――災害時に起こりがちな税務・財務上の問題について教えてください。

税理士A
まず想定されるのは、オフィスなどの建物の損壊、商品や車両の水没や損傷といった会社が保有する資産の被害です。被災直後には損壊度合いがそれほどひどくないように感じられても、その後の余震などにより損壊する危険性があるとして、行政から建物への立ち入りを禁止されることもあります。こうした場合、営業や操業自体が完全にストップしてしまいかねません。

税理士B
他には、人に関する問題もあります。例えば、社員の住居が損壊したり、浸水したりした場合、出勤どころではないでしょう。社員がいなければ、通常の営業活動ができず、会社に大きな影響を与えます。

会社によっては、被災した社員に日常の生活を少しでも早く取り戻してもらえるよう、災害見舞金を支給するケースも出てくるでしょう。

――資産が被害を受けた場合、会社が早期に復旧するためには、日ごろからどのような準備をしておくべきですか?

税理士A
災害の規模や被災状況によって異なるため一概にはいえませんが、まず被災した場合に必要となる資金を把握しておくことは必須です。BCPを策定する際も、最悪のケースまでを想定しておかなければならないでしょう。

例えば、オフィスなどの建物の被害は、取り壊して建て直す場合が、最も資金が必要になるケースだと思います。その他の資産(商品や固定資産など)についても新品を購入した場合、いくら必要なのかを把握することが、対策を講じる上での1つの基準になります。

また、外部の資金調達先について、災害時に受けられる融資の条件や手続きを事前にまとめておくなど、被災時の混乱の中でも、できる限りスムーズに融資を受けられるように準備をしておくことはとても大切です。

――災害見舞金の支給に当たって、注意すべきことはありますか?

税理士B
会社としては、建物などの資産の修繕や、流通網などの原状回復に資金が必要になるため、社員に災害見舞金を支給するケースは、あくまで余裕があればの話になります。

災害見舞金は支払った会社側で損金処理することができますし、受け取った社員側にも源泉所得税は課されません。

ただし、災害見舞金を支給する際は、被害を受けた社員に一律に、一定の基準に従って支払う必要があります。特定の社員だけに支給した場合には、給与などの扱いを受ける恐れがあるからです。

なお、こうした基準を設けるに当たっては、災害見舞金規程などを事前に作成しておくのが理想ですが、被災後に作成した場合でも税務上の問題はありません。

――BCPや災害対策に本気で取り組もうとしている経営者に対して、アドバイスをお願いします。

税理士A
まずは、1カ月でどのくらいの資金が必要なのかを正確に把握しておくことが大切です。損益計算書の損益だけでなく、キャッシュフロー計算書を作成し、資金状況を月次ベースで把握するのです。その数値を経営者だけでなく、役員などとも共有します。

また、保険に加入している場合は、保険の内容を整理して、被災したときにどの程度の保険金がもらえるのかも確認しておきましょう。

実際に被災したときには、現場は混乱し、また、資料の紛失なども起こり得ます。税務・財務に限ったことではなく、どれだけ事前に準備をしているかが、その後の事業継続に大きな影響を及ぼすことを認識しておきましょう。

以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock

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