1 昭和な働き方よ、サヨナラ

2020年4月から、働き方改革関連法の大きな柱である法改正が施行されます。いわゆる「同一労働同一賃金」の導入です。非正規社員と正社員との不合理な待遇差を解消するのが狙い。すごくざっくり説明すると、均等・均衡待遇原則に沿って、働き方が同じであれば同一の待遇にしなさい、働き方に違いがあれば、違いに応じてバランスをとって待遇差を解消しなさいということです。

働き方改革は、安倍政権が「一億総活躍社会」を実現するために推進されている改革。一億総活躍社会とは老若男女一人一人の多様な個性を尊重し、社会で活躍できるような社会のことを指しています。戦後から発達してきた日本型雇用慣行では、“働き盛りの男性正社員が長時間労働し、女性は専業主婦として家庭を守る”というスタイルが主流でした。一億総活躍社会を目指すための働き方改革は、「正社員至上主義」や「長時間労働」といった旧来型システムとの決別を意味しています。

2016年9月に安倍首相が「働き方改革実現推進委員会」を立ち上げ、2019年には「残業時間の上限規制」を柱とした労働関連8法案が改正されました。そのラストピースが「同一労働同一賃金」の導入というわけです。

2 職場マネジメントの転換点

働き方が大きく変革していけば、当然のことながら、今までのオトナの常識は通用しなくなります。つまり働き方改革は、日本型雇用慣行が染みついた世代の働き方やマネジメントにも、変化の必要性を突き付けているのです。

そもそも本稿シリーズでは、拙著「なぜ最近の若者は突然辞めるのか」をもとに、職場における若者のトリセツについて解説してきました。「SNS世代の若者」側にフォーカスし、彼らの価値観を理解したうえで1対1コミュニケーションの在り方について示唆してきました。しかし、もはや「最近の若者は……」と眉をひそめている場合ではなく、変わらなければいけないのは自分たちだったりするわけです。

本稿では、「働き方改革」というパラダイムチェンジを余儀なくされる職場の上司が、どうあるべきかを俯瞰(ふかん)的に論じてみましょう。そういった視点から、「昭和なメンタリティ」に改めてフォーカスしてみると、それはそれでオトナの常識にもたくさんの「?」があります。

3 そもそもマネジメントがイケてなかった

自戒の念も含めて客観的に評価すると、日本の管理職(特に大企業のホワイトカラー層)のマネジメントは、そもそもイケてないという事実に直面します。

日本型雇用慣行といわれる雇用システムは、「終身雇用」「年功賃金」「企業内組合」というシステムで成り立っていました。このシステムは、企業と労働者の運命共同体的関係を育んできました。企業側は「うちの会社に就職したら一生安泰」という安心・安定を保障する一方で、労働者側は「雇って(=守って)もらっているわけだから、会社の都合で、なんでもやります。どこでも転勤します」と忠誠を誓う。家族のような絆で結ばれた関係性であることから、メンバーシップ型雇用ともいわれます。家族だから無理も通ります。そこには戦略的なマネジメントもなければ、モチベーションを高めるコミュニケーションも必要ありません。上司からすると、めちゃめちゃ楽な職場です。

その結果、本来必要とされるマネジメントスキルが昭和世代の上司には熟成されませんでした。もっというと、メンバーシップ型雇用の社会は、マネジメント力やコミュニケーション力を磨かなければならないという自覚の芽生えさえも摘んでしまいました。

4 働き方改革は「働き方開国」

昭和世代の上司をめちゃくちゃにこき下ろしているように聞こえるかもしれませんが、グローバルな視点で見ても、日本のマネジメントはかなり楽チンだと言わざるを得ません。

仮に上司が「今週の土曜、出社して課内研修しよう」と提案したとします。昭和の日本では、内心「え?」と思いながらも「分かりました!」と答える部下が大半でした。でもアメリカでは、100%「WHY?」という声が返ってきます。土曜出社する意味や目的をきちんと理解してもらう説明能力が必要になります。「いいからやれ!」と高圧的な要求をしたり、「言われたことしかやらない!」と嘆いたりするのは、グローバルな社会では通用しません。

インドネシアで、現地ワーカーを指揮する日本人マネジャーの研修を手掛ける人材コンサルタントに話を聞いたときのこと。「遅刻せずにちゃんと来い!」と言っても、遅刻の概念から説明しないといけないと教えてくれました。朝の出社定時を2時間以上過ぎてもお昼前に来れば遅刻じゃないと思っているインドネシア人が少なくないからです。

現地でのマネジメントにおいて、特に「物差し」「理由」「メリット」を語ることが重要だと聞いたときに、ピンとくるものがありました。これって、本シリーズで取り上げてきた「今どきの若者」に対峙するのに必要なコミュニケーションに似ていませんか。つまり扱いにくい今どきの若者は、働き手のグローバルスタンダードなんです。ガラパゴス化したこれまでの常識をリセットしてマネジメントを変える。昭和世代の上司にとっては「働き方開国」でもあるのです。

5 働く場所と時間がほどけていく

働き方改革やグローバル化に加え、テクノロジーの進化も職場マネジメントに大きな変化をもたらしています。ソフトバンクが大型投資したことで注目を集めた「WEWORK」は、シェアオフィス事業の寵児(ちょうじ)。ノマドワーカーが集うコワーキングスペースを提供して一気に成長しました。

オフィス機器や通信技術の発達によって、シェアオフィスやサテライトオフィスが広まっています。今までの企業組織は、当然ですが物理的な働く場所でした。しかしわざわざ職場まで行かなくても仕事ができる時代になってきたのです。テクノロジーは、働き手をオフィスから解放しつつあります。

テレワーカーが増えてきたら、会議も面談もオンライン上で行う機会が増えていきます。モニター越しのコミュニケーションになじめない管理職も少なくないでしょう。働きぶりが見えないなかで、どうやってマネジメントすればいいのかと戸惑う声もよく聞きます。

6 ギグワーカー社会

物理的な距離が離れていくだけではありません。今、アメリカでは「ギグワーカー」という働き方が注目を集めています。ギグとは、そもそもジャズやロックのミュージシャンが一晩限りの契約でライブ演奏に参加することを指していました。そこから転じて「ギグワーカー」という言葉が生まれ一般化したようです。

例えば、サラリーマン兼ブロガー兼ウーバーイーツ配達員兼ユーチューバー。こんなふうに、1つの会社に依存せず、1つの仕事にとらわれず、空いた時間を使って複数の仕事をこなしていく働き方です。我々、ツナグ働き方研究所の調査でも、単発バイトをやっている属性のトップは学生ではなくて社会人でした。副業、いや複業が一般化している証です。

こういう流れを後押しするのがインターネットです。先述の「ウーバーイーツ」の募集、テレビCMで知名度を上げたスキマバイトアプリ「タイミー」など、オンライン上でさっくりギグワークが見つかるようになってきました。1DAYワークやスポットワークのマッチングサービスが多く登場したおかげで、会社や職場という境界線がどんどん曖昧になってきています。

7 問われるエンゲージメント

ギグワーカー的な働き方は、いやが上でも一企業組織への帰属意識を弱めます。だからこそ企業側にとっては、従業員の帰属意識を高めていくような取り組みが必要になってきます。そのキーワードが「従業員エンゲージメント」。エンゲージメントとは、従業員の会社に対する愛着心や思い入れといった意味です。このような感情は多くの場合、会社側の努力もあって初めて従業員側に生じるものです。そのためには個人と組織が対等の関係性で、互いの成長に貢献し合うことが肝要だとされています。

つまり帰属意識は、縛り付けるのではなく、むしろさまざまなギグワークを支援することで醸成されていくわけです。さまざまなコミュニティーでの仕事を通して育まれる個人のアイデアや知見を活かしていこうというスタンスが求められているのです。

だとしたら、これからは、他社と人材を共有するくらいの意識でいるほうがよくはないでしょうか。働き手を縛り付けずに、あちこちの壁を乗り越えていってもらい、自社にとっても他社にとっても、いい結果をもたらしてくれる。会社間や職場間を自由に行き交う若者たちを上手にシェアすることが、企業として勝ち残る重要なポイントになるのではないでしょうか。

8 職場のプラットフォーム化

そう考えると令和の職場では、人材を抱え込むのではなく、オープンソースとして共有するスタンスが必要になるでしょう。人材を自社から逃がさないように縛ろうとするのは、全くもってナンセンス。職場がプラットフォームのような構造になっていくと捉える視座が問われるでしょう。

同一労働同一賃金導入によって、一連の働き方改革関連法案が出そろう2020年。法改正というトピックを機に、本稿では日本における働き方の変化について俯瞰的に論じてみました。働き方のスタンダードが変われば、当然ながら職場マネジメントにも変化が求められます。

しかも幾つかの観点を検証してみたところ、時代の流れは、上司が理解しがたいと感じていた若者世代の価値観にフィットしているという事実にたどり着いてしまいました。

冒頭でも述べましたが、「最近の若者は……」と眉をひそめている場合ではなく、変わらなければいけないのは自分たちなのです。

結局のところ、今「働く」に対する価値観が問われているのです。そのパラダイムチェンジこそが、職場マネジメントを円滑にする最大のレバレッジなのではないでしょうか。

以上(2020年2月)
(執筆 平賀充記)

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画像:NDABCREATIVITY-Adobe Stock

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