらの予測の精度が高いと、善循環でやっていけるようになります。
ここで注意していただきたいことがあります。前述の通り、資金繰り=予測は正しいのですが、資金繰り=資金調達(借入)と勘違いされている方が多いように思われます。資金繰りとはあくまでも「入り」と「出」と「残り」を予測することです。その予測をした結果、例えば、4カ月後の仕入代金1000万円が足りなくなりそうなのであれば、資金調達(借入)をすればよいということになります。つまり、資金繰りは、まず予測ありきなのです。資金繰り=予測です。予測あっての資金調達(借入)なのです。
3 資金繰りのコツとは?
資金繰り(予測)を上手くやるコツは、簡単・シンプルに考えることです。これができそうでできない。ほとんどの会社は、その担当者でなければ分からないとか、その担当者でなければ使いこなすことができないという、独特で難解な表で資金管理をしています。その結果どうなっているかというと、予測の精度が低くなり悪循環に陥っている会社が大多数です。
重要なのでもう一度言います。資金繰りを上手くやるコツは、簡単・シンプルに考えることです。小学生にも理解できて、扱えるくらい簡単でシンプルな図や表で管理することが必要なのです。そうすれば、担当者が代わったときでも大変な目に遭うことなく、スムーズな引き継ぎを行えるようになるので安心です。誰が見ても一瞬で理解でき、余計な手間がかからずにやり切れる簡単・シンプルなツールが資金繰りには欠かせません。
4 資金繰りツール「三種の神器」とは?
それでは、小学生でも分かるくらい簡単・シンプルな図や表とはどのようなものなのでしょうか? 文章で長々と説明をするよりも、見てもらったほうが早いと思いますので、ここで筆者が実際にクライアント企業に導入している図と表(三種の神器)をご紹介したいと思います。
1)「入り」と「出」の図解
上図のそれぞれの左側が「出」で、右側が「入り」です。「出」は大きく分けて4種類で、仕入、経費、税金、返済です。それではここで、メモ用紙でも何でもいいので記入するための紙を用意してみてください。そして用意していただいた紙に、この図の枠線を書いてみましょう。そしてあなたの会社の数字(キャッシュベースの数字)を大ざっぱでいいので、図に記入してみてください。縦の長さが数字の大きさです。左の「出」と右の「入り」、どちらが縦に長くなりましたか? 1~3のどのパターンに該当しましたか?
これらの図は、単にお金の「出」と「入り」のバランスを見るためのものなので、業種・規模にかかわらず、全ての会社が上図3つのいずれかのパターンに当てはまります。そして、左側に行くほど資金繰りが楽になりますので、左側のパターンに持っていくには「何をどれだけ減らせばいいのか?」「何をどれだけ増やせばいいのか?」など、この図を見ながら大まかな戦略を立てていきます。
2)資金繰り表(エクセル)
資金繰り表の肝は、「形」です。「形」が悪ければ悪循環から抜け出すことはできません。逆に「形」が良ければ、善循環で資金繰りを行っていけます。
下表が、資金繰り表のベストな「形」(基本形)です。月ベースではなく、日ベースになっているのが特徴です。そして、この表は通帳ごとに作成し、通帳に印字されている項目を基本的にはそのまま記入していきます。
エクセルで、1カ月分を1シートとし、12シート(1年分)を作成し、見込み(予測)の数字を1年先まで入力してしまいます。実際に動いた実績の数字については、見込み(予測)の数字を上書きして修正します。そのようにしていけば、「〇月〇日にいくら足りなくなるのか?」、あるいは「〇月〇日にいくらお金が余っているのか?」ということが、誰が見ても一目瞭然になり、支払い直前ギリギリではなく、何カ月も前に打つ手が明確になります。そのため、対策が立てやすく、気持ちに余裕を持って資金繰りができるのです。ちなみに、筆者がクライアント企業に導入しているこの資金繰り表は「どんぶり大福帳®」と名付けています。ありそうでない「形」です。前述4-1)の図の色に合わせて、白色は「入り」、黄色は「仕入」、緑色は「経費」、青色は「税金」、茶色は「返済」としています。
なお、この資金繰り表は、こちらからダウンロードできます。
3)折れ線グラフ
1年先までの「入り」と「出」を折れ線グラフにすると下図のようになります。これはクライアント企業の事例です。点線が「入り」で、実線が「出」です。この会社は毎年決算時に多額の保険料を支払っていました。その結果、「出」が「入り」よりも多くなっていました(下図参照、ビフォー)。
しかし、社長がこの折れ線グラフを見て、お金を減らす経営判断をしていたことに気付き、その後は、決算時に支払う保険料の額をコントロールして、お金が増える経営にシフトチェンジすることができました。
もし、この折れ線グラフを見ていなければ、お金を減らす経営をずっと続けていたことでしょう。
5 資金繰りの先入観をリセットする
資金繰り=資金調達(借入)と勘違いされている人が多いという話をしましたが、その他にも先入観による勘違いの多い事柄があります。それは何かというと、「決算書を読めるようになれば資金繰りが分かるようになる」という思い込みです。
ところで、決算書は何のために作られているのでしょうか? 非上場企業にとっての答えは、税金を計算するためです。ですから、決算書に記載されている数字は税金を計算するための過去の数字ということになります。つまり、決算書に記載されている過去の数字をいくら分析したところで、先々の資金繰り予測をするための判断材料になることはあり得ないということです。もし、自分の会社の資金繰りをきちんとするために決算書を勉強しようということであれば、その考えをリセットしましょう。前述した「三種の神器」で予測の精度を上げながら資金繰りをしていくことが、あなたの会社の経営が善循環に入っていく近道になりますので、まずはまねをしながらやってみてください。
以上
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