書いてあること
- 主な読者:「ほめる」のが苦手、「ほめ下手」なリーダー(経営者・部下を持つ上司)
- 課題:叱られた経験がほとんどない若手社員と良好な関係を築きたい
- 解決策:今回は、「二言挨拶」「話の聞き方」などの「ほめる」達人に近づくファーストステップを解説
1 ほめずに「ほめる」!?
「ほめる」ことを一番狭く定義すると、「年下から年上に対して、言葉を使って良いことを言う」ことになります。ただ、この定義に縛られてしまうと、「ほめる」ことがすごく難しく感じられてしまうのではないでしょうか。私たち「ほめ達」協会では、「ほめる」ことを上記の定義に縛られず、
「ほめるとは、価値を発見して伝えること」
と定義しています。
言葉を使わずに「ほめる」ことも積極的に行っています。具体的にはどのようなことか、今回はその内容をお伝えしていきます。実は、もう既に皆さんが、無意識に実践されていることでもあるので、こんなことが「ほめる」ことになるのか!?と驚かれるかもしれません。
これからお伝えすることは、私が研修の中で、参加者の方に、まずはここからスタートしてくださいとお伝えしていることです。ほめずにほめる!「ほめ達!」の極意です。
一つ目は、「二言挨拶」(ふたことあいさつ)。すごくシンプルですが、挨拶に一言加えるということです。「おはよう!今日も元気そうだね」「おはよう、今日は寒いね!」あるいは挨拶の際に相手の名前を呼ぶ。「西村くん、おはよう!」「おはよう! 西村さん」のように。とっさに言葉が出てこない、名前が出てこないような場合には、「あっ! おはよう!」「おお! おはよう」というふうに「あっ!」とか「おお!」という一言を加えるだけでもOKです。その「あっ!」や「おお!」を言う際に、あなたと会えて嬉しい!という気持ちが込められていればいいのです。
あるいは言葉が出なくても、挨拶プラス笑みを加える。挨拶の際に立ち止まり、相手の方を向くというのも、立派な「二言挨拶」となります。パソコンを打っていた手を止めて、顔を上げ、相手の方を向いて「おはよう!」、さらにおへそまで向けて挨拶をする。すると、相手は自分がすごく受け入れられていると感じます。
挨拶とは、私はあなたの存在を認めていますよ、と伝えることです。この「二言挨拶」が実践されている職場や部署には、安心安全な雰囲気が醸成されていきます。「二言挨拶」は、相手の心の居場所を提供することでもあるのです。部署に机と椅子は用意されているけれど、心の居場所を提供しているだろうか。リーダーはこの点を自分自身に問い、ぜひ挨拶から意識して実践してみてください。
2 出会う人を味方につける話の聞き方
さらに、こんなことも「ほめる」ことになるのですよ、というのが「話の聞き方」です。話をしている方と、聞いている方、どちらが相手にメッセージを伝えているのか。話している方が、一方的に相手に伝えているようですが、実は話の聞き方で相手にメッセージを伝えることができるのです。
管理職研修で行うワークがあります。二人一組になっていただいて、片方がもう一人の方に、1分間お話をしていただきます。話し手は、自分が話をしやすい話題を自由に1分間、話し続ける。そして、聞き手は最初の30秒は、熱心にその話を聞いていただきます。
しかし、30秒経過した時点で、私の合図で残りの30秒は、相手(話し手)を完全に無視していただきます。すると、これまでスムーズに話していた人が、無視された瞬間、言葉がうまく出てこなくなります。聞き手の態度が、話し手のパフォーマンスを大きく変えてしまうのです。部下や後輩の報告に対して、要領を得ない話し方だなと思う時、自分の話の聞き方の態度はどうなのか、自分で確認してみてください。
それでは、どのような話の聞き方が良いのか。次に挙げる8つのポイントを心掛けてください。
- 目を見る
- うなずく
- 相槌を打つ
- 繰り返す
- メモを取る
- 要約する
- 質問する
- 感情を込める
実は、この8つのポイント、私たちは無意識で行っています。どんな時に行うかというと、大尊敬する人の話を聞く時、大好きな人の話を聞く時です。ただ、常に自分の部下や家族に対しても行っているかと聞かれると、どうでしょうか?
これらの話の聞き方を、ちょっと意識してみるだけで、相手との関係性が驚くほど変わっていきます。特に上記の8つのポイントのうち、「メモを取る」というのは一見すると静かなアクションですが、パワフルな「ほめ仕草」になります。「あっ、そのアイデア面白いね、ちょっとメモしていい?」と言って、実際にメモまで取ると、言われた方は、こんなことでメモを取られるのなら、さらにこんなアイデアや情報もありますよ!となります。
また最近は、年上の部下をお持ちの管理職の方も少なくないと思います。では、年上の人を「ほめる」時にはどうすれば良いのか。例えば、上記の話の聞き方のうち、「質問する」という行動で、相手を「ほめる」ことができるのです。「〇〇さん、どうやってその技術を身につけられたのですか?」「どのような勉強をされてこられたのですか?」「本もよく読まれてますよね、私にオススメの本ってないでしょうか?」「〇〇さんには、若い頃、仕事上の師匠がいらっしゃったのでしょうか? その方からどのようなことを学ばれたのですか?」。
このように質問することによって、「私はあなたのようになりたいと思っています。あなたのことをすごいと認めています、尊敬しています」と伝えることができます。イメージは、試合の後の「ヒーローインタビュー」です。
挨拶や、話の聞き方など、小さなことを少し意識してみる。実は、これが大切なこと。私たちは「微差の積み重ね」の大切さとお伝えしています。さっそく、意識して実践してみませんか。
3 手軽で貴重な心の報酬
第1回では、「心の報酬」の大切さについてお伝えしましたが、今回はさまざまある「心の報酬」のうち、もっとも手軽かつ、もっとも価値の高い「心の報酬」についてお伝えいたします。
それは何かというと「ねぎらい」です。「ほめる」というと何か水準を超えた、しかも、いいことをした時だけに行われるものというイメージだと思います。一方で「ねぎらい」は、して当たり前のことに対して、気づき、共感して、ときには感謝を伝えるもの。「ほめ達」協会は、「ねぎらい」も「ほめる」の中に含めて大いに推奨しています。仕事なのだから、給料もらっているのだから、行われて「当たり前」の行動に対して、気づき、共感して、感謝を伝える。これが「ねぎらう」ということです。部下の仕事をチェックして、間違いがなかった。そのことに対して、ミスがなくて当たり前だから何も言わない。ねぎらいなくミスを見つけた時だけ、注意をする。すると注意を受けた方は、「見張られている」と感じます。
ところが、普段から当たり前の仕事ぶりに対して、感謝や「ねぎらい」を届けていると、注意を受けた時に「見守られている」と感じるものなのです。「ほめる」や「ねぎらう」という行為は、部下に対して、しっかり注意を与えることができる関係性を作るための重要な下準備でもあるのです。
「ありがとう」の反対語は、「当たり前」です。ついつい、当たり前だと思ってしまって見過ごしてしまっていることに気づき、言葉掛けをしてみませんか?
以上(2020年3月)
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画像:unsplash