書いてあること
- 主な読者:リモートワークに対応した就業規則のひな型が欲しい経営者、労務担当者
- 課題:就業規則のどこを見直せばよいか分からない、定め方が分からない
- 解決策:オフィスワークとリモートワークの労務管理上の違いに注目する。就業規則本則に委任規定を設け、リモートワーク規程などでルールの詳細を定める
1 就業規則の中で見直しが必要な項目は?
リモートワークのルールを就業規則で定める場合、「オフィスワークとリモートワークは労務管理上何が違うのか?」という視点で考えると、就業規則の中で見直しが必要な項目が分かります。具体的には、対象者、就業場所、服務規律、労働時間管理の方法、通勤手当、費用の負担、通信機器などです。以降で、リモートワークに対応した就業規則のひな型を紹介します。
なお、リモートワークに対応した就業規則を整備する際のポイントについては、次の記事をご確認ください。
2 就業規則本則の委任規定
リモートワークのルールは、就業規則本則、またはリモートワーク規程などの別規程で定めます。分かりやすさで考えれば、就業規則本則に「別規程に定めがあります」との委任規定を設け、詳細はリモートワーク規程で定める方法がお勧めです。委任規定の例は次の通りです。
第〇条(適用範囲)
1)本規則の適用を受ける従業員は、第〇条および第〇条の手続きを経て、会社と期間の定めがない労働契約を交わした従業員とする。
2)期間に定めのある労働契約を交わした短時間勤務従業員は別途定める「パートタイマー就業規則」(省略)の適用を、期間に定めのある労働契約を交わした従業員は別途定める「契約従業員用就業規則」(省略)の適用を受けるものとする。
3)従業員のリモートワークに関する事項については、本規則の他「リモートワーク規程」の定めるところによる。
3 リモートワーク規程のひな型
以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【リモートワーク規程のひな型】
第1章 総則
第1条(目的)
本規程は、従業員がリモートワークで勤務する場合の必要な事項について定める。なお、本規程に定めのない事項は、就業規則の定めるところによる。
第2条(リモートワークの定義)
本規程におけるリモートワークとは、従業員が情報通信機器を利用し、オフィス以外の就業場所で業務に従事することをいう。
第2章 リモートワークの許可・利用
第3条(リモートワークの対象者)
1)本規程においてリモートワークの対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした上で、会社が認めた者とする。
- リモートワークを希望する者
- 雇用形態に関係なく、業務内容、業務遂行能力その他の事情を勘案して会社が適正と認める者
2)リモートワークを希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。
3)会社は、業務上その他の事由により、第2項によるリモートワークの許可をしないことがある。また、取り消すことがある。
4)第2項によりリモートワークの許可を受けた者がリモートワークを行う場合は、前日までに所属長へ利用を届け出なければならない。
5)会社は、災害・感染症その他の事由により特に必要があると認める場合、第1項から第4項の規定にかかわらず、従業員に対してリモートワークを命じることがある。
第4条(リモートワーク時の就業場所)
リモートワークの就業場所は、原則として従業員の自宅とし、それ以外の就業場所を希望する場合は、第3条第2項の許可申請の際に、会社に申し出て許可を得るものとする。なお、騒音が著しい場所、リモートワークに使用する端末が故障・紛失する恐れのある場所、セキュリティ保持に支障をきたす場所、その他リモートワークの実施に支障が生じる恐れのある場所等はリモートワークとしての就業場所に相応しくないため禁止する。
第5条(リモートワーク時の服務規律)
リモートワークに従事する者(以下「リモートワーク勤務者」という。)は就業規則第〇条およびセキュリティガイドラインに定めるものの他、次の各号を遵守しなければならない。
- リモートワークの際に所定の手続きに従って持ち出した会社の情報および作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと
- リモートワーク中は業務に専念すること
- 第1号に定める情報および成果物は紛失、毀損しないように丁寧に取り扱い、セキュリティガイドラインに準じた確実な方法で保管・管理すること
- リモートワーク中は自宅および会社が許可した場所以外の場所で業務を行ってはならないこと
- リモートワークの実施に当たっては、会社情報の取扱いに関し、セキュリティガイドラインおよび関連規程類を遵守すること
- リモートワーク中に事故・トラブルが発生したときは速やかに電話・電子メール・その他適宜の方法で会社に連絡すること
第3章 リモートワーク時の労働時間等
第6条(リモートワーク時の労働時間・休憩時間・休日)
1)リモートワーク時の労働時間・休憩時間・休日については、就業規則第〇条の定めるところによる。
2)リモートワーク勤務者は就業規則第〇条の規定にかかわらず、勤務の開始および終了について次の各号のいずれかの方法により報告しなければならない。
- 電話
- 電子メール
- 勤怠管理ツール
- SNS(LINE等)
3)リモートワーク勤務者は、会社の承認を受けた場合、第1項の規定にかかわらず始業時刻、終業時刻および休憩時間の変更をすることができる。
4)第3項の規定により所定労働時間が短くなる者の給与については、労務提供のなかった時間分に相当する額を控除する。
第7条(時間外および休日労働等)
1)リモートワーク勤務者が時間外労働、休日労働、深夜労働を行う場合は、所定の手続きを経て所属長の許可を受けなければならない。
2)時間外労働、休日労働、深夜労働について必要な事項は、就業規則第〇条の定めるところによる。
3)時間外労働、休日労働、深夜労働については、給与規程第〇条に基づき、時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当を支給する。
第8条(欠勤等)
1)リモートワーク勤務者が、欠勤をし、または勤務時間中に私用のために勤務を一時中断する場合は、事前に申し出て許可を得なくてはならない。ただし、やむを得ない事情で事前に申し出ることができなかった場合は、事後速やかに届け出なければならない。
2)第1項の欠勤、勤務中断の賃金については給与規程第〇条の定めるところによる。
第4章 リモートワーク時の給与等
第9条(給与)
1)リモートワーク勤務者の給与については、給与規程第〇条の定めるところによる。
2)第1項の規定にかかわらず、リモートワーク勤務者に対しては、毎月支給する通勤手当は支給しない。ただし、臨時に通勤が発生する場合は、実際の通勤に要した費用を支給する。
第10条(費用の負担)
1)会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。
2)リモートワークに伴って発生する水道光熱費はリモートワーク勤務者の負担とする。
3)業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。
4)その他の費用についてはリモートワーク勤務者の負担とする。なお、会社は従業員負担軽減のため、給与規程第○条に基づき、リモートワーク手当を支給する。
第11条(情報通信機器・ソフトウエア等の貸与等)
1)会社は、リモートワーク勤務者が業務に必要とするパソコン、プリンター等の情報通信機器、ソフトウエアおよびこれらに類するものを貸与する。なお、当該パソコンに会社の許可を受けずにソフトウエアをインストールしてはならない。
2)会社は、リモートワーク勤務者が所有する機器を利用させることができる。この場合、セキュリティガイドラインを満たした場合に限るものとし、費用については話し合いの上決定するものとする。
第12条(緊急時対応)
リモートワーク勤務中における事故やトラブル発生時には、第5条第6号の規定に従い速やかに会社に連絡を入れるものとする。なお、リモートワーク勤務者は不測の事態が生じた場合に確実に連絡を取れる方法をあらかじめ会社に届け出ておかなければならない。
第13条(災害補償)
リモートワーク勤務者が自宅での業務中に災害に遭ったときは、就業規則第〇条の定めるところによる。
第14条(安全衛生)
1)会社は、リモートワーク勤務者の安全衛生の確保および改善を図るため必要な措置を講ずる。
2)リモートワーク勤務者は、安全衛生に関する法令等を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めなければならない。
第15条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会の承認による。
以上(2021年4月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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画像:ESB Professional-shutterstock