書いてあること

  • 主な読者:数字にはシビアでも、その数字を導くまでの会計業務には無頓着な経営者
  • 課題:会計業務の誤りによって経営者が逮捕されるケースもある
  • 解決策:誤りや不正の代表例を知り、業務のマニュアル化やダブルチェックを行う

1 今見ているのは正しい数字か?

多くの経営者は、

会社の数字にはシビアでも、その数字の計算過程となる会計業務は担当者に任せきり

のことが多いです。しかし、中小企業では、人員、知識、実務経験の不足から会計の「誤り」が生じることあり、今見ている数字が間違えているかもしれません。

さらに、企業がある程度の規模になると、

たとえ悪意のない単純ミスでも、金融機関や株主などのステークホルダーに誤った会計情報を提供することで意思決定を誤らせ、結果として損害を与える恐れ

があります。これから事業拡大を目指している経営者は、意識しておきたい問題です。もちろん、経営者が会計業務の詳細まで知る必要はないですが、

実務上で発生し得る会計業務の誤り(ミスや不正)を知り、業務のマニュアル化やダブルチェックなど、その防止策を講じること

は不可欠です。

2 罰則あり。逮捕されることも……

1)税務上の課税所得を過少計上

会計処理の誤りにより、税務上の課税所得を過少計上することがあります。例えば、期末の在庫残高を誤って過小に計上すると、売上原価が過大に計上されて課税所得の計算の基礎となる利益が過小計上されることになります。このような誤りが税務調査で明らかになると、

過少申告加算税(追加納税額に対して税率5%~15%)の他、延滞税(追加納税額に対して年税率2.4%(令和6年の場合))

が課されます。

2)不正な経理を行ったことが税務調査で発覚

故意に税金をごまかそうとして行った不正な経理が税務調査で発覚した場合、仮装・隠蔽行為とされ、

過少申告加算税に代え、さらに重い重加算税(税率35%~50%)

が課されます。また、その不正がより悪質な行為と判断された場合には、

法人税法違反(法人税法159条)として、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金

が科される可能性があります。

3)決算書の数値を操作して、業績を実態よりも良く見せようとした場合

「粉飾決算」とは、決算書の数値を操作して、会社の財政状態や経営成績を実態よりも良く見せることです。中小企業が粉飾決算する動機として多いのは、融資を受けている銀行に対して決算を良く見せたいというものです。粉飾決算を行った会社は、民事上および刑事上の責任を問われる可能性があります。

会社の役員等は、粉飾決算による損害について、

会社に対する損害賠償責任や第三者に対する損害賠償責任

を負います。また、粉飾決算に伴い違法な配当を行った場合、

違法配当罪として5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金

が科せられる可能性があります。さらに、粉飾決算によって自己もしくは第三者の利益を図り、その任務に背く行為をし、会社に損害を与えた場合は、

特別背任罪として10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金

が科せられる可能性があります。

3 今一度見直そう、最も身近なコンプライアンス

このように、会計業務の誤りは会社に多大な悪影響を及ぼすことから、これを予防する手立てが必要です。会計業務のミスは、担当者の不注意や知識・経験不足などにより生じますが、その対策として

会計業務のマニュアル化が効果的

です。業務手続きを統一し、明確にすることで、不注意によるミスが減ります。また、マニュアル作成に際して、会計業務の全体像と各業務の内容を整理するので、結果として無駄がけずられ、会計業務の効率化につながります。

また、

実際におきたミスの原因を明らかにして記録し、社内で共有すること

もミスの予防に役立ちます。ミスの原因への対応が必要であれば、マニュアルの修正で対応することも考えられます。これらの対策をしても担当者のミスをゼロにすることは困難ですが、別の担当者による

ダブルチェックを実施すること

で、担当者のミスを発見することが期待できます。例えば、横領は担当者に対する内部牽制(けんせい)が機能していない場合に生じることが多いので、誰かがそれを監視するようにします。少なくとも預金残高については残高証明書の原本とのチェックを担当者以外が実施しましょう。

以上(2024年9月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:megaflopp-shutterstock

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