書いてあること
- 主な読者:金融商品の会計処理として、有価証券の処理を勉強したい新人経理担当者
- 課題:一言に有価証券といっても、決算書にはいろいろな項目で記載されている
- 解決策:まずは有価証券の保有目的を整理し、それぞれの評価方法を覚える
1 金融商品のポイントは時価評価
決算書にはさまざまな資産が計上されていますが、決算時、特に注意が必要なのが金融商品です。金融商品の会計処理は、
他の資産とは別の会計基準などが定められ、期末時点の価額を貸借対照表に反映(時価評価)
しなければなりません。
取得原価のまま決算書に載せてしまうと、その金融資産が含み損(取得時よりも時価が値下がりしていること)を抱えていたとしても、実際にそれを売却するまで含み損があるかどうかは分かりません。時価評価すれば債務超過になる貸借対照表でも、取得原価のままなら健全に見えてしまう場合も考えられます。会社が倒産するまで「多額の不良債権」の存在が外部から把握できないケースもあり得るのです。
金融商品は大きく金融資産と金融負債に大別されます。
- 金融資産:現金預金、金銭債権(受取手形、売掛金、貸付金など)、有価証券(株式、公社債など)、デリバティブ取引による正味の債権
- 金融負債:金銭債務(支払手形、買掛金、借入金、社債など)、デリバティブ取引による正味の債務
この記事では、中小企業の経理実務に即した会計ルールである「中小会計要領」(中小企業の会計に関する基本要領)に合わせて、有価証券の評価と会計処理の方法を解説します。
2 異なる有価証券の評価方法
1)有価証券の分類と評価
中小会計要領では、原則として取得原価での会計処理になります。ただし、売買目的有価証券(短期間の価格変動により利益を得る目的で、売買を繰り返す有価証券)は時価での会計処理になります。また、時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあると判断した場合を除き、時価で貸借対照表に計上し、評価差額を当期の損失として減損処理しなければなりません。
2)売買目的有価証券
時価の変動による利益を得ることを目的に保有する有価証券は、
決算日の時価で貸借対照表に計上し、評価差額は当期の損益
として処理します。「時価の変動による利益を得ることを目的として保有する」とは、
時価の短期的な価格変動により利益を得ることを目的とし、同一銘柄に対して相当程度に繰り返し売買が行われる体制が整っていること
を前提としています。例えば、定款に会社の目的として有価証券売買業が記載されており、有価証券売買のための人材が独立の専門部署で有価証券売買を行っている場合などです。従って、一般の事業会社が余剰資金の運用目的で有価証券を購入しても、その有価証券が売買目的有価証券に分類されないのが原則ですが、売買を頻繁に繰り返していれば、売買目的有価証券に分類することができます。
売買目的有価証券を売却した場合、売却時点で付されている帳簿価額と売却価額との差額を当期の売却損益として処理します。
なお、同一銘柄の有価証券を売買目的有価証券とそれ以外の区分で保有している場合、当該有価証券の一部を売却したときは、これらが社内で、明確に分別管理されていなければ、まず、売買目的有価証券を売却したものと推定します。
3)事例で学ぶ 売買目的有価証券の会計処理
A株式(上場有価証券)を売買目的で保有しており、その有価証券の取引状況は次の通りとします。
×1年度期中においてA株式を1000万円で取得
×1年度期末のA株式の時価は1100万円
×2年度期中にA株式を1500万円で売却
3 株や債券が大暴落したときの「減損」
1)市場価格のある有価証券の減損処理
取得原価で評価した有価証券(売買目的有価証券以外の有価証券)のうち市場価格または合理的に算定された価額(時価)のあるものについて時価が著しく下落したとき(回復する見込みがあると認められる場合を除く)は、時価で貸借対照表に計上し、評価差額を当期の損失として評価損を計上する必要があります。
時価が著しく下落したときとは、個々の銘柄の有価証券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合が当てはまります。
例えば、その他有価証券を1000万円で取得したが、期末時価が400万円に下落し、かつ、将来取得原価まで回復する見込みがはっきりしない場合、評価損を計上する必要があります。
次年度以降のその他有価証券の取得原価は減損処理後の金額400万円となります。
なお、この評価額は税務上も損金処理できることになっています。
2)市場価格のない株式の減損処理
市場価格のない株式は取得原価で貸借対照表に計上しますが、株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく下がったときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として評価損を計上する必要があります。
財政状態の悪化による実質価額が著しく下がったときとは、大幅な債務超過などでほとんど価値がないと判断できる場合などが当てはまります。
なお、この評価額は税務上も損金処理できることになっています。
以上(2024年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
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